日経コンピュータ,2005年9月19日号の記事を原則としてそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいているため、社名や登場人物の肩書きを含め現在は状況が変わっていることがありますが、次世代のシステム開発を考えるために有益な情報であることは変わりません。

ここ数年、一気に注目を集めたEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)。だが、一方で、「どこから着手してよいか分からない」、「効果が見えにくい」といった声も絶えない。だが、EAの提唱者であるジョン・ザックマン氏は、こうした懐疑的な見方を一蹴する。「やり方が間違っていてもよいから、まずはEAの策定に着手せよ」と力説する。

EAの概念とその重要性は、日本でも浸透してきました。しかし、いざ実践となると、躊躇している企業も多いのが実情です。米国ではいかがですか。

写真●ZIFA 代表 ジョン・ザックマン氏
写真●ZIFA 代表
ジョン・ザックマン氏

写真:厚川 千恵子

 米国でも状況は似たようなものです。確かに米国では、日本よりもひと足早くEAに注目が集まりました。1996年に法律(本誌注:Clinger- Cohen Act=クリンガー・コーエン法のこと)が制定されたことにより、連邦政府を中心にEAの導入が始まりました。その後、大企業を中心にEAへの取り組みが進んでいます。

 ただ、EAの概念が広く一般に浸透し、多くの米国企業が取り組んでいるかと聞かれれば、答えはノーです。そうした意味ではEAの普及は、米国でもまだ限定的と言えます。

何がEAの普及を阻害しているのでしょう。

 さまざまな要因が複雑に絡み合っており、一概には言えません。

 そもそもEAは企業にとって、「決められた期限までに絶対に解決しなければならない」といった類の問題ではありません。ところが今、企業が求めているのは即効性です。ITの面でも経営の面でも“特効薬”を求める傾向は、ここ数年、ますます高まっています。

 しかしEAには、即効性がありません。それどころか、EAの策定を始めると、やらなければならないことが、山ほど出てきます。しかも、それは終わることなく次々と出現します。だから、少なくない数の企業がEAの実践をためらってしまうのです。

 即効性がないからといって、EAに意味がないわけではもちろんない。むしろ変化が激しいときこそ、確固としたアーキテクチャが必要と私は考えています。

先延ばしにはできない

もう少し具体的に説明していただけますか。

 ビルにたとえて説明しましょう。アーキテクチャというのは、そのビルの現況を反映した記録です。ビルが改修されるたびにアーキテクチャも変わっていきます。ですから、アーキテクチャを頼りにすれば、ビルを改修するために何をすればよいか分かるのです。

 企業は、ビルよりも格段に早いスピードで変化していきます。企業の現状を示すアーキテクチャがなければ、何を基準に変更を加えていけばよいのかまったく分からなくなってしまいます。それで企業を本当にマネジメントできるでしょうか。

 今日の企業はあまりにも複雑になりました。同時にすごいスピードで変化しています。アーキテクチャなしに、そうした複雑で急速に変化する企業や組織をマネジメントするのは、あまりにも効率が悪い。何がどのように変化しているのかが把握できずに、さまざまなムダが生じます。

 即効性がないからといって、EA活動の開始をいつまでも先延ばしするような企業は、いつかは淘汰されるのではないでしょうか。長期的には経営効率を悪化させ、競争力を失っていきます。

 7000年にもわたる人類の歴史を振り返ってみると、社会はどんどん複雑になり、変化のスピードが早くなっていきました。これにどうやって対処してきたかというと、やはりアーキテクチャを利用してきたからです。同じように永続する企業は、いつかはEAに取り組むべきでしょう。

すでにきちんとしたEAを確立し、変化に適切に対処できている企業はあるのですか。

 非常に少ないと思いますよ。

 米国の連邦政府は、さきほどの法律によって、すべてEAを実践したことになっています。でも、残念ながら実際にアーキテクチャとは何なのかを理解し、質の高い仕事をしている組織はほとんどありません。

 連邦政府以外の企業や組織でも状況は同じです。EAについて語る人は多いのですが、本当の意味で質の高い仕事ができているかというと、疑問が残ります。

モデル作りから始めろ

EA活動の質を高めるためには何をすべきでしょうか。

 いくつかのやり方があるでしょうが、やはり大事なのはアーキテクチャ・モデルですね。

 きちんとしたモデルを作ること、モデルを実際に使うこと、現状を正確に反映するためにモデルをメンテナンスすることなどがポイントです。

 しかし、活動の質が低いことはそれほど問題だとは思っていません。きちんとしたモデルを作れるようになるには、しばらく時間がかかります。だからと言って、モデル作成に着手しなければ、いつまでたっても正しいモデルは作れません。

 何事も経験です。練習を重ねるうちに上手になっていきます。エジプトのピラミッドだって、そうです。初期のピラミッドはエンジニアリングに失敗して崩れてしまいましたが、その経験を生かして今でも立派な姿で残っているピラミッドができたのでしょう。

EAの概念を正しく理解しないまま、モデル作りを進めるのは危険ではありませんか。

 モデルを作成する経験を積み、その能力を取得するだけでも、何もしないよりはマシと思っています。

 過去40年間、IT業界はモデルなしにやってきました。場当たり的にプログラムを書いて情報システムを作り、今に至っています。その結果、どうなりましたか。少なくない数の企業や組織が、情報システムの扱いに困っています。システムは柔軟性がなく、再利用が難しい上に、多額の運用コストがかかっています。データの整合性も必ずしもとれていません。

 そろそろ、こうした状況から脱却してはどうでしょうか。情報システムがエンジニアリングの対象であるとの認識を持って、設計図に当たるモデルを作るのです。そうするうちに、どういう設計をすれば良くて、どういう設計をしてはいけないかが次第に分かってくると思います。ですから、私は「モデルを策定し始めました」と聞くだけでうれしくなってしまいます。

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