韓国では今年,2人の人気女性タレントが相次いで自殺を遂げ,社会に衝撃が走った。

 1月には歌手のユニが,2月には女優のチョン・ダビンが,共に縊死(いし)を選んだ。2人の自殺が韓国社会に波紋を広げたのは,インターネット上の激しい誹謗中傷が彼女達を追い詰めたと思われているからだ。2人とも美容整形手術を受けたことを,自身のブログや各種ポータル・サイトのユーザー書き込み欄などで,心無い人々から手酷く攻撃されていた。

 もちろん韓国の警察はそれが自殺の引き金だったとは断定していない。しかし韓国の英字紙Korea Timesによれば,ユニの母親は記者会見で,「娘は最近ひどいうつ状態に陥っており,それが自殺の原因であった」と述べている。ユニの所属事務所も「彼女をうつに追い込んだのは,ブログやポータル・サイトに書き込まれた悪質なコメントだ」と主張している。また朝鮮日報(日本語版)によれば,チョン・ダビンも母親が子宮癌で闘病生活を送っていることを,「自らの美容整形騒ぎを鎮めるための狂言」などとネチズン(インターネット・ユーザー)から攻撃され,深く傷つけられたという。

 以上の点から,彼女達の自殺がネット上の誹謗中傷と多少なりとも関係していると見て,ほぼ間違いない。

7月から始まる「インターネット実名制」

 韓国では以前にも性転換した元男性のタレントがネチズンのしつこい嫌がらせに遭うなど,同じ性格の事件が何度か起きていた。それに追い討ちをかけるようなタレントの度重なる自殺を経て,「一部ネット・ユーザーの悪質な行為をこれ以上放置できない」との世論が高まっている。

 こうした趨勢の中で生まれたのが,「制限的インターネット本人確認制度」(通称:インターネット実名制)だ。これは韓国・情報通信部(日本の総務省に相当)が国会に提出し,昨年12月に可決された「情報通信網の利用促進,及び情報保護などに関する法律」改正案の一部として実現された。今年7月に施行される予定だ。

 韓国でネット実名制の導入が決まった背景には,次のような考え方がある。一部のユーザーがなぜ無責任な書き込みができるかというと,それはインターネットが持つ匿名性のためだ。「やったのは自分だ」ということが世間にバレないから,平気で罵詈雑言を書ける。この問題を解決するには,インターネットの匿名性を廃して,誰が何を書いたのかを一意に特定できるようにすればいい,と。

訪問者数の多い人気サイト限定で導入

 制限的インターネット本人確認制度では,1日当たり10万人以上の訪問者があるポータル・サイトや新聞などのニュース・サイトに対して,ユーザー(あるいは読者)がサイトにコメントなどを書き込む際に,何らかの形で本人確認を義務付ける。その具体的な方法までは明示していないが,最も現実的と考えられているのは,韓国の国民全員に与えられた13桁の住民登録番号を使う方法だ。

 サイト側では,ある人がユーザー登録する時にこの番号と氏名を入力させ,政府が管理する住民登録データベースと照合することで本人確認を行う。ただし,ユーザーがサイトにコメントを書き込むときには,実名ではなくハンドル・ネームを使える。つまり表向きは匿名性と同じだが,サイト管理者は必要とあればユーザー登録時に割り振ったIDから,書き込みをした本人にたどり着ける。

 この新制度に「制限的」という注記が付くのは,「1日に10万人以上の訪問者があること」,すなわち,ある程度の影響力があるサイトに限定したためだ。もっとも,韓国・情報通信部がこの制度を起案したときは,その対象となるのが「1日に30万人以上の訪問者があるポータル・サイトと,同20万人以上のニュース・サイト」だった。しかし,昨年末の国会における議決時に「10万人以上のサイト」までバーが下げられた。ところが情報通信部は妙にこの条件にこだわっており,「法律はこうなったが,実際に制度を運用するときには,ポータル・サイトで30万人以上,ニュース・サイトは20万人以上のものに限定する」としている。

 この条件に該当するのは,今のところ20社近くのポータル・サイトと10社程度のニュース・サイトだ。同制度が求める本人確認手段の導入を怠ったサイト運営企業には,最大で3000万ウォン(376万円)の罰金が課せられる。

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