自分では万全だと思っている作業内容に,上司や先輩から厳しい評価を受けることがある。こんな時,相手の意見を理解して受け入れる柔軟性がないと,その後のスキルアップへの扉を自ら閉ざしてしまうことになる。

イラスト 野村 タケオ

 K君(32歳)は,大学を卒業してから商社に3年勤めた後,「これからの世の中,ITは社会基盤になる。IT業界で自分を試したい」と一念発起。SEを目指してC社に飛び込んだ。C社は,業界では中堅どころに位置する新興ソフトウエア開発会社である。大手システム・インテグレータの下請け業務がビジネスの中核だ。

 K君は入社後,社内トレーニングもそこそこにいきなり開発現場に放り込まれた。それ以来,次から次へと新規案件に駆り出された。こうして場数を踏んだおかげで,7年目の今ではシステム設計や小規模プロジェクトのリーダー役もこなすようになった。もちろん,自分なりの努力も続けていた。派遣要員として開発現場を渡り歩く中で,技術だけでなく業界知識や人脈を独力で広げてきた。「SEとしてのスタートは皆より遅かったが,今は結構いいセンいってるよな」と,自分なりの自信も付いてきた。

 そのK君が2003年1月から従事しているのが,オフィス・メンテナンス会社であるA社の販売管理システム開発プロジェクトである。

 A社は,90年代のアウトソーシング・ブームに乗ってビジネスを飛躍的に拡大させた。しかしここ数年,業績は悪化の一途をたどっている。バブル崩壊に伴い,管理コストの削減を迫られた顧客企業が,オフィスの清掃回数を極端に減らしたからだ。取り引きを打ち切られるケースも増え,売り上げはピーク時の30~35%程度まで落ち込んだ。

 危機的状況をなんとか脱出しようと議論を重ねたA社は,顧客ごとの取引状況をきめ細かく把握してリピート契約につなげる体制作りが不可欠と判断。顧客データベースを含めた販売管理システムの再構築を,大手SIベンダーであるJ社に委託することにした。そのJ社から,サブ・システム開発を請け負ったC社は,K君をリーダーとする開発チームをプロジェクトに派遣した。

テストと修正作業を同時進行

 プロジェクトを統括するのは,J社のベテラン・エンジニアであるY氏だった。40歳を少し過ぎたY氏は,プロジェクト・マネジメント経験の豊富さでメンバーの信望を集めていた。必要な時は的確にアドバイスするが,任せるところは任せてくれるY氏の下,K君はのびのび仕事ができた。多くの協力会社から集まる優秀なエンジニアたちの仕事振りも,K君のやる気を大いに刺激した。K君は,チームを率いて精力的に作業をこなしていった。

 プロジェクト開始からあっという間に10カ月が経ち,開発もいよいよ終盤を迎えた。K君は,担当システムの開発が順調に進んでいることに満足していた。しかしその矢先,予期せぬ事態が発生した。新システムのユーザーであるA社の営業管理部が,すでに開発し終わった機能の一部を修正するように要求してきたのである。

 システム・テストはもう目の前に迫っていた。「ここまで来て,期限に遅れるわけにはいかない。スケジュールは死守する」。そう考えたK君は,修正作業と並行して,システム・テストを予定通り実施することにした。まず,開発済みのプログラムをつなげてテストする。その後,修正部分だけを追加テストするという計画だった。さっそく,修正が必要なプログラムをリストアップして追加テストの手順を慎重に決め,メンバーに指示を出した。「これでなんとか間に合うぞ。我ながら周到な計画だ」,K君は,そう確信していた。

 システム・テストと修正作業は,11月初めに始まった。その直後,プロジェクト全体の進ちょく会議があった。K君は自分の順番が回ってくると,「急な機能修正依頼を受けましたが,テストは順調にすべり出しています。追加テストの準備も完璧です」と,少々得意げに状況を報告した。

自論を曲げず信頼を失う

 ところが,K君の報告が終わると「こんなやり方ではだめだ。君は,テストというものの本質が分かっているのか」という声が上がった。Y氏だった。K君は一瞬,何を言われているか理解できずキョトンとした。だが,すぐに「説明が足りなかったかな」と思い直し,時間が限られていることや,必要な事前調査はきっちり済ませていることを再度説明した。

 Y氏は腕組みしたまま,「なぜ修正したプログラムだけで追加テストするのかね。これではシステム・テストの意味がないだろう」と再びK君に問いかけた。 K君は,顔を真っ赤にしてこう答えた。「時間がないからですよ。僕の計画は完全です。なぜ理解してもらえないんでしょうか」。

 これを聞いてYさんは,「修正範囲さえチェックすれば万全だと思っているのかもしれないが,プログラムやデータは全く予期しないところに影響を及ぼすものだ」と話し始めた。K君はまだ何か言いたそうだったが,Yさんはかまわず続けた。「全体を通してテストした時に問題なく動いて初めて,そのシステムの品質を保証できるんだよ。時間がないのは分かるが,品質を保証できないシステムを納品するわけにはいかない。いいね」。

 結局,K君は終始納得いかない顔のまま。「Yさんがそうおっしゃるなら,そうしますけど」と投げやりに言って,椅子に寄りかかってしまった。Y氏はその様子を見ると「じゃあ,その件はそれで行ってくれ」とだけ付け足し,別のチーム・リーダーに報告を促した。

 会議後,部屋を出たY氏は心の中でつぶやいた。「K君は,将来有望なエンジニアだと思っていたんだが。この先,大きな失敗をしでかすかもしれない。彼のチームは,要注意だな」。それから間もなく,K君のチームはY氏が直接指揮をとることになった。

今回の教訓
・システム開発は奥が深い。「自分の考えが常に最適・最上」などと思い上がるな
・他社のエンジニアが,ストレートな指摘をしてくれることは多い
・他人のワザを盗むために,頭の中に空きスペースを作っておこう

岩井 孝夫 クレストコンサルティング
1964年,中央大学商学部卒。コンピュータ・メーカーを経て89年にクレストコンサルティングを設立。現在,代表取締役社長。経営や業務とかい離しない情報システムを構築するためのコンサルティングを担当。takao.iwai@crest-con.co.jp

出典:日経ITプロフェッショナル 2004年1月号 142ページより
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