コンピュータのプログラムは,著作物として著作権法で保護されている。他社が開発したプログラムを自分のプログラムに組み込むと,著作権侵害で訴えられることになる。では他社のプログラムを解析して新たなプログラムを作ることはどうか。その答えも含めて,著作権法の基本を解説する。

  ゲームメーカーのタイトーが,同社が開発したゲーム機「スペース・インベーダー・パートII」の著作権が侵害されたとして,アイ・エヌ・ジ・エンタープライゼズに対して損害賠償を請求した。タイトーは,アセンブリ言語で開発したソース・コードを機械語のオブジェクト・コードにコンパイルしてROMに格納していた。アイ・エヌ・ジ・エンタープライゼズは,スペース・インベーダー・パートIIのROM中のオブジェクト・コードをコピーして別のROMに書き込み,そのROMを搭載した基板を販売していた。

 被告側は「プログラムは著作物ではないので著作権侵害は成立しない」と主張したが,裁判所は,「ソース・コードは作成者の論理的思考が必要とされ,かつ個別的な相違が生じるものであるため,著作権法上保護される著作物である」と判断。その上で,「ソース・コードの複製物に当たるオブジェクト・コードをコピーすることは,ソース・コードの著作権を侵害したことになる」と認定。被告に損害賠償を命じた。(東京地方裁判所1982年12月6日判決,判例時報1060号18頁)

 20年以上前の古い判決だが,この判決は,今でも重要な意味を持っている。というのも,コンピュータのプログラムを著作権法上の著作物と初めて認めた,画期的な判決だからだ。プログラムが著作物であることを明記した3年後の著作権法改正にも大きな影響を与えたし,この判決以降,プログラムが著作物として著作権法で保護されることが常識となった。

 もちろん,ビデオゲームのプログラムだけではなく,企業情報システムやパッケージ・ソフトなど,すべてのプログラムが著作権法で保護される。著作権フリーと確認できるプログラムを除き,他人が開発したプログラムの一部を自分のプログラムに取り込む行為は著作権侵害となるので,絶対に避けなければならない。

著作権は「著作財産権」を指す

 著作権法とは,著作者の権利(著作権)を保護する法律である。著作権は,著作物の作成と同時に成立する。官庁などへの届け出や登録などの手続きは一切必要ない。これを法律用語で「無方式主義」と呼ぶ。

 個人が作成した著作物に関する著作権の保護期間は,作成した時点から著作者の死後50年まで。企業に所属する者が作成した著作物(これを「職務著作」,と呼ぶ)の著作権は,企業に帰属保護期間は公表または作成後50年だ。なお映画は70年間保護される。

 著作権は,法律的には2種類の権利から構成される。1つは,「著作者人格権」。もう1つは「著作財産権」である。著作者人格権とは,「著作物を公表するかしないかを決める権利」(公表権)や「著作物に実名やペンネームを表示するかしないかを決める権利」(氏名表示権),「著作物とそのタイトルの同一性を保持する権利」(同一性保持権)といった著作者本人の「人格」に関する利益を保護する権利のことだ。この権利は他人には譲渡できない。これに対して著作財産権とは,著作物から生じる「財産」を保護する権利のことで,これは他人に譲渡することができる。単に「著作権」と言うときは,一般にこの著作財産権を意味する。

最も重要な権利は複製権

図1●著作財産権の種類
図1●著作財産権の種類

 著作財産権は,様々な権利から成り立っている。例えば,「著作者が著作物を独占的に複製できる権利」(複製権)や「独占的に(放送やインターネットなどで)送信できる権利」(公衆送信権)などだ(図1)。

 この中で最も基本的な権利は複製権である。実際,著作権に関する裁判で最も多いのが,この複製権の侵害に関するものだ。ソフトウエアの場合,プログラムの無断コピーに当たる。契約で認められていない限り,企業内で勝手にコピーするのはすべて違法行為である。

 もし,他人が開発したプログラムを無断でコピーすると,著作者から販売・頒布の停止や廃棄を求める「差し止め請求」を受けるだけではなく,そのために被った損害賠償を請求される。「複製権を侵害しているという認識を持って故意にコピーした」と疑われれば,著作権侵害罪として刑事告訴されることもある。

図2●公衆送信権に含まれる権利の種類
図2●公衆送信権に含まれる権利の種類

 公衆送信権も,インターネット時代になり,誰もが情報を発信できるようになったため,重要性が高まっている。他人が作成したプログラムやコンテンツを無断でホームページ上に公開するのは,公衆送信権の1つである「送信可能化権」(図2)の侵害に当たるため,違法行為となる。


逆アセンブルは違法

 企業情報システムやパッケージ・ソフトは,通常オブジェクト・コードの形式で提供される。このオブジェクト・コードを逆アセンブルしてソース・コード形式にするなどして分析することを,「リバース・エンジニアリング」と呼ぶことは読者もご存じだろう。では,この行為は著作権侵害になるのだろうか?

 日本では判例がないためグレーゾーンとする見方もあるが,筆者は「イエス」と考えている。冒頭のスペース・インベーダー・パート!)事件の判決では,「ソース・コードが著作物で,オブジェクト・コードはその複製物に当たる」と判断していた。リバース・エンジニアリングの場合もこれと同じことが言える。リバース・エンジニアリングで生成されるソース・コードは,正式にライセンスを受けたオブジェクト・コードの複製物と考えられるので,勝手にソース・コードを生成するのは,複製権の侵害と見なすことができるのだ。欧米でも,リバース・エンジニアリングは違法とする考え方が強い。

 ただし例外もある。相互接続用のインタフェース情報が提供されていないパッケージ・ソフトについては,接続部分の解析用途に限りリバース・エンジニアリングは許される,とするのが一般的だ。

 それでは,プログラムで表示される画面に関してはどうだろう。現在では,プログラムと画面表示は,それぞれ別の著作物と考えるのが普通だ。画面表示(動画,静止画,ユーザー・インタフェースなど)も,自分のプログラムに取り込まないよう,注意しなければならない。データベースも,創作性のあるものについては,著作物として保護される。

 次回は,ソフト開発における著作権の帰属について解説したい。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事

出典:日経ITプロフェッショナル 2002年8月号 132ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。