写真1 BitTorrent共同創業者の2人。左がブラム・コーエンCEO,右がアシュウィン・ナビン社長
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 ピア・ツー・ピア(P2P)型ファイル共有ソフト「BitTorrent」(ビットトレント)を開発する米BitTorrent社が,2月末から米国で動画配信サービスを開始した。ソフトの方のBitTorrentは既に世界的に普及しており,ティム・オライリー氏の有名論文「What Is Web 2.0」の中でも,Web 2.0の具体例として取り上げられる程の存在だ。そして,ファイル交換ソフトの例に漏れず,著作権侵害の温床になっているという側面も持つ。

 一方,BitTorrentの開発者らは2年半前にBitTorrent社を創業。このほど合法的な事業化に漕ぎつけた。「動画コンテンツのネット配信がいずれテレビやDVDを置き換える」と主張する同社創業者たちを,サンフランシスコのBitTorrent本社で取材した(写真1)。

ギークとやり手ビジネスマン,絶妙なコンビが創業

 BitTorrent社のオフィスはサンフランシスコのビジネス街にある高層ビルの9階。これまではフロアの半分しか使っていなかったが,社員数が50人に増え,今は全フロアにオフィスを拡張中だ。受付のところではスーツを着た来訪者が3人ほど待っていたが,中に入るとTシャツ姿の社員が多い。

 最初に取材に応じてくれたのは2人の共同創業者の1人で,現在は同社社長を務めるアシュウィン・ナビン氏(写真1右)。「インターネットが壊れているということが会社設立の理由だ」,「BitTorrentはHTTPを置き換えるエレガントな代替物である」――。29歳のナビン社長の口調はさらりとしているが,インタビュー冒頭から発言の内容は過激である。

 実はこのインタビューの前日,シリコンバレーで開かれた Voice over IPのイベント「VON」で,BitTorrent社のもう1人の共同創業者であるブラム・コーエン最高経営責任者(CEO,写真1左)が講演し,その発言が物議を醸していた。BitTorrentソフトの生みの親でプログラマのコーエンCEOは壇上で,「最終的には放送というメディアはなくなり,すべてIPに置き換わる」と語ったからだ。

 31歳でギーク(geek)なエンジニアに見えるコーエンCEOに対し,やり手の若手ビジネスマン風であるナビン社長。この2人の出会いなくして今のBitTorrent社は存在しない。

悪評跳ね除け,1ソフトをビジネスへ転換

 コーエンCEOはP2Pを利用してファイルを高速転送できるソフトのBitTorrentを開発し,2002年にインターネット上で公開した。性能と使い勝手の良さから急速に普及。技術者がLinuxなど大型ソフトの配布に活用する半面,ネット上での違法な映画ファイルのやり取りに使われるようになった。その前年にはP2Pを世に知らしめた音楽ファイル交換の「Napster」が法的措置でサービス停止に追い込まれていた。P2Pに対して「違法」のレッテルが貼られていた時期である。北米全体におけるインターネットのトラフィック量の3割以上がBitTorrentに由来するといった調査リポートも発表され,BitTorrentに対する批判が高まるのは時間の問題だった。

 しかし当時,米ヤフーで事業戦略を担当していたナビン社長にはこれが“商機”に見えた。「私はヤフーの映画情報サイトの仕事に携わっていたので,BitTorrentのすごさを知る機会があった。共通の友人を通してブラムと会い,『ソフトのベンダーかサービス・プロバイダになるべきだ』と勧めたところ,『ビジネスにする方法が分からないから助けて欲しい』と言われた。そこで,いっしょに起業することにした」(ナビン社長)。

 2004年9月にBitTorrent社を法人化。2005年11月には米映画協会(MPAA)と違法映画コピーの排除で協力することに合意し,これを機に映画スタジオ各社を次々と味方につけた。BitTorrent社が比較的短期間で「違法」のイメージを払拭し,一個人のソフト開発プロジェクトをビジネスへと転換できたのは,ナビン社長を中心とするチームの立ち振る舞いが大きなカギだった。「私は映画関連の仕事の経験があったので,BitTorrentの真の威力と商機について映画会社に説明しやすかった」と同社長は語る。

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