スポーツ用品メーカーのミズノは2006年8月,FOMA/無線LANデュアル端末を中心とした内線網を構築した。音質を確保するために既存のデータ通信用ネットワークを大幅に見直したほか,「06」が使える0AB~J番号のIP電話と050番号のサービスを併用し,販売代理店との間の通話料を抑えた。

 ミズノは創立100周年という節目に当たる2006年の8月に,従来型のPBX(構内交換機)からモバイル・セントレックスを中心とするIPベースの内線網に刷新した。860台の固定IP電話機を設置したほか,管理職や営業担当者にはNTTドコモのFOMA/無線LANデュアル端末「N900iL」を300台配布。営業サポート部門や総務部にはソフトフォンを導入するなど,モバイルやパソコンを中心とした次世代コミュニケーション環境に切り替えた。

 内線網をフルIP化するきっかけとなったのは,同社がそれまで14年にわたって運用してきたPBXの保守対応が困難になってきたことだ。本社ビルの建設に合わせて導入したPBXは,メーカーの保守期限が切れてから既に6年が経過。定期点検に携わっていた担当者は,PBXのリセットのたびにヒヤヒヤしながら作業していたという。

 従来型のPBXで再構築する方法も検討したが,2006年1月にはモバイル・セントレックスを中心とするIPベースの内線網にする方針を固めた。「大阪本社ビルは構造上配線工事が困難で,頻繁に内線工事ができない。内線網をIP化し,データ通信用のネットワークと統合する絶好のチャンスだった」と松井志信大阪情報システム課長は振り返る(写真1)。加えて「当社の営業担当者や管理職は,社内会議など自席以外で業務をする機会が非常に多く,なかなかつかまらない。どこにいても連絡が取れるモバイル・セントレックスはうちにぴったりだった」(同)。

写真1●松本英己施設管理課長(左)と松井志信大阪情報システム課長(右)
写真1●松本英己施設管理課長(左)と松井志信大阪情報システム課長(右)

NTTコムのIP電話サービスを採用

 モバイル・セントレックスに採用した主なシステムは,NECのSIP(session initiation protocol)サーバー「SV7000」や,NECの無線LANスイッチ「WL2024」などである(図1)。耐障害性の向上を狙い,ともに2重化した。システムの構築はNECネッツエスアイが担当した。

図1●ミズノ大阪本社ビルのネットワーク構成
図1●ミズノ大阪本社ビルのネットワーク構成
SIPサーバーや無線LANスイッチといったIP電話システムは2重化し,耐障害性を高めた。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)とKDDIの二つのIP電話サービスを発信先の電話番号によって使い分け,通話コストを抑えている。  [画像のクリックで拡大表示]

 このSIPサーバーには,通話コストを削減する工夫も盛り込んである。0AB~J番号と050番号の二つのIP電話サービスのうち,低料金で電話がかけられるサービスを発信先の電話番号を基に自動的に選択するようにした。選択基準のデータはSIPサーバーに格納しているため,電話をかける社員がサービスを意識する必要はない。

 二つのIP電話サービスには,「KDDI 光ダイレクト」とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「.Phone IP Centrex for OCN」を採用した。前者が0AB~J番号を利用できるサービスで,「最も安価に部門代表の番号を引き継げた」(松本英己施設管理課長)点を導入理由として挙げる。後者は,「最も多くのプロバイダーと無料通話が可能だった」(同)ことから選んだ。

 こうしたIP電話サービスの使い分けは,販売代理店側の通話コストを減らしたいという視点から生まれたものだ。ミズノには全国に数百の販売代理店があり,商品の受発注に電話を使うケースが多い。「販売店からの要望次第では別のIP電話サービスも検討する」(同)と,KDDIとNTTコム以外のサービスも用意する考えだ。

音質確保のためにサブネットを分割

 内線のIP化については,データ通信用のネットワークとの統合に苦慮した。データ通信用ネットワークに1000台超のIP電話端末をつなぐとコリジョンが多発し,一定レベルの音質を確保できないことが判明したからだ。

 ミズノでは基幹システムの仕様にしばられ,ネットワークにつながるパソコンはすべて固定IPアドレスを割り当てて運用している。しかも同社は人事異動などでレイアウト変更が頻繁に発生する。このためパソコンを移動してもすぐに使えるよう,単一の大きなサブネットを使用していた。つまり,1500台を超えるパソコンやサーバーが一つのLANにつながっていたのだ。

 松井課長は「複数のサブネットに分割することは可能だったが,IPアドレスの変更が発生しユーザーに作業を強いることになる。これまで大きなトラブルが発生したわけでもなく,新しいサービスを取り入れたわけでもなかったのでそのままで運用していた」と説明する。

写真2●会議室などにはダイナミックVLAN搭載のLANスイッチを配置
写真2●会議室などにはダイナミックVLAN搭載のLANスイッチを配置(右)
固定IPアドレスを割り当てたノート・パソコンを自席以外からも社内LANに接続するために,ダイナミックVLAN搭載のスイッチを配置した。

 ミズノはIP電話の導入を機に,こうしたLANの構成を見直すことにした。具体的には,パソコンなどのデータ通信端末は1サブネット500台で収まるようサブネットを四つ設けた。加えて,音声用の端末は別のVLANに所属させ,データ通信端末とのデータのコリジョンを防いだ。

 IPアドレスは,刷新前と同じように固定で割り当てて運用することにした。ただしこの運用では,打ち合わせスペースや会議室などにノート・パソコンを持ち込んでも使えないという問題が残る。共用スペースのサブネットが異なるためだ。

 そこでミズノは,ダイナミックVLAN対応のLANスイッチを会議室などの共用スペースに設置し,別セグメントに移動してもIPアドレスを変更することなくLANに接続できるようにした(写真2)。

ソフトフォンで消費者の要望を録音

 ミズノのコミュニケーション環境は,現在は固定のIP電話機が中心だが,最も高い期待を寄せているのがソフトフォンである。「パソコンがつながる環境ならどこでも利用できるし,業務効率アップにつながりやすい」(松井課長)と見る。

 同社は現在,営業サポート部門や総務部に100台のソフトフォンを試験導入している。営業サポート部門は販売店や顧客からの発着信の履歴管理に,総務部は消費者からの要望やクレームの録音にそれぞれ活用している。使っているのは,NECのソフトフォン「DtermSP30」である(写真3)。

写真3●ソフトフォンはNECの「Dterm SP30」を使用
写真3●ソフトフォンはNECの「Dterm SP30」を使用
発着信の履歴管理や通話の録音に活用。  [画像のクリックで拡大表示]

 ソフトフォンに対する利用者の反応はおおむね良好だ。「特にワンクリックで折り返し発信できる点と録音できる点が高評価。また消費者の要望を録音した音声ファイルは,総務部以外のスポーツ用品開発などの担当者も再生できる。消費者の“生の声”を,次の商品開発に生かせる」(松井課長)と説明する。

 今後は,ソフトフォンとシームレスに連携させるために自社の顧客管理アプリケーションに改良を施すほか,海外拠点への展開も計画中である。「海外では使用可能な暗号化方式が限定されるなどの課題はあるが,中国などに導入できれば通話コストも大幅に削減できるので積極的に進めていきたい」(松井課長)という。

出典:日経コミュニケーション 2007年2月1日号 96ページより
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