本記事は日経情報ストラテジー2006年7月号に掲載したものであり、役職等は雑誌掲載時点の情報に基づいています。繁野高仁氏はすでにKDDIを退職されていますが、記事内容の価値は今でも変わらないと判断し、再掲いたしました。

 KDDIのCIO(最高情報責任者)である繁野高仁さんは、改革派だ。ウォーターフォール型システム開発の問題点を指摘し、「概念データモデル」というビジネス環境の意味構造をデータ構造としてモデル化。それをアーキテクチャーの基盤とするシステム構築を実践している。変化の少ないビジネスの基本構造をモデル化し、基幹系データベースを安定させるのがコツだという。

 既成概念やルールに疑問を持つところから繁野さんの柔軟な発想は生まれている。「ユーザー要件を最初から聞くな」とまでおっしゃる。理由は、ユーザー要件は鮮度が大事で、時がたてば変わってしまうからだ。確かに、システムが出来上がったころの要件は、設計当初と異なることが多い。最初の要件に基づき構造をつくると、全体に変更を求められる。常に追加と外付け。これで、構造自体はいびつになり、怖くて触れないスパゲティ状態となる。「ベンダーにとっては悪いことではないね」と皮肉る。継続的に仕事が続くからだ。

 でも、必要な能力は体力と若さ。だから、若い人がこの業界に魅力を感じなくなっている。繁野さんの批判は、会社という枠組みを越えた業界批判。日本のソフトウエア産業の発展を思うが故だ。

 そんな繁野さんが注目しているのがOSS(オープン・ソース・ソフトウエア)。いわゆるリナックスやアパッチなどをボランティアが無償で開発していくモデルだが、繁野さんが興味を持っているのは無償開発ソフトではなく、ユーザー企業がコストを負担して開発した業務用ソフトのOSS化だ。

 外食産業のニユートーキヨー(東京・千代田)がEDI(電子データ交換)のシステムを開発して一般公開し、競合がこのシステムを使う例を説明してくれた。「ベンダーはもうかりませんね」という問いには、「日本のベンダーはソフトウエア製品でもうけていないし、品質の良い無償ソフトが流通すればソリューション・ビジネスがやりやすくなる」とおっしゃる。「腐らない」「コピーが安い」「同じものを汎用的に使える」、これこそがソフトウエアの特徴だ。

 「ニユートーキヨーと同じ。KDDIが開発したシステムをNTTさんが使えばいい。それにアドオンした機能をまた使わせてもらうよ」と繁野さん。企業の枠組みを越えて日本が変わりそうだ。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA
出典:日経情報ストラテジー 2006年7月号 67ページより
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