2007年5月7日。連休明けの月曜日、千葉県印西市にある「東日本貯金事務計算センター」で、郵便貯金の勘定系システムが4日ぶりに動き出した。5月4日から6日までの3日間、ATMや窓口による払い戻しなどの取り扱いを休止して、民営化暫定対応のシステムに切り替えたのだ(図1)。

図1●貯金システムの開発スケジュール
図1●貯金システムの開発スケジュール
5月の連休に、先行して切り替えた
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 もし、ここで切り替えに失敗したら、郵便局の窓口端末とATM合計約7万台がストップするだけでなく、民営化のスケジュールにも多大な影響が及ぶ。この勘定系システムは、局ごとの日締め処理の基盤となるからだ。貯金システムを管轄する間瀬理事は、無事にシステムが立ち上がるのを確認してほっと胸をなでおろした。

5月の連休が最後のチャンス

写真1●2007年7月14日に東京・錦糸町駅前郵便局で実施したリハーサル
写真1●2007年7月14日に東京・錦糸町駅前郵便局で実施したリハーサル
リハーサルは、全国2万以上の郵便局などで、7~8月の週末に進めた
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 郵政公社の貯金システムは、富士通や日本IBM、日立製作所、NECのメインフレームを100台近く使う。アプリケーションの規模は5000万ステップ以上。プログラムを入れ替えるだけで「48時間はかかる」(間瀬理事)。前後の切り替え準備作業や、万が一問題が発生したときの対応などを考えると、最低でも3日間はシステムを停止しなければならない。

 そのため、通常は正月3が日を切り替え作業に使う。ここ数年は、5月の連休にシステムを計画停止したことはない。にもかかわらず、どうして今年は5月を選んだのか。実は、暫定対応に伴う修正プログラムを投入するタイミングはこの連休しかなかったのだ。

 07年1月では開発が間に合わない。かといって、5月を逃すと、10月1日の民営・分社化までに3日以上の計画停止は無理だ。平日や土曜日にシステムをストップするのは、顧客への影響を考えると難しい。

 5月に切り替えを済ませれば、前述した郵政民営化法の「附則第三条」対策にもなる。サービスインが5月なら、3月1日までには開発とテストがほぼ完了しているはずだ。民営化の延期を申請するか、それとも10月で問題ないと決めるかを論理的に判断できるわけだ。民営化後に業務を滞りなく進めるのに不可欠な郵便局職員のリハーサルにも、5月の稼働はかせなかった(写真1)。

 10月1日に大規模なプログラム移植作業が不要になるので、移行ミスやプログラムのバグなどによりシステムが全面ダウンするリスクを減らせることにもなる。

法案決定前から準備に着手

 郵政公社が貯金システムの先行稼働を考えたのは、05年10月にプロジェクトが始まるよりも前のことだ。

 当時、問題視されていたのは、開発が間に合うかということだ。暫定対応とはいえ、貯金システムは2万3000人月と膨大な工数の修整作業が必要だ。05年10月に郵政民営化法が成立してから07年10月までは2年間しかない。稼働を5カ月早めると、開発期間は1年7カ月しか確保できなくなる。

 そこで郵政公社は、貯金システムなどに限っては、民営化法案が国会で成立するのを待たずに、法案を前提にした要件分析を始めることにした。郵政公社のIT部門が主体となって、民間企業の会計規則や銀行業法などと郵政公社の現行業務とのフィット・ギャップ分析を進めた。先行稼働に伴って、プロジェクトのスタート時期も早めたのである。

 05年10月に郵政民営化法が成立すると、すぐに勘定系システムの開発を担当するNTTデータなどに、随意契約として暫定対応の開発を発注した。

日締めのトラブルは2週間で収束

 その後は06年1月からプログラムの実装と単体/結合テストに着手。8月からシステムごとに総合テストをこなし、07年1月から貯金システム全体の動作確認テストと、開発はほぼ予定通りに進行した。

 ただし、貯金システムだけ開発を先行すると、財務システムなどネットワークを介して相互接続している別のシステムの開発工程にも影響が及ぶ。そのため、システムの進捗や品質、障害情報、問題点などを集約する「民営化プロジェクト推進室(CPMO)」を発足(図2)。プロジェクト全体の進捗を一元管理できるようにした。

図2●民営・分社化対応プロジェクトの開発体制図
図2●民営・分社化対応プロジェクトの開発体制図
修整が必要な合計63システムの進捗状況などを一元管理する「民営化プロジェクト推進室(CPMO)」を設け、プロジェクト全体の管理強化に努めた

 CPMOの責任者には、郵政公社のシステム開発プロジェクト全体を取り仕切る山下泉理事総裁代理執行役員が着任。その配下に、金融関連のシステムを担う間瀬理事と、郵便などを管轄する吉本理事が並ぶ布陣を敷いた。

 勘定系システムの修整作業は、最重要案件と位置付けて取り組んだだけに、5月の稼働後も大きなトラブルはない。切り替え後にスタートした日締め処理の訓練も、当初こそ勘定が合わない場面が少なくなかったが、次第に作業の精度が上がり、2週間もするとほとんど問題は出なくなった。

 とはいえ10月以降は、3万人月を超える「本格対応」プロジェクトが待ち構えている。旧大和銀行の勘定系システム「NEWTON」を使った全銀システムとの接続対応、旧UFJ銀行の勘定系システムをベースにした融資など新商品の販売システムの構築など、大規模な開発が残っている。

出典:日経コンピュータ 2007年9月17日号 45ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。