利益を最大にするためにはどの製品をどれだけ作ればいいか,競合企業との競争に勝つにはどの戦略を選ぶべきか,などの問題を勘に頼って判断する経営者は少なくない。だがITエンジニアならば,問題を定量的に捉えて,科学的に解決策を探る「OR(オペレーションズ・リサーチ)」を駆使して欲しい。

 もしも,あなたが懇意にしている中小企業の社長から,「うちもそろそろ情報システムを経営戦略の立案に活用したいんだ。どんな使い方があるか提案してくれないか」と相談されたらどうするだろうか。「経営戦略の立案は,今まで通り社長の判断に頼るのが一番ですよ。私はただのSEですから何の役にも立ちません」と言って,逃げ出すしかないのだろうか。

 いや,そんなことはない。たとえ経営戦略の立案のように難解な問題であっても,経営を取り巻く状況を定量的に捉えて,科学的に分析することで,判断の材料を導き出す方法がある。そのための技法が「OR(オペレーションズ・リサーチ)」だ。

 優秀な戦略コンサルタントは,様々なOR技法を駆使して,経営戦略立案のための豊富な判断材料を用意する。そこで今回は,第一線のITエンジニアならばぜひとも知っておきたい定番のOR技法を紹介する。“ORらしい”アプローチとは何かをつかんでいただきたい。

ORは「勘」を定量化するもの

 ORの起源は,今から60年ほど前の第2次世界大戦中にさかのぼる。米英国の工学者,経営学者,心理学者らが協力して,軍事戦略上の問題を解決するための技法を研究したのが始まりだ。そこで使われた言葉が,「OR:Operations Research(軍事戦略研究)」である。戦後になると,ORは軍事戦略だけでなく,企業において経営上の様々な問題を解決する技法としても採用されるようになった

 軍事戦略も経営戦略も,従来は人間の「勘」によって意思決定される世界だった。ORの意義は,勘に頼っていたそれらの問題を数学的にモデル化して解決することにある。

 ORによって理論上の最適解が得られたならば,それを戦略上の判断材料にできる。もちろん,最終的な意思決定には,ORだけでなく人間の勘が少なからず加味されるだろう。しかし,すべてを勘に頼っている戦略よりは,よい結果を得られるはずだ。

 OR技法の共通点は,次の手順を踏むことである。すなわち,(1)問題の目的を明確にする,(2)問題をモデル化する,(3)数学的な手法で最適解を得る――だ。経営戦略上の意思決定にかかわる問題であれば,どんな問題であってもORの対象となり得る。ORは非常に幅広い問題解決技法なのだ。

 OR技法には様々な種類がある。その中から定番とも言える代表的なOR技法を表1に示した。もちろん問題を解決するOR技法がたった1つだけとは限らない。表では,問題を解決するための最も標準的な技法を挙げている。以下では,「配分問題」,「待ち行列問題」,「競争問題」という3つの問題を取り上げ,それらを解決する「線形計画法」,「待ち行列理論」,「ゲーム理論」というOR技法を詳しく見ていく。

表1●OR技法を利用できる主な例
表1●OR技法を利用できる主な例
これまで「勘」や「経験」に頼って意思決定されていた問題の多くは,OR技法を利用して解決できる
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最適な組み合わせ比率を考える

 配分問題とは,「複数ある商品をどのような比率で生産すれば,利益が最大になるか」という問題である。「生産によって得られる利益を最大にする」という目的を果たすために,「与えられた条件を1次関数で表したグラフ」をモデルとして用いる。線形計画法(LP:Linear Programming)は,一次関数(一次不等式)で表される制約式の範囲内で目的となる関数の最大値や最小値を求めるOR技法のことだ。1次関数は直線になるので,「線形」という名前が付いている。以下で,身近な例を通して配分問題を考えてみよう。

●配分問題の例
ある菓子屋では,「どら焼き」と「大福」を組み合わせて箱詰めにし,それぞれXセット,Yセットとして販売することになった。Xセットはどら焼き6個と大福2個,Yセットはどら焼き3個と大福4個の組み合わせで,1セット当たりの利益はXセットが600円,Yセットが400円である。設備の都合上,1日当たりの最大生産数は,どら焼き360個,大福240個に限られる。さて,すべての商品を売り切るとした場合,1日の利益を最大にするには,それぞれ何箱ずつ作ればよいか(図1)。
図1●配分問題の例
図1●配分問題の例
利益を最大にする最適な組み合わせを考える

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