本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

経営に貢献する情報システムを作る。当たり前のことである。だが,その実践は簡単ではない。情報技術(IT)の革新は強烈な勢いで進んだものの,多様化したITを経営に役立つようにマネージしている(使いこなしている)企業はまだ少ない。今こそ,情報システム部門と,そのパートナたるITベンダーは,ITを経営の道具としてマネージすべきである。

 経営に貢献しない情報システムはゴミ同然である。大金を使ってゴミを作った情報システム部門は解散させられても文句は言えない。逆にシステムのできはまあまあだったにもかかわらず,事業部門が使いこなせずにゴミにした場合,その事業部門は懲罰ものだ。ゴミの発生を黙認した,あるいは気づかなかった経営者は間違いなく株主訴訟の対象になる。ソリューション(問題解決策)と偽って顧客にゴミを売り込んだコンピュータ・メーカーやソフト・ベンダー,システム・インテグレータは詐欺の疑いがある。

 日経コンピュータがかつて情報化の先進事例として大きく取り上げた企業の中で,倒産したところが数社ある。当時,そのシステムは輝いて見えたが,実際にはゴミだった。

 極論を並べ立ててしまったが,情報システムの構築や情報技術(IT)活用の評価を巡っては,このくらい厳しい態度で臨むべきであろう。それだけ企業にとってIT投資の額は大きくなってきているし,システムのでき次第で企業の将来が左右される。

 「経営に貢献する情報システム」という視点でユーザー企業やITベンダーの活動を振り返ってみる。残念ながら,はなはだ辛い点数しかつけられない。というのも,多くのユーザー企業が業績不振に苦しみ,人員削減や事業の統合を余儀なくされているからだ。つまり,ITは経営に貢献しなかった。

 にもかかわらず,企業内を見わたすと,まばゆいばかりの最新ITがある。90年代に多くの企業がLANを全拠点に敷設し,強力な処理性能を持つパソコンを社員一人に1台ばらまいた。UNIXやWindowsサーバーも大量導入され,そのサーバー上にはデータベースやグループウエアなどさまざまな最新ソフトが搭載された。消え去ると言われたメインフレームも並列サーバーと名前を変えて復活,メインフレームの処理性能はこれまで以上に潤沢にある。

 ユーザー企業の経営者も事業部門も情報システム部門も,最新ITを満喫した。しかし,90年代の終わりに来て,お楽しみの時間も終わった。ゴミ箱というのは酷に過ぎるが,自社内をITベンダーのショールームにしただけだった企業も少なくない。

今一度基本へ戻れ,ITはただの道具

 ITは経営の道具にすぎない。ITを使いこなし,経営にいかに役立てるかが重要である。これは,かねてより何度となく指摘されてきた,当たり前のことだ。だが,ITが複雑怪奇に多様化した今,この当たり前のことを貫くのがかえって難しくなってしまった。

 だからこそ,ユーザー企業の情報システム部門,事業部門,経営者,そしてITベンダーは,「経営に役立つようにITをマネージする(使いこなす)」という原則に今一度立ち返る必要がある。本連載は,当たり前のことを実践するための具体策を検討するものである。

 ITマネジメントの具体策が未確立であるにもかかわらず,ITの重要性だけはどんどん高まっていく。最近のインターネット・ビジネス・システムに見られるように,いくつかの事業分野においては,情報システムそれ自体が販売チャネルや顧客サービス・チャネルになりつつある。すなわち,経営を支援する形で貢献すると言うより,システムが経営そのもの,ビジネスそのものになってきている。ITマネジメントが焦眉の急となった所以である。

 ITをマネージして経営に貢献するためのテーマは実に幅広い(図1)。なんといっても重要なのは,経営戦略と連携したシステム計画をどうやって立てるかである。まず,何ができれば経営に貢献するのか,そこから考える必要がある。続いて,構築すべき新システムの企画を練ることになる。

図1●ITマネジメントのテーマ群。ITに関する人・もの・金のマネジメントと,新たなシステムの企画に大別できる
図1●ITマネジメントのテーマ群。ITに関する人・もの・金のマネジメントと,新たなシステムの企画に大別できる
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 ナレッジ・マネジメント,サプライチェーン・マネジメント(SCM),カスタマ・リレーションシップ・マネジメント(CRM)など,ITベンダーは無尽蔵に新しいコンセプトを繰り出してくる。一連のコンセプトはどういうもので,自社の経営にどうかかわるのか。新コンセプトに基づくシステムをどう企画していくのか。実際に効果を出すにはどこに気をつけなければならないか,といった点を考えぬく必要がある。

 素晴らしい新システムを企画しても,実現できなかったり,法外な金をかけたのでは,意味がない。ITにからむ,人・もの・金をきっちり管理することも,ITを使って経営に貢献するためには欠かせない。情報システム部門の要員のキャリアパスをどう設定するか。会社のすみずみにばらまかれた各種のハード/ソフト資産をどう管理していくか,などテーマは無数にある。

 つまり,ITマネジメントとは,システムを直接開発し運用するといった仕事以外のほぼすべてを包含する。言い換えれば,「システム企画」である。

システム企画部の悲劇,結果は単なる雑用係

 90年代に数多くのユーザー企業が,「従来の開発・運用業務に加えて,システム企画の機能を強化し,経営との関係を深める」と称して,「システム企画部」,「システム企画室」を設置した。しかし,こうした組織が本来の目的を果たしている企業はそう多くはない。多くのシステム企画部の現状を見ると,情報システム部門の予算管理や人事など,事務方におさまっている。

 最も悲惨なのは,情報システム部門のうち,開発・運用部隊をシステム子会社として独立させ,親会社に少数の要員をシステム企画部という名目で残したユーザー企業である。こうした企業のシステム企画部の要員は,親会社の経営者や事業部門と,システム子会社の板ばさみにあい,疲れ切っていることが多い。

 ある製造業のシステム企画課長はぼやく。「雑用に嫌気がさして,企画部の若手が辞めてしまった。おかげでこの若手が担当していた全社のパソコン資産の管理を押しつけられてしまった。とても,将来のシステム構想を練るどころではない」。

 多くの企業でシステム企画部が失敗に終わった理由はいくつもある。そもそもシステム企画部の業務内容が何かを詰めずにスタートしたため,人員が不足してしまった。新たなシステムを企画しようにも,担当者が事業部門の仕事がよく分かっていなかった。本来,システム企画部の要員は,社内コンサルタントのような活動をすべきだが,そのスキルや方法論,ツールがなかった。あるいは,経営者や事業企画部門が,システム企画部をまるで重要視していなかった。

 システム企画部の構想自体は間違ってはいない。本連載ではシステム企画部の活動の妨げになっている問題についても,一つずつ取り上げていきたい。試行錯誤をしながら,問題への解決策を探っている企業の事例を紹介していこうと考えている。すなわち,「実践!ITマネジメント」とは,「システム企画部を成功させる」ことと同義である。

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