××.co.jpといったドメイン名はインターネット上のアドレスを示すもので,商標でも商号でもない。しかしよく知られた他人の商標や商号をドメイン名として登録するのは違法行為に当たる。では,その法律的根拠はどこにあるのだろうか。

  簡易組み立てトイレの販売業者である有限会社日本海パクトが,1998年にJPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)に「jaccs.co.jp」というドメイン名を登録。インターネット上で使用するとともに,開設したホームページで「JACCS」の表示を用いて営業活動を行っていた。

 JPNICは「先願主義」でドメイン名の登録を受け付けていた(現在は,ドメイン名の登録は日本レジストリサービスが行っている)。日本海パクトは,この制度を利用してドメインを登録していた。

 これに対し,一部上場企業である信販会社のジャックスが,日本海パクトによるドメイン名の使用は,「ジャックス」または「JACCS」という著名な営業表示(商標や商号など商品や営業主体を表示するもの)との“誤認混同”をもたらすので,「不正競争防止法」2条1項1号または2号に違反した「不正競争」に当たるとして,ドメイン名と「JACCS」表示の使用差止請求の訴えを起こした。

 裁判所は,(1)日本海パクトがドメイン名を登録した頃には,既に「JACCS」または「ジャックス」は,ジャックスの営業表示として有名だったこと,(2)日本海パクトはジャックスから金銭を取得する目的でこのドメイン名を登録したこと,(3)日本海パクトのドメイン名は,ジャックスの営業表示と混同されたり,営業表示の価値を減少させる可能性があること――などを認定し,日本海パクトの行為を不正競争防止法2条1号2号に当たる不正競争行為と断定。ドメイン名「jaccs.co.jp」と「JACCS」表示の使用差し止め命令を発した。(富山地裁2002年12月6日判決 判例時報1734号3頁)

 インターネットのドメイン名は,誰でも自由に登録できる。それだけに,ここ数年はドメイン名をめぐるトラブルが目に付く。EC(電子商取引)システムなどのWebベースのシステムを開発する際は,必ずドメイン名がからんでくる。今回は,このドメイン名に対する法律的な扱いを見てみたい。

商標権の侵害にはならない

 インターネットのドメイン名を先に登録して,正当な商標権者に高価に買い取らせたり,営業を妨害したりすることを,英語で「サイバースクワッティング(cybersquatting)」と呼ぶ。冒頭のジャックス事件は,このサイバースクワッティングに対して,日本の裁判所が下した初めての判決である。

 「JACCSのような商標は,商標登録しているはず。商標権(図1)に基づいた差し止め請求ができるのでは」と考える読者がいるかもしれない。しかし,それは正しくない。商標権とは,特許庁に商標を登録する時に指定した商品やサービスについて,商標を独占的に使用できる権利のことだ。これに対しドメイン名は,インターネット上のアドレスを示す記号にすぎず,ドメイン名に対して商標権を主張することはできない。

図1●商標権の概要
図1●商標権の概要

 そこでジャックスは,日本海パクトの行為が不正競争防止法が禁止する「周知の商品・営業表示との混同行為」(2条1項1号)または「著名表示の無断使用」(2条1項2号)に当たるとして差止請求訴訟を起こし,勝訴したわけだ。

不正競争防止法を改正

 ジャックス事件以降に起こったドメイン名を巡る有名な訴訟に,J-フォン事件がある。J-フォン東日本(現ソフトバンクモバイル)が,大行通商(東京都港区)による「j-phone.co.jp」というドメイン名の使用禁止を請求した裁判だ。

 2001年4月24日に出された東京地方裁判所の判決では,「大行通商がドメイン名をJPNICに登録した97年8月の時点で,J-フォンの通信サービスの名称である「J-PHONE」は,商標登録出願こそしていなかったが,新聞,雑誌,テレビによる広告で営業表示として全国的に広く認識されていた」とし,大行通商が「J-PHONE」をドメイン名として登録して営業活動に利用したのは,「著名表示の不正使用」(不正競争防止法2条1項2号)に該当すると判断して,ドメイン名の使用差し止めを命じた(判例時報1755号43貢)。

 ジャックス事件でもJ-フォン事件でも,被告はドメイン名を営業活動に利用していた。この営業活動での利用が不正競争防止法違反と判断されたのである。

 では営業活動には一切使用せずに,他社の商標や商号をドメイン名として登録し,他社が困って「金で買いたい」と申し出てくるのをただ待っている行為はどうだろうか。実は少し前まで,この行為は商品・営業表示混同行為にも著名表示無断使用行為にも当たらなかった。

 この問題に対応するため,不正競争防止法が2001年に改正され,他社の商品やサービスの営業表示をドメイン名(不正競争防止法2条9項に定義)として登録するだけで不正競争に当たることになった(図2)。

図2●ドメイン名の不正取得を禁じた不正競争防止法2条1項12号
図2●ドメイン名の不正取得を禁じた不正競争防止法2条1項12号

裁判外紛争処理の登場

 あなたの会社の名称,あるいはサービスの商標がドメイン名として勝手に登録された場合,どうすればいいだろう。ジャックスやJ-フォンのように裁判所に民事訴訟を起こすのも1つの方法だが,裁判には手間も時間もかかる。

 そこでお勧めしたいのが,JPNICの認定を受けたドメイン名紛争処理機関である「日本知的財産権仲裁センター」の活用だ。

 同センターは,2000年10月から「裁判外紛争処理システム」の運用を開始している。これは,(1)被害者が電子メールと文書で申立手続を開始,(2)登録者が答弁書を提出,(3)裁定人を弁護士と弁理士から指名,(4)裁定人による裁定――という流れになっており,訴訟手続に比べるとはるかに迅速に処理できる。ドメイン名の移転または取り消しの裁定が下った場合は,これに基づいてJPNICから登録の管理業務を移管された日本レジストリサービスが移転・取り消しを行う。こうしたメリットのため利用企業は増えている。ジャックスも裁判の後,同センターに申請してドメイン名移転の裁定を得ている。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事
出典:日経ITプロフェッショナル 2003年1月号 140ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。