販売手法を変えることで,販売奨励金モデルを効率化しようという動きも出てきている。ソフトバンクモバイルが始めた割賦販売方式の「新スーパーボーナス」がそうだ。

 新スーパーボーナスでは,ユーザーがソフトバンクモバイルと割賦契約を結ぶ形で端末を購入する。例えば最上位機種の「910SH」ならば,7万4640円の端末代を分割して毎月返済していく形になる。分割回数は12~24回で選択でき,最も一般的な24回払いで910SHを購入した場合は月々3110円ずつ支払うことになる。この販売価格は,従来の販売手法における「販売奨励金で値引きする前の価格」に当たる。

 これだけではユーザーの負担が大きくなってしまうため,割賦返済額の一部をソフトバンクモバイルが負担する「新スーパーボーナス特別割引」を組み合わせることで,実質的なユーザー負担額を軽減する。910SHを購入して24回払いを選択した場合は,毎月最大2280円が値引きされる。厳密には月額基本料や通話料などを合計した通信費からの値引きだが,事実上は端末価格の値引きである。

端末買い替え頻度で生じる不公平感を解消

 従来型の販売方式における販売奨励金との違いは,2年間(24回払いの場合)同じ端末を使い続けなければ端末価格の値引きをフルに受けられないこと。割賦期間中に解約や機種変更をすると,購入者は新スーパーボーナス特別割引の対象から外れる。そのため割賦の残り期間分は,値引き前の1カ月当たりの支払い額(910SHならば3110円)を毎月支払うか,残り期間分の合計を一括で支払わなければならない。

 割賦販売方式を導入した背景について,同社の五十嵐善夫常務執行役法務・渉外担当は「短期解約を防ぎ,ユーザー間の不公平感を解消するため」と説明している。従来型の販売モデルでは,端末購入時に4万円前後の販売奨励金が発生する。そのため1年未満などの短期間で事業者を乗り換えるユーザーには,携帯電話事業者が赤字でサービスを提供する形になる。「その分が他のユーザーへのしわ寄せになり,高い通信料金につながっている。割賦販売はこれを是正するのが狙いだ」(孫正義・代表取締役社長)。

 新スーパーボーナスでは,短期で解約したユーザーは新スーパーボーナス特別割引の恩恵をフルに受けられないため,端末価格の値下げ幅が小さくなる。そのため,短期解約したユーザーについては,ソフトバンクモバイルが負担するコストも従来型の販売奨励金より小さくできる。

ユーザーの月々の利用額と割引額を連動させる

 さらに,月々の通信費が少ないユーザーからでも,ソフトバンクモバイルが利益を上げられる構造に変えるという隠れた狙いもある。これが,月額基本料980円の「ホワイトプラン」の実現につながっている。前回説明したように,従来型の販売奨励金モデルでは,携帯電話事業者は月々の通信費が少ないユーザーからは利益を上げづらい構造になっている(関連記事)。そこでソフトバンクモバイルは,月々の通信費が少ないユーザーに対しては,端末価格の値引き額を小さくする仕組みに変えた(図1)。

図1 ソフトバンクモバイルは割賦販売により従来型の販売奨励金モデルからの脱却を図る
図1 ソフトバンクモバイルは割賦販売により従来型の販売奨励金モデルからの脱却を図る
割賦販売では,月々の通信料金に応じてユーザーへの割引額が変動する。携帯電話をあまり使わないユーザーの場合,割引額の総額はそれほど増えない。新規契約の場合,割賦の返済が発生するのは契約3カ月目からになる。12~24回の割賦を選べるが,最も一般的な24回払いの例を図に示した。
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 前述したように,事実上の端末価格の割引制度「新スーパーボーナス特別割引」では,月額基本料や通話料などを合計した通信費から毎月最大2280円を値引きする。この「通信費から」というのがポイントだ。通信費が2280円に満たない場合は,新スーパーボーナス特別割引での値引き額は通信費と同じになる。例えば,ある月の通信費が1200円だった場合,その月の値引き額は1200円となるのだ。

 新スーパーボーナスは,単なる販売奨励金の分割払いと思われがち。しかし実はそうではない。従来の販売奨励金モデルでは,端末の機種と新規か機種変更かといった契約の種類だけで端末価格の値引き額が決まっていた。それに対し新スーパーボーナスでは,ユーザーが毎月支払っている通信費も値引き額を決定する要素に取り込んだ点が新しい。

 ソフトバンクモバイルの立場から見れば,月々の通信費が少ないユーザーに対しては,端末の値引き額を抑制して支出を少なくする。これにより,累計損益がマイナスになるユーザーが多発することを防ぐ。逆に月々の通信費が多いユーザーに対しては,端末の値引き額を多めに出してつなぎ止めを図る格好だ。

 ユーザーの立場から見てもメリットはある。こうした割賦販売と割引制度の整備により,低料金を望むユーザーに応えられるプランの実現に道を開いたことだ。同社は2007年1月から基本料金980円の「ホワイトプラン」を開始したが,同社の関係者は「割賦販売を取り入れたことで実現できたこと」と明かす。

 もっとも,いくつかの課題は残る。月々の通信費が少ないユーザーは,高機能な端末を購入しづらくなる。そのため,安価な低機能の端末を選ぶなどの対策が必要になる。また,24カ月間ユーザーを契約で縛ることが良いかどうかは議論が分かれるところ。仕組みが複雑で,ユーザーが理解しづらいことも難点だ。説明不足が原因で,ユーザーとのトラブルに発展した例もある(関連記事)。

割賦販売はSIMロック解除への一つの解か?

 ただし,24カ月間ユーザーを割賦契約で縛ることは,「SIMロック」の解除に向けた一つの解になる可能性もある。SIMロックとは,携帯電話事業者が販売した端末を他事業者で利用できないようにする仕組み。事業者の立場からすると,ユーザーが端末を購入し,すぐに解約してほかの事業者に回線契約だけ乗り換えられると,販売奨励金を回収できないことになる。そのため,SIMロックをかけて事業者の乗り換えを制限している。

 ソフトバンクモバイルの孫社長はこうしたSIMロックについて「従来型の販売奨励金モデルが残る限りは解除できないが,割賦販売が10割になればSIMロックを外せるかもしれない」としている。

 SIMロックは,携帯電話事業者がユーザーを拘束する手段に過ぎない。しかし割賦販売では「契約」という手段でユーザーを拘束することができる。そのため,従来の販売奨励金モデルよりも,SIMロックを解除した場合の携帯電話事業者のダメージが小さく済むのだ。SIMロック解除のメリットがあるかどうかという問題は依然残ったまま(関連記事)。だが,SIMロックを一切解除できないよりは,解除できる選択肢が選べるようになることはユーザーにとってのメリットにつながる。

出典:日経コミュニケーション 2007年2月15日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。