筆者:小林 陽子氏

みずほ情報総研コンサルティング部コンサルタント。システムアナリスト。企業内人材育成や人事制度設計を中心に,戦略策定などのコンサルティングを展開中。


 第1回第2回でニコニコ動画の場としての特徴を述べ,現在の日本企業がニコニコ動画に着目すべき点を説明してきた。第3回ではこれまでの議論を踏まえた上で,ニコニコ動画に集う「人材」に注目したい。ニコニコ動画に意欲の高い人材が多数集まり,驚くべき生産性ですぐれた作品を生み出している現象に,企業が学ぶべき点は多いはずだ。

意欲を生み出す場としてのニコニコ動画

 まず,図1を見て欲しい。これは現在話題となっている「初音ミク」作品の投稿数をグラフ化したものである。発売後わずか1カ月半で,数千もの作品がニコニコ動画に投稿された。投稿数だけで生産性を語ることはできないが,3次元CGでアニメーションする初音ミクなど,質の高い作品もかなり含まれている。

図1●初音ミク関連作品の投稿数推移   図1●初音ミク関連作品の投稿数推移
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 ニコニコ動画の投稿作品は,多くの“素人”作者によって作られている。中にはプロもいるようだが,彼らにしてもあくまでも“趣味”として動画を作っている。金銭的な見返りを期待せずに,もくもくと作品の作成と改良にいそしむ作者がそこにはいる。作者に励ましやアドバイスを送る観衆も,当然ながら無報酬だ。ニコニコ動画はこのような無私の行為が自然に行われる場なのである。

 ニコニコ動画は,「テレビを一緒に見ているかのような親密さ」と「粘着感のない匿名性」とがミックスされた“ゆるい場”が特徴である。この独特の空気感が,参加意識や共感の高さにつながっていると思われる。“ゆるさ”がある種の信頼関係を育んでおり,短時間の利用でも共感度の高いコミュニケーションを実現している。

 このゆるい場では,すばらしいアイデアや技術を持つ人,生み出された優れた作品などに対して,他の参加者から賞賛が惜しむことなく贈られる。作品を生み出した側も,この無形のリスペクトを糧に次の作品へまたエネルギーを費やす。こうした相互の信頼関係のなかで,「意欲の喚起」が常に行われている。

昔からいた「才能の無駄使い」をする人

 ニコニコ動画ではプロ級の素晴らしい作品に対して,しばしば「才能の無駄遣い」というタグが貼られる。この言葉には,「その才能やエネルギーをもっと別のことに使えば金銭的な利益を得られるかもしれないのに,あえてそれをやらず,好きなことに打ち込む作者は素晴らしい」といったニュアンスが含まれている。

 ここで注目したいのは,「才能の無駄遣い」をする人はニコニコ動画の中で突然現れたのではない,ということだ。実は日本企業では,昔から研究室に泊まり込んで寝食を忘れて開発に熱中したり,業務時間終了後も勝手に居残ってQC活動に取り組んでいたりする社員が多数いた。デジタルカメラやプラズマテレビのように会社非公認のいわゆる「アングラ研究」から生まれた大ヒット商品も数多い。

 ニコニコ動画の成功が改めて証明したのは,“場”への信頼と,周囲からの賞賛・尊敬があればモチベーションは高まり,いくらでも人は「才能の無駄遣い」に没頭できるという事実である。「才能の無駄遣い」「エネルギーの無駄遣い」「専門知識の無駄遣い」といった活動の中から輝く原石を見付け,文字通りの無駄遣いに終わらせず,それを活かすことができれば,魅力的な製品やサービスの開発につながるだろう。

 もちろん「才能の無駄遣い」は仕事以外での活動だからこそ「無駄遣い」できるとの意見もあるだろうし,今は企業で「無駄」な残業が認められる時代ではない。しかし,信頼関係を醸成し,やりがいのある場を職場内に作り,生産性を高めたいと日頃から考えている経営者層にとって,ニコニコ動画で起きている動きには考えさせられる面も多いはずだ。では,どうすればこのような場が生まれるのだろうか。

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