Webサイトは,本来「コミュニケーション」を促進させるための仕掛けです。しかし,その制作現場では,しばしば,コミュニケーションが上手く取れない状況に陥ります。今回は,その大まかな傾向をまとめてみたいと思います。

初めに

 Webサイトは,多様な技術が絡み合うほど,表現力が増すほど,その価値が高まるほど,仕様を決めるなどの当たり前のことですら大きな困難を抱える,開発プロジェクトになってしまっています。すべての根にあるのは,コミュニケーションを上手く取れないという点ですが,表面に現れるパターンを十個の型に分けて見てみることにしましょう。

コミュニケーションを阻む10の壁

【01】仕様変更多発型

【キーワード】朝令暮改,一貫性の欠如,担当者の交代,継承性の欠如,気分による決定,影響度が読めない

 Webサイト開発プロジェクトに付きまとう最も典型と言えるものでしょう。前回決めたことが,今回訂正される。前回決められたことを前提にして積み上げてきたものがすべて無駄になる,というタイプです。ほとんどの場合,このタイプは,発注者(クライアント)側による変更が原因でしょう。制作(受注者)側が仕様を変更するのは,技術的に無理だとかそれなりの理由がある場合が多いからです。

 よく聞く原因としては,担当者が気分屋であったり,担当者の交代,あるいは関係部署の足並みをそろえられない点などが挙げられます。一度決定に至った「事」の重要性を理解していないという見方もできます。

 対策としては,一番ハードなモノとしては,一度仕様書を作成した段階(あるいはもっと細かな段階ででも),「確定した」という状況を作ってしまうことが一般的でしょう。例えば,契約そのものを,仕様策定と実装に分けてしまう方法。或いは,区切りの良いところで,関係者全員の「ハンコ」をもらうという方法でしょうか。

 ただし,こうした方法は,良い方向への仕様変更もブロックしてしまうことになりかねません。Webサイトが,インタラクティブになるにしたがって,やはり作ってみないと評価できないという部分が生まれます。この「ブレ」が少ないほど,プロのWeb制作者と呼べるわけですが,この業界はまだ日が浅いうえに,毎回作るものに新たなチャレンジが多く含まれるので,そうそうプロが育つものでもありません。

 また,ハンコを押して進んでいくというのも,正直余り楽しい仕事のやり方とは言えません。どこか相手を信じていない雰囲気が漂ってしまいます。

 ですので,本当の対策とは,「朝令暮改」などが起こらないように,規則ではなく,論理的に発注者にも理解してもらって進むことなのだと思います。なぜ,このボタンの形がこうなのか,なぜこの色なのか,などをキチンと理解しながら進んでいけたとしたら,無下に色を変えたりするようなことは起きにくくなります。手順を踏んで開発を進めていく,「ワークフロー」が重視されるのは,こうした側面があります。

【02】コスト/時間感覚欠如型

【キーワード】試作にかかるコストへの不理解,全体スケジュールに対する意識の希薄さ,徹夜受容型開発...

 Webサイト開発は,まだ見ぬものを作り上げていく作業に他なりません。特に,インタラクションの多いRIA(Rich Internet Application)系のものでは,頭の中でかなりモノを想像し合って開発を進めます。この脳内想像力の点で,受発注する側に「ミスマッチ」が存在すると,よくこのタイプの障害が発生します。

 実際に動くモノを見るまで判断ができないという理屈で,試作を繰り返させられるケースです。更に最悪のケースとしては,最終完成形と同じ品質を求められたりする場合があります。試作に限らず,デザイン案を多数要求されるような場合もこれに含まれるでしょう。

 例えば,「橋」のような建築物を考えて見ましょう。大きな橋になれば,それなりの模型も作り,出来上がりのイメージを皆で共有することはあります。しかし,Webサイトの場合,その「模型」に当たるものは,そのまま「本物」になってしまうのです。ブラウザ上で正しく動作するものは,バグの程度を除けば,限りなく「本物」です。

 したがって極論すれば,試作を多量に要求するWeb開発は,一つの予算で複数のサイトを作らせているのと変わりがないのです。実際,プロのWeb制作者であるほどに,試作であろうと,手を抜くことができません。そして,渾身の作品が複数ならんでいる場合,そのどちらかを選べと言うほうが無理であることも多々あります。

 決めるために試作という工程を用意するのに,それが決めきれない結果になる。そのために更に精度のよい高品質な試作を要求する場合もあるでしょう。そして,その結果,更にスケジュールは圧迫されます。試作に充分な時間を与えられる場合は稀でしょうから,過負荷な状態のまま最終開発までなだれ込む確率も高くなりがちです。これは根本的に,モノ作りに対する視線が異なっていると言っても良いのかもしれません。

 こうした事態を避けるにはどうすれば良いのか。受発注者の間で,どこまでの説明があれば納得できるかの線が引ければ良いのです。制作側は,正しく想像してもらう手順を明確に示し,正しく説明をする。発注者は,最低限の説明で想像ができるだけの学習をする。

 初めての仕事の場合で,これを達成するのが難しいところです。しかし,それをするのがプロであり,この着地点を探り合うプロセスを省略するのであれば,一回限りの仕事ではなく,長年にわたって付き合える「パートナー」としてお互いを扱うという方法もあります。

【03】相互不理解型

【キーワード】仕様書が読めない,説明責任の怠慢,歩み寄りのなさ,あいまいな契約,思い込み,進ちょく管理欠如

 コスト感覚だけでなく,Webプロジェクト全体に関して「ミスマッチ」がある場合,このケースになるのだと思います。例えば,そのWebサイト開発プロジェクトの意味するところや,お互いにやってくれるだろうと思う範囲に差異があり,それがかなり大きい場合です。

 Webサイトは,業種を問わずに必要とされるモノになってきていますから,業種的に常識とされる部分が,暗黙の内に求められたりすることもあります。「これ位はサービスでやってくれるだろう」とか「これ位の頻度で足を運んでくれるだろう」,などなど。制作サイドとしても,「これ位の仕様書は理解できるだろう」とか,「Web界の常識をこれ位はわかってもらえているだろう」,などなど。

 プロジェクト開始時は,お互い紳士的な対応をするのが通常です。しかし,どこかでボタンの掛け違いに気がついたあたりから,物事を決める態度が硬直化していきます。歩み寄りがなく,ただ互いの負荷が増すだけのような,ドキュメント多量化などを経て,こじれていく場合があります

 プロジェクトの「終わり」方に,それが出る場合も多いです。制作者側から言わせれば,いつまでも半分拘束されているような,手離れの悪さを感じることもあります。

 こうした誤解が生まれないためには,地道な話し合いしかないように思います。どこまでが,どちらの仕事であるのかを明確に線を引き,それ以上のことは別契約(別プロジェクト)で展開して行くというようなことを,当初からやっておく必要があります。

【04】決定先延ばし型

【キーワード】権限のなさ,時間の浪費,たらい回し決議,担当者の多忙,責任者の不在,民主的合議制幻想

 おそらくWeb制作者にとって,一番辛いのは時間を拘束されることです。しかも,それが「開発」そのものに直結していない場合なら,なおさらです。つまり,待たされることです。

 Web制作者が社会的に評価されにくい遠因になっていると思うのですが,Web制作には「ノリ」のようなものが存在します。制作者は,自らテンションを高めて,ノリの良い状態を作り上げ,短期間に集中して自分の仕事を完成させていく傾向があります。ユーザーの身になり,発注者の身になり,可能な限り使いやすいものを作り上げる。その工程は,実は緻密なのですが,短期間のものが多いと思います。「待たされる」ことは,この品質を奪います。ハイテンションそのものを長期間持続させることが難しいのでしょう。

 「待たせる」側には,理由があります。担当者に権限がなかったり,他部署と連携しないとならなかったり,もしかしたら担当者がWeb専属ではないかもしれません。しかし,理由が何であっても,外部のWeb制作者をまきこんで(本質的にはインハウスで制作する場合も同じですが),Webサイトを作ろうとするならば,物事を決めていく体制を作るのが必須であり,礼儀であるとも言えます。

 Webサイトは,何かしらの問題解決のための道具です。知名度を上げたいとか,労力を減らしたいとか,様々な「問題」に対する具体的な「解決策」です。それを作り上げるためには,幾つもの小さな「決定」を積み重ねる必要があります。

 「権限」を現場に,という話はずいぶん前から言われていることです。何かを決めていく体制作りこそが,Webサイト開発に着手する前にすべきことなのでしょう。そもそも,Webはそうした「決定」を,広く伝えるために存在しているものなのですから。

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