特許の中でも,コンピュータ・プログラムを使って実現する発明に与えられる「ビジネスモデル特許」は,ITベンダーにとって特に重要だ。もともと米国で登場したものだが,今では日本でも認知されている。 それに伴い,ビジネスモデル特許を巡る裁判も起きている。

 ネット関連ベンチャー企業のインターナショナルサイエンティフィック(東京都千代田区)は,「インターネットの時限利用課金システム」についての特許を1996年7月に出願,99年6月に取得した。このシステムは,インターネット接続サービスを提供する際に接続時間に上限を付けて課金し,接続時間に応じて接続度数を減算。接続度数が0になるまで接続サービスを提供するものである。

 同社は,ビットキャッシュ(東京都千代田区)が運営しているプリペイド方式のインターネット少額決済システム「BitCash」が,時限利用課金システム特許を侵害しているとして,BitCashの使用を差し止める仮処分命令を求める申し立てを2000年に行った。この裁判で東京地方裁判所は,時限利用課金システム特許の構成要件が次の5つから成ると認定した。すなわち,
(1)クライアントにインターネット接続サービスを提供するターミナルサーバーを備える,
(2)クライアントから入力された個別情報に基づいて接続可否を確認する認証サーバーを備える,
(3)各クライアントの個別情報と利用可能な時間を示す接続度数から構成される認証データを管理する認証データベースを備える,
(4)各クライアントの接続利用時間に合わせて接続料金を計算して接続度数を逐次更新する課金サーバーを備える,
(5)接続度数が0になるまでインターネット接続サービスを提供する,
である。その上で,BitCashがこの5つの構成要件に該当しているかどうかを検討。その結果,「時限利用課金システム特許の構成要件はインターネット接続サービスの課金を前提としているが,BitCashはプリペイド方式のBitCashカードを利用して代金決済を行うもので,利用者はインターネット接続サービス事業者と別途契約する必要がある。構成要件が異なるため,BitCashが特許を侵害しているとは言えない」と判断。仮処分の申し立てを却下した。(東京地方裁判所2000年12月12日決定,判例タイムズ1050号251貢)

 今回と次回は,ビジネス方法に関する特許,いわゆる「ビジネスモデル特許」について説明したい。

 ビジネスモデル特許は,その名前から「ビジネスモデルやビジネス方法一般に与えられる特許」と思っている読者もいるかもしれないが,正確に言うと「コンピュータ・プログラムで具体的に実現可能な発明」に与えられる特許のことである。冒頭に挙げた「時限利用課金システム」特許もプログラムで実現する発明であることから,ビジネスモデル特許と言える。

 このビジネスモデル特許は,ITベンダーにとってはきわめて重要だ。自社が展開するサービスが特許として成立すると,そのサービスへの他社の参入を防げることができ,ビジネス上大きな利益になるからだ。その半面,自社のサービスが他社のビジネスモデル特許を侵害していると判断されると,サービスそのものを見直さざるを得なくなる。

ビジネスモデル特許の歴史

 ビジネスモデル特許は,米国の「ステート・ストリート銀行事件」に端を発する。これは米ステート・ストリート銀行が,米シグネチャー・ファイナンシャル・グループが持つ「ハブ・アンド・スポーク」特許の無効を裁判所に訴えた事件だ。ハブ・アンド・スポーク特許とは,複数の顧客のファンドを組み合わせて資金運用の効率を最適化するシステムに与えられた特許のこと。ステート・ストリート銀行は「ビジネスの方法については特許を与えるべきではない」と主張して,この特許の無効を訴えた。

 この事件で米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は98年7月に,「ビジネスの方法についても『有用,具体的かつ実体的な結果』をもたらす発明は特許の対象となる」と判断し,ステート・ストリート銀行の訴えを退ける判決を下した(連邦控訴裁判所判例集第3集149巻1368頁)。米国では長年にわたり,「ビジネス方法には特許が与えられない」と考えられていたので,この判決は多くの人に新鮮な驚きをもたらした。

 ちょうどインターネット・ビジネスが盛り上がりつつあるタイミングだったこともあって,この判決以降ビジネス方法の特許をビジネスチャンスと捉えた人や,自社のビジネスを防衛したい企業からのビジネス方法特許(business method patent)の出願が急増した。

 例えばステート・ストリート銀行事件の判決が出た98年には米プライスラインの「逆オークション」に関する特許が,翌99年には米アマゾン・ドット・コムの「ワンクリック特許」がそれぞれ成立している。「逆オークション」とは,Webサイトで買い手ができるだけ安い価格で購入できる方法のこと。一定期間多数の売り手に入札してもらい最安値を付けた売り手から購入する。Webサイト上では現在の最安値が常に表示され,売り手はそれよりも安い値段を付けなければならない。一方の「ワンクリック特許」とは,マウスボタンを1回だけ押す操作で商品購入のすべての手続きが終了するシステムに与えられた特許だ。

 これらの特許に関する訴訟が報道されるたびに,米国のみならず日本でもビジネスモデル特許についての関心が高まり,2000年には特許出願件数がピークに達した。なお,「ビジネスモデル特許」は和製英語なので注意して欲しい。

日本でもビジネスモデル特許が成立

 日本でもビジネスモデル特許が成立している。参考のため,日本でビジネスモデル特許が付与された例を表に示す。ビジネスモデル特許の成立が増えるに従い,ビジネスモデル特許に関する訴訟も提起されている。

表●ビジネスモデル特許の例
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表●ビジネスモデル特許の例

 冒頭に挙げた「時限利用課金システム事件」では,裁判所は特許の有効性を前提としつつ,BitCashのシステム構成がこの特許の構成要件と異なることから,「BitCashは特許を侵害していない」と判断した。この判決は,ビジネスモデル特許に関して日本の裁判所が示した初めての判断だ。

 では,そもそもビジネスモデル特許が成立する要件とはどのようなもので,どんなときに特許侵害とみなされるのか。次回に解説したい。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事
出典:日経ITプロフェッショナル 2003年3月号 122ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。