多くの中堅・中小企業は、ソリューションプロバイダに不信を抱いている。システムの提案内容だけでなく経営者に不安を抱かせないようにする姿勢こそ、受注獲得の決め手になる。そのためにも、まずは相手の身の丈に合った最小限のIT化を提案すべきだろう。

 筆者は経営とITのコンサルタントとして中堅・中小の特に製造業の経営者と話をする機会が多い。このとき、どの経営者も一口で言えばIT化に懐疑的である。「君、ITでは儲からんよ!」が口癖と言っても過言ではない。日頃、よく聞く話をまとめると図1のようになる。ほとんどは中堅・中小ユーザーとソリューションプロバイダのコミュニケーション不足に原因があるようだ。まずは実際の事例から、1つずつひも解いてみよう。

図●中堅・中小ユーザーの社長は、こう思っている
図●中堅・中小ユーザーの社長は、こう思っている
実際にコンサルティングで聞いた社長の感想である

「システムでどうなるのかを聞いているのに…」

 愛知県のG社(金属加工業)を訪問したとき、こんなケースに遭遇した。G社には、あるパッケージベンダーが生産管理システムを売り込みに来ていた。単工程の下請加工が主体の同社は、受注=生産計画、材料は親会社から支給され、製品在庫は持たずに生産=納入という形態である。ITインフラもほとんどなく、主に親会社との受発注用として、わずかなパソコンが設置されている程度だった。

 納期遅れが平均3週間と常態化している同社の経営者は、「生産管理システムがあれば納期遅れがなくなる」と信じてパッケージベンダーの話を聞く気になっていたが、実際に同社のニーズに応えることは至難であると思われた。私が訪問したとき、パッケージベンダーの営業やSEが既に3時間もソフトの説明をしていたが、どうやら話はすれ違いのようだった。SEは熱心にパッケージの機能と性能を繰り返し説明するのだが、経営者はそんなことよりも納期遅れがどれだけ減るのか、生産性がどれだけ上がるのか、について聞きたいのだ。つまり、「システムで何ができるか」ではなく「システムでどうなるか」を求められていることを、営業もSEも気付いていなかったのである。

 中堅・中小ユーザーとソリューションプロバイダの溝を象徴したケースもある。兵庫県のA社(食品メーカー)では、コンサルティングに入ってシステム要件も決まり、発注の運びとなった。この案件はLANの設置費用、複合機の新規購入、他社製パッケージソフトなどすべてが1つのIT化投資であり、A社は発注先のソリューションプロバイダに対し、くれぐれも「すべての案件をまとめて提出せよ」と注意していた。だが、持ってきた見積書は自社扱いのパッケージソフトとアドオン部分のみであった。自社に関係がないとの理由は通じないし、SEもIT化の“コンサルタント”である。名刺には「SI登録・認定事業者」とある。なぜ、こんな簡単なことをソリューションプロバイダは聞いてくれないのか。こうした点も、中堅・中小ユーザーに不信を抱かせる原因である。

「なぜ、こんな馬鹿な投資をしたのだろう」

 それまでパソコンしか購入したことのない大阪府のM社(射出成型業)は、システム導入までの作業手順に不案内だった。このため経営者は、射出成型機と同様にシステムも導入すると1週間もあれば稼働するとばく然と思っていた。しかし、実際は要件定義やシステム設計、ソフト開発、マスターデータの準備、テストや業務改善など1つひとつが、それなりの時間と工数を要する。実際、簡単な在庫管理システムのパッケージがきちんと稼働するまでに約半年もかかった。

 システム導入に対する全工程を事前に説明しないと、稼働するまでに経営者は後悔し始める。3カ月もたつと「なぜこんな馬鹿な投資をしたのだろう」と悩み、半年たっても成果が見えてこない場合は失敗と決め付けるケースが多いようだ。

 こんなケースもある。東京都の製茶業B社は、やっとシステム稼働にこぎつけた。しかし「紙」の使用量がなかなか減らない。以前は裏紙まで使ってコスト削減に取り組んでいたのに、複合機は裏紙が使えないようだった。紙が減らないばかりか、システム構築でソフトやハードの保守料、ネットワーク費用が新たに加わった。システム運用の人件費が0.7人分、サプライ用品の費用も必要だ。販売管理費も、リース代以外に月間40万円程度に増えそう。年間で数百万円の営業利益、毎月で500万円程度の販売管理費の規模の中堅・中小ユーザーにとって、これは痛かった。「何のためにシステム化したのか。事前に詳しく分析しなかったことが最大の原因だが、リスクを正しく指摘しないソリューションプロバイダの責任はどうなのか」。B社の経営者は納得がいかないだろう。

 このほかシステムには、様々なリスクが潜む。落雷やシステムダウン、ミスデータの訂正、マスター更新もれ、担当者の欠勤、データを間違って消去してしまうなどである。原因はいろいろでも、経営者には「IT化でひどい目に遭った」ことしか記憶に残らない。システム担当者ではないから当たり前である。コンサルティングをしていて、このようなケースの意見を求められこともあるが、システムのぜい弱性と被害の増幅性を考えた事前対応がおろそかだったと結論付けざるを得ない場合が意外に多い。

ちょっとした質問なのに満足な回答がない

 中堅・中小ユーザーに不信を抱かせるタネはまだある。ようやくシステム開発に入り、気になったことを電子メールや電話で問い合わせるが担当SEがなかなかつかまらない、といった場合だ。相手に伝言をお願いすると、2時間後にやっと連絡がついた。こちらの言い方が悪いのか、ピントの外れた回答と面倒くさそうな電話応対に、さらに不安が増大する。経営者も、自社の重要な案件を抱えており、担当SEに何度も連絡する時間はない。多額のIT投資をしたのに、システム導入が終わってしまうと、手のひらを返したような態度になるソリューションプロバイダもあるようだ。もちろん、担当SEによっては一生懸命に対応してくれる場合も多い。なぜ、こうしたSEの態度を許しているソリューションプロバイダがあるのだろうか。

 「コピー機や自動車の営業でも半年に一度ぐらいは顔を出すものだが、ソリューションプロバイダはそうではないようだ」と語る経営者もいた。「日本が誇る工業製品でも定期点検が当たり前なのに、手作りのシステムでは、納入した製品の品質にもっと注意と愛情を注ぐべきではないだろうか」というわけだ。これでは、ソリューションプロバイダの営業は中堅・中小ユーザーを甘く見ているのではないか、と思われても仕方がないだろう。

 SEは専門用語で煙に巻くのでは、といった不安感もある。「最新バージョンは3層構造のアプリケーションとなっております。データベース層とアプリケーション層を分離することにより、完全Web対応、多言語対応、複数の生産拠点、営業拠点で発生するデータの一元管理が可能となります。また、ビジネスオブジェクトがコンポーネント化されております」。某社の経営者に向かって、弁舌さわやかに自社製品の説明を続ける営業を横目に、筆者は首を傾げざるを得なかったことがある。お客様に理解してもらって初めて共感を得ることができるのに、せっかくの製品がこれでは台無しではないだろうか。

 しかも「システム変更に思ったよりカネがかかる」ということで経営者の不安は頂点に達する。例えば、当初考えていただけのデータでは不十分で、この画面(帳票)に項目を追加すればもっと合理化できるのでは、などと後で気付く場合が多い。10万円程度で何とかなるだろうと見積もっても、予想を大きく上回ることもある。システムの変更や機能拡張以外にも、他部門にシステムを広げたり、次期計画の着手となるとさらに費用が膨らむだろう。保守の範囲、システムの償却期間に合わせた拡張計画など、ソリューションプロバイダ側で、どこまで配慮しているのだろうか。

ITベンダーが「IT嫌い」を作る

 筆者は、ITを活用していると評価できる中堅・中小企業は、ほぼ5社に1社ぐらいと考えている。ITを企業の業績向上に生かしているのは10%に満たないのではないか。は筆者が考えた企業のIT活用度やレベルを、一覧表にしたものだ。中堅・中小ユーザーに対するソリューションは、相手のIT環境に応じて提案していくべきだろう。いきなり高いレベルの提案をしても使いこなせないし、無駄な投資になるだけである。ソリューションプロバイダは、相手のコアビジネスを見極め、身の丈に合った最小限のIT投資を誘導すべきであろう。市場乱獲の結果、中堅・中小ユーザーのITリテラシーを育てていくべきソリューションプロバイダ自身が、経営者の「IT嫌い」を醸成したと言わざるを得ない。ITを活用して「儲け」につなげるのは経営者の責任であるが、ソリューション提供を自認するIT業界の責任でもある。提案内容はもちろんだが、経営者に不安を抱かせないようにする姿勢こそ、受注獲得の決め手になるのである。

表●企業のIT化成熟度(北村版)
表●企業のIT化成熟度(北村版)
各ユーザー企業ごとの状況を考慮して提案する必要がある
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北村 友博 ピークコンサルティンググループ代表取締役/技術士(情報工学)、ITコーディネータ
大手機械メーカーのSE、プロジェクトマネジャー、システム部門長を経て、コンサルティング会社を設立。経営とITに関するコンサルティングを展開中

出典:日経ソリューションビジネス 2006年4月30日号 64ページより
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