日経コンピュータ,2001年11月5日号の記事を原則としてそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいているため、社名や登場人物の肩書きを含め現在とは変わっていますが、次世代のシステム開発を考えるために有益な情報であることは変わりません。

「これからの10年の変化は過去20年を上回る。デバイス中心の発想は終わり,ユーザー中心のコンピューティング・スタイルが生まれる」。米マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏はこう断言する。「タブレット型パソコンをはじめとする新しい情報機器の普及によって,人々は欲しい情報を自由に入手できるようになる」と予測する。一方で,ゲイツ氏はセキュリティ問題やオープンソース運動にも言及。セキュリティ問題にはマイクロソフトとして最優先で取り組む意向も明らかにした。(聞き手は古沢 美行)

2001年からの10年間で,インターネットの登場と同じくらい大きな変化が起こるでしょうか。

写真●米マイクロソフト 会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクト ビル・ゲイツ氏
写真●米マイクロソフト 会長兼チーフ・ソフトウエア・アーキテクト
ビル・ゲイツ氏

写真撮影:尾寺 豊

 今後10年間の変化は,これまでの20年間よりもっと劇的なものです。

 話した内容や手書きのメモがすべてインターネットに載ります。本も音楽も,写真やビデオもすべてデジタル化されてインターネット上に置かれるようになります。こうしたことが一般的になれば,人々は欲しい情報を自由に入手できるようになるのです。

 これを当たり前の変化とは思わないでください。こうしたことが実現するまでには,実は多くの創意と工夫が必要なのです。

どのような創意工夫ですか。

 21世紀に入っての3,4年は,タブレットPC(本誌注:マイクロソフトが提唱する新しい情報機器のコンセプト。A4判サイズ程度の大きさで,キーボードは備えない。2001年内の出荷が予定されている)が重要な意味をもつことになります。タブレットPCの表示装置は液晶です。ペンを使ってデータや注釈を書き込んだり,操作します。

 私はこれまでもタブレット型パソコンの熱心な信奉者でした。ペン入力のブームがすたれたときも,開発リソースを増強し続けました。「タブレット型は使い物になる」と人々が認めるまで,あと一歩です。

 タブレットPCが広く使われるようになるころには,製品サイズのバリエーションも増えるでしょう。例えばオフィスで使われるのは,画面がもっと大きな製品になります。

 将来のパソコンはカラー液晶画面のサイズが大きな特徴になると思います。ポケット・サイズからタブレット・サイズ,卓上サイズ,壁面サイズにいたるまで,いろいろな大きさのカラー液晶画面を備えるパソコンが揃うことになるでしょう。

 音声によるコマンド入力で,家庭内のさまざまな場所に設置したディスプレイに情報を表示できるようになれば,家庭におけるパソコンは,ある意味で消滅するかもしれません。画面を除く,パソコン本体は複数のパーツに解体され,ほとんど目に触れることはなくなるでしょう。

パソコンよりも小型の情報機器が普及すると,今のパソコンはどんな役割を果たすことになりますか。

 パソコンは,ひと言でいえば“フル・スクリーン装置”です。人間の視覚に訴えるという意味において,(今の)パソコンは主要な役割を果たし続けます。家庭で使うのであれば大きな画面のほうが使いやすいですからね。

 小さい画面を使うのは,特別な場合に限られるかもしれません。でも,重要な役割を果たします。パソコンが手元になくて何らかの緊急事態が発生した場合でも,小さな画面の装置が手元にあればメッセージを受け取ることができます。

“夢”がモチベーションを維持した

チーフ・ソフトウエア・アーキテクトという立場で,現在最も力を入れている仕事は何でしょうか。

 「電話,ボイス・メール,複数の電子メール・アドレス,インスタント・メッセージングなどといったさまざまなメディアを統一し,もっと簡単で強力なものにするにはどうすればいいのか」。私の仕事の多くは,こうしたシナリオから始まります。

 なかには,XMLのような形の革新的な技術から始まるものもあります。「マイクロソフトがXMLを標準として推進し,製品の中心に据えるにはどうすべきか」を考え,開発担当者と会って技術開発を推進します。顧客やITベンダーを訪れて議論したり,橋渡しに手を貸したりもします。その上で,製品開発グループに技術を導入して,実際の製品にします。

 私がプロジェクトに直接参加したのはずいぶん前のことです。最後のプロジェクトはPC-8201(本誌注:NECが1983年に発表したハンドヘルド・コンピュータ。A4判サイズで重さ1.7kg。液晶画面は240×64ドット表示)用のBASICだったはずです。32Kバイトのコードが完全に頭のなかに入っていましたよ(笑)。

 もちろん,今はそんなことはできません。その代わり,今の私には別の仕事があります。1000人の技術者を動員して,私のアイデアを実現させることです。

 プログラムのあらゆる部分の品質を自分が管理するという“純粋さ”はもうあきらめなくてはなりません。でも,今の立場もなかなか面白いものです。

これまでの25年間をずっと第一線で過ごしてこられたわけですが,常にモチベーションを失わなかった秘けつは何ですか。

 私にとってモチベーションの維持は,それほど難しいことではありませんでした。我々にはパソコンという夢,グラフィカル・ユーザー・インタフェースという夢,リッチ(rich)な通信という夢があったからです。

 途中で数多くの間違いを犯しました。ユーザーから「難しすぎる」とか,「セキュリティのことをよく考えていない」といった指摘もたくさん頂戴しました。我々のもとにはプラスだけでなく,マイナスのフィードバックが大量に届きます。我々は,こうした声にきちんと答えていかなければならないと考えています。

 毎日,非常に面白く仕事をしています。優秀な人々とともに働き,困難な問題に取り組んでいます。

 この業界は,常に変化し続けています。私は,研究サイドと,ビジネス・サイドの両方からその様子を見られることにとても満足しています。そうした中で,何人もの従業員が本当にすばらしい開発をしたり,偉大なマネジャやリーダーが誕生するのを見てきました。

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