問題解決の第2ステップでは,収集した情報を分析し重要問題を特定する。情報の分析には「Tの字」や「田の字」といった手法を利用するとよい。問題に優先順位を付けるための主な観点(切り口)を,3~4通り紹介する。

土井 哲/インヴィニオ 代表取締役

 前回は,問題解決の第1ステップとして,「問題の認識」を正確に行うための情報収集の仕方を解説した。まず前回の復習をしておこう。

 SEの麻田君が,過剰在庫に悩む機械メーカーX社に対して何らかの提案を行いたいと考えた。麻田君の上司である悠木部長は,まずはX社の問題を正確に認識するための情報収集から始めるように指示した。

 ところが麻田君が立てた情報収集の計画は稚拙なものだった。悠木部長は,そのまま情報を集めてもおそらく一面的かつ断片的な情報しか収集できないと予測。麻田君に網羅的に情報を集めるための切り口としてMECE(ダブリも漏れもない)という概念を教えた。また,限られた時間で有効に情報を集めるために,事前に可能な限りの勉強をしてある程度仮説を立て,その上で質問項目を考えるように指示したのであった。

 今回はそのような指導のもとで,麻田君が考え直した情報収集計画をレビューする。さらに麻田君が収集してきた情報を基に,X社の在庫を増やしてしまっている要因を分析し,特に重要な問題を見つける。その後,問題解決の第2ステップである,様々な問題に対して優先順位を付ける「重要問題の特定」に進む。

MECEで事業活動を分解

 麻田君は,まず在庫の発生メカニズムを勉強することにした。悠木部長から,自分なりに在庫問題について勉強し,仮説を立てること,情報収集の仕方を見直すことなどを指示されたからだ。インターネットの検索エンジンを使い,「在庫問題」というキーワードで検索したところ実に多くのサイトで在庫問題を取り扱っていることが分かった。麻田君は「なるほど悠木部長の言うとおりだ。けっこうたくさんの情報があるもんだなあ」と思いながら,片っ端から読んでみることにした。

 情報収集を通じて,麻田君はこれまで知らなかった次のようなことを学んだ。

 (1)「月末の在庫量(在庫残高)」は,「月初の在庫残高」に「今月の仕入総額(工場で生産されて倉庫に運び込まれたものの総額)」を加え,「今月の販売総額(販売されて顧客のもとに出荷され倉庫から出て行ったものの総額)」を引いたものである(図1)。「今月の販売総額」は販売のペースに左右され,「今月の仕入総額」は毎日どれだけ作るかという「量」の問題と「リードタイム」に左右される。複雑な製品であれば1日で完成するとは限らず何日も生産にかかる場合がある。リードタイムとは生産にかかる日数と,生産拠点から倉庫への搬入にかかる日数の合計である。

図1●在庫は会社の事業活動全般から影響を受ける
図1●在庫は会社の事業活動全般から影響を受ける
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 (2)在庫は「○カ月分」と表現できる。例えば,年間の売上が1200億円の会社(月間の平均売上が100億円)で,期末の在庫が300億円あるときは,「この会社の在庫は3カ月分」と表現される。

 (3)欠品を防ぐには,販売総額≦仕入総額としておく必要がある。急な注文にも応えるためにたくさんの在庫を持っておきたい,と考えれば在庫は増える。

 (4)販売総額,仕入総額は生産活動や販売活動だけでなく,会社の事業活動全般から影響を受ける。在庫量は,会社のある部門の問題というわけではない。

 顧客企業X社のビジネスシステムが図1のようになっていると仮定しよう。受注予測がいい加減で,たくさんの受注がくるのではないかと甘い見積もりをしてしまうと,生産しすぎて在庫を増やすことになる。生産計画の段階で効率を追求するために,なるべくまとめて生産しようとすると,生産が行われる前に販売が先行して,在庫がかなり減ることがある。購買がうまくいかず,材料や部品の調達がタイミングよく行われないと,生産したくてもできず,生産量が減り在庫が減る。生産で事故やトラブルなどが頻発して生産ラインが止まってしまうと,やはり生産量は減り在庫が減る。

 販売が好調でどんどん受注できれば在庫は減るし,逆に販売が思ったほど伸びなければ在庫は増えてしまう。出荷が何らかの事情で滞れば在庫は増える。

 このように,在庫は生産や販売だけでなく,企業活動のいろいろな面から影響を受ける。このため在庫問題については,MECEの考え方に基づいて事業活動を分解し,漏れなく情報収集しなければならないのである。

 麻田君にとっては驚きの連続だった。「こうやって考えてみると,経理部長に会って在庫がどのくらいなのか,過去どのように推移してきたのかなどについて定量的に把握するだけでは情報が不足する。むしろビジネスシステムに沿って,関連する人たちに漏れなく状況を聞くほうが重要だな」と考え直した。

 麻田君はさっそく在庫に関連する部署の担当者への質問事項をまとめ始めた。苦労しながらも,まとめ終わったころに,ちょうど悠木部長がやってきた。

部長:麻田君,どうだい。問題を正確に認識するための情報収集のプランニングはできたかい。

 麻田君はこれまで勉強したことを悠木部長に話した。

麻田:経理部長にヒアリングすることも大切ですが,むしろ需要予測や生産計画,生産,営業の人たちなどから情報収集することが,より重要であることが見えてきました。改めて情報収集予定表を作りました(図2)。

図2●インタビューの質問を準備する
図2●インタビューの質問を準備する
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部長:ほほう。今度はいいじゃないか。とにかく経理部長に代わって,会社の全体像をつかむぞ,という心構えが重要だ。さっそく,面談の約束をとって会いたまえ。それと,ベンチマーキングという概念を知っているかい?

財務諸表でベンチマーキング

麻田:聞いたことはあります。他社と比較することですよね。

部長:そうだ。X社の経理部長が「うちは在庫が多い」と言っていたのは,おそらく他社と比較してみたら在庫の水準が他社に比べて高かった,ということじゃないかと思うんだ。だから同業他社の在庫水準と比べて,どのくらい乖離しているのかを事前に調べてから訪問するんだよ。

 そう言われて麻田君は,さっそくX社とX社の競合であるY社,Z社の財務諸表を取り寄せて,在庫の水準を比較してみた。するとX社の在庫が2.0カ月分なのに対して,Y社がわずか7日,Z社が8日であることが分かった。他社に比べて約1.75カ月分,8倍程度も高いレベルである。X社の年間売上は600億円なので,1.75カ月分ということは87.5億円(600÷12×1.75=87.5)ということである。もしも他社並みに在庫の水準を削減することができれば,他社との差額である87.5億円分の現金が浮くことになる。

 前回も触れたとおり,在庫とは財務的に見れば自社のお金を使って自社の商品を購入していることにほかならないので,在庫を減らせればその分の現金がほかに使えるのだ。もしX社が借入をしているならその返済に当ててもよいし,設備投資や販促など将来の売上向上のために使ってもよい。

 仮に借入金利が2%であるなら,87.5億円の返済によって年間1.75億円の経費を減らせることになる。従って,何らかのシステム構築によってそれだけの効果が出るならば,そのシステムの構築に1.75億円投じてもX社にとっては1年で元がとれるということになる。

 麻田君は,ヒアリングに行く前に,準備することがたくさんあること,かなりいろいろな事情をつかめることを理解した。「経理部長がアタマを抱える理由がよく分かるなあ。それにしても,なぜ競合のY社とZ社はこんなに極端に在庫が少ないんだろう。何か理由があるに違いない」と思った麻田君は,Y社やZ社のことを積極的に調べ始めた。

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