2007年も残すところ,あと1カ月半。日経BP社のIT系雑誌の名物編集長3人が,2007年の総括と2008年への展望を語った。第3回は,第2回に引き続き,2007年に発行された雑誌のなかで読者の関心を集めた記事から,2007年を総括する。

 ・司会:浅見 直樹(ITpro発行人,写真左)
 ・宮嵜 清志(日経ソリューションビジネス発行人兼編集長,写真左から2番目)
 ・桔梗原 富夫(日経コンピュータ編集長,写真右から2番目)
 ・林 哲史(日経コミュニケーション編集長,写真右)


日経コミュニケーションの林編集長:今後は,システムをより良くするために自ら構築・運用することを選ぶユーザーと,システムの運用・保守は外部に任せてユーザー・インタフェース周りや操作性などの向上に注力するユーザーに2分化していくでしょう。その場合は,後者はSaaS的なアプローチに傾くかもしれません。

司会の浅見発行人:そもそもSaaSとASPの本質的な違いは何なのでしょうか。

:システムを作る側から見ると,システム・インテグレータなどの第三者がSaaS上で動くアプリケーションを,利用者のニーズに合わせてカスタマイズできる点が有利ですね。Salesforce.comはその一例。一方,利用者側から見ると,SaaS事業者を自社のデータを預かってもらう倉庫番として期待する傾向が高まっていくように思います。

日経コンピュータの桔梗原編集長:ASPブームの頃は、データを社外に置くことに対し、ユーザーはかなり抵抗感を持っていました。しかし、個人情報保護法が施行され、情報漏えい対策が大きな課題になったり、あるいは日本版SOX法に対応するために内部統制を強化したり、といった動きが強まるなかで、重要なデータを社内に置くよりは,外部の専門家に任せたほうがよいと考える傾向が強まっているのではないでしょうか。それがSaaSへの流れを加速しているように思います。

日経ソリューションビジネスの宮嵜編集長:Gmailを提供しているGoogleが,ゆくゆくは通信事業者を目指しているという話があります。膨大なコンピュータ・リソースを持つSaaS事業者は,その強みを生かしてどんどんインフラ・ビジネスに乗り出してくるでしょう。

浅見:システムインテグレータは,上得意の顧客に対してはこれまで通りSIビジネスを提供,広く浅く展開するにはSaaSとの組み合わせを提供,という形に分かれていくのでしょうか?

宮嵜:ただ,IT投資を下げるために,パッケージ製品をSaaSに置き換えればよいと考えるのは早計です。メンテナンスや簡単なカスタマイズなど、一般的にパッケージ導入の費用はパッケージ単体価格の時には数倍にもなります。SaaS事業者は基本的にこのすべての料金を月額料金で回収しようとするでしょうから、ユーザー数が少ないSaaSの場合、必ずしもコスト削減にはならないことも起こり得ます。まずはユーザー側が導入の目的をはっきりさせないといけません。

浅見:SaaS事業者にとっても,価格破壊から免れるには,機能やサービスなどの面で高い付加価値を提供し続けることが必要になりそうですね。

宮嵜:広告収入によるビジネスモデルの台頭で,モノやサービスの単価が下落し続けています。これが今後、企業ITのあらゆる分野に影響を与え出すのではないでしょうか。

浅見:企業の中に安価なコンシューマITが入ってくるのは,もう防ぎようがないと言わざるを得ません。水が高いところから低いところへと流れるのは自然の摂理ですから。

:たしかにユーザーの選択肢は広がりました。ただしばらくは,コンシューマITを活用する業務システムと,金融機関に代表されるような,プロプライエタリでも構わない,ハイエンドのミッションクリティカルなシステムが併存する状況が続くと思います。

桔梗原:同感です。日経コンピュータで「続・エンタープライズ2.0」という特集を掲載したのですが、とても読まれました。ユーザー参加型を特徴とするWeb2.0の考えは、ビジネスの世界でも広がっています。外部のWebサービスを組み合わせてシステムを構築する「マッシュアップ」という手法も使われ始めています。例えば、アスクルはグーグルの地図情報のSaaSと自社の配送管理アプリケーションを連携させ、配送状況を地図で知らせるサービスを提供しています。一方で、郵政民営化に伴うシステム刷新の特集も今年反響があった記事ですが、郵貯銀行やかんぽ生命の巨大システムでは相変わらずメインフレームが使われています。

浅見:レガシー・システムからの移行には現場の抵抗もあるでしょう。その意味でも,トップがIT部門のキャリアパスを整備して地位向上を図り,エンジニアのモチベーションを高めるべきです。ひいてはそれが,レガシー・システムからのマイグレーションを促し,「攻め」のシステム投資に向かう推進力になると期待しています。


目次
IT部門こそ会社を変革する重要な部門であるべき 
2007年に読者の関心を集めた記事とは 
価格破壊に打ち勝つには