パッケージ製品の販売と保守サポートで高収益を上げてきた大手ソフトウエア・ベンダーが、ここにきて続々とオンデマンド・アプリケーションへの参入を表明している。その背景には、カスタマイズの自由度を大幅に高め、既存のアプリケーションとの連携まで可能にしたオンデマンド・アプリケーション「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」の登場がある。

日経コンピュータ2006年4月17日号の記事を原則としてそのまま掲載しています。執筆時の情報に基づいており現在は状況が若干変わっていますが、SaaSやEnterprise2.0の動向に興味のある方に有益な情報であることは変わりません。最新状況は本サイトで更新していく予定です。

 独SAPは2006年2月、CRM(顧客関係管理)アプリケーション「SAP CRM On-Demand」を投入。日本ではSAPジャパンが日本IBMからインフラ提供を受けて5月に提供を始める。米マイクロソフトは3月末、CRMソフト「Dynamics CRM」のホスティング業者版を発表した。日本オラクルは日本テレコムと組み、オンデマンド・アプリケーション・ベンダー向けにインフラ提供を始めた。日本オラクルの新宅正明社長は、「ソフトウエア産業はサービス産業に変わる」とまで言い切る。

 だが、セル・モデルに比べると、オンデマンド型は減収につながる可能性が大きい。データセンターなどの設備も必要になる。それでも参入が相次ぐのはなぜなのか。ソフトウエア市場で何が起きつつあるのだろうか。

 “ネットバブル”と呼ばれた2000年ごろ、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)モデルが一躍脚光を浴び、そして急速に沈静化していった。カスタマイズに制約があったり、他のアプリケーションとの連携が難しかったことが、ユーザー離れにつながったことは、周知の通りである。ネットワーク環境も十分ではなかった。

 それから6年を経た今、これらの課題はほぼ解決された。これがオンデマンドへのシフトを促す理由の一つだ。例えば、ブロードバンド回線は2000年当時、0.5Mビット/秒で月額5000円。今では同じ料金で、100Mビット/秒の光ファイバー回線が使える。暗号化通信によって、データを外部に預けることへの抵抗感も薄まった。

 それどころか、「セキュリティや内部統制を考えると、管理を徹底している専門業者にデータを預けるほうが安全だという認識がユーザー企業に生まれてきた」(富士通の石田一雄アウトソーシング事業本部長)という。

 だが、パッケージ大手が一斉にオンデマンドの市場に参入するのには、もっと大きな理由がある。カスタマイズの自由度を大幅に高め、既存のアプリケーションとの連携まで可能にしたオンデマンド・アプリケーション「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」の登場がそれだ。SaaSに対する“恐怖感”がパッケージ大手をオンデマンド市場参入に駆り立てている。

 SaaSプロバイダの代表が、ASPから進化を遂げた米セールスフォース・ドットコムだ。同社のマーク・ベニオフ会長兼CEOは、1999年の創業以来一貫して「エンド・オブ・ソフトウエア(ソフトウエアの終焉)」を唱えてきた。「企業がパッケージ・ソフトを買う時代は終わる」という意味だ。今、異端児の言葉は現実味を帯びている。

 SaaSはソフトウエア業界にどのような衝撃を与えているのか。それによって起きつつある変化はユーザー企業に何をもたらすのだろうか。まずはセールスフォース・ドットコムを通してSaaSの姿を浮き彫りにしてみよう。

ユーザー数が2年間で倍増したセールスフォース

 米セールスフォース・ドットコムの勢いが止まらない。同社のCRM(顧客関係管理)ソフト「Salesforce」のユーザー数は、この2年間で2万500社(39万9000ユーザー)に倍増。2005年度の売上高は前年比76%増の3億900万ドル、純利益は同300%増の2800万ドルだった。米国ではメリルリンチやシスコシステムズ、シマンテックといった大手企業と数千ユーザー規模の大口契約を結んだ。国内でも新生銀行、損害保険ジャパンなどの大企業ユーザーを獲得している。

 セールスフォースが勢いづいているのは、ASPの弱点をことごとく克服し、SaaSプロバイダに脱皮したからだ。まず、複数のユーザーがアプリケーションを共有するというASPの特性上、変更が難しかった「項目名」も自在に変更できるようにした。例えば「顧客」を「患者」に変更可能にしたことで、医療関係での導入が進んだという。このような機能を追加するため、2000年のサービス開始から6年間で、Salesforceは実に19回のバージョンアップを施されている。日本法人の宇陀栄次社長は「ユーザー・ニーズに忠実に従ってきたことによって使いやすくなったし、リスクも低い」とパッケージ製品との違いを強調する。

 さらに、セールスフォースは2006年1月から、Salesforceを核に複数のアプリケーションを連携させるプラットフォーム「AppExchange」を提供し始めた(図1)。AppExchangeのWebページには、Salesforceと連携できる人事や会計などのアプリケーションが登録されており、ユーザーは必要なものを選んで利用できる。

図1●Salesforceの作業画面をベースにして、複数のアプリケーションを切り替えて利用できる
図1●Salesforceの作業画面をベースにして、複数のアプリケーションを切り替えて利用できる
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 自社の業務に必要なソフトを組み合わせて、短時間で要件を満たすシステムを構築。初期投資が必要ない従量課金で利用する。ビジネスの環境が変われば、アプリケーションの組み合わせを変更して対応する――。「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」の概念を具現化したのが、AppExchangeなのだ。

出典:日経コンピュータ 2006年4月17日号 40ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。