NGNでは,データを運ぶトランスポート機能を担うのはIPの役割とされています。しかし,IPパケットを実際に運ぶのは,その下のプロトコル・レイヤーに位置する伝送技術です。まさに“縁の下の力持ち”と言えます。

 伝送技術の基本的なしくみは,インターネットで使われるものとNGNで使われるものとで,大きな違いはないでしょう。それでも,NGNに“向いている”新しい伝送技術が登場しています。それらは,本格的なNGNを構築する際に導入されていくでしょう。ここでは,そうした伝送技術を紹介します。

NGN向けの新しい伝送技術

 日本国内のアクセス回線の状況は,FTTHやADSLなどによるブロードバンド化が進んでいます。そのような膨大なトラフィックを転送するため,バックボーンには超高速の光伝送技術が使われます。

 Question 9の図10でも触れましたが,比較的アクセス回線に近い部分では,たくさんの伝送装置を少ない光ファイバで効率的に収容できるリング構成が一般的です。

 さらに,アクセス回線を直接収容する部分には「RPR」,コアに近い部分には「ROADM」という技術が使い分けられます。RPRは限られた帯域を有効利用することに主眼を置いた技術です。一方,ROADMは,使える帯域幅をできるだけ広げることに主眼があります。

パケット通信が不得意なSDH/SONET

 RPRは,リング状の光伝送路でパケット・ベースの通信を効率よく実現するための技術です(図13)。おおまかに言えば,従来から通信事業者のバックボーンで使われてきた光伝送技術の「SDH/SONET」と,イーサネットの技術を組み合わせたものです。RPRは,SDH/SONETの障害に強い運用・保守機能と,イーサネットのパケット(フレーム)を効率よく転送する機能の両方を兼ね備えています。

図13●リング上の光伝送路でパケット・ベースの通信を効率よく実現するRPR
図13●リング上の光伝送路でパケット・ベースの通信を効率よく実現するRPR
従来から利用されてきたSDH/SONETは,固定的に設定したパスの帯域を他の通信に使い回せないため,パケット・ベースの通信では非効率だった。RPRは,光伝送路の全帯域を全ての通信で共有するため,帯域を効率的に利用できる。 [画像のクリックで拡大表示]

 SDH/SONETは,経路に障害が起こると50ミリ秒以内に自動的に他の経路に切り替えます。こうした機能によって障害発生時にも通信サービスが中断することはありません。

 その半面,SDH/SONETはIPパケットの効率的な転送が難しいという欠点があります。SDH/SONETでは,あらかじめ伝送装置(ADM装置)間に仮想的なパスを設定し,そのパスを通してパケットをやりとりすることになります。そのパスは,約50Mビット/秒あるいは約150Mビット/秒の固定された最小単位で,帯域を設定します。

 例を使って説明しましょう。50Mビット/秒のパスに1Mビット/秒のトラフィックしか流れていなくても,残りの49Mビット/秒の帯域は他のパスに使い回せません。逆に,51Mビット/秒のトラフィックが流れる場合,50Mビット/秒のパスでは足りなくなるので,それらを2本束ねた100Mビット/秒のパスを再設定しなければなりません。そこでも,残りの49Mビット/秒分の帯域は無駄になってしまいます。

帯域を無駄なく利用するRPR

 RPRでは,外部から入ってきたイーサネットのMACフレームをRPRフレームに変換します。これは,MACヘッダーにRPR用のヘッダー情報を追加したものです。具体的には,リングの外にフレームを取り出す(ドロップする)ADM装置を指定するためのアドレスなどです。このアドレスは,各ADM装置に割り当てたMACアドレスです。

 RPRフレームは,SDH/SONETのフレーム(SDHフレーム)のペイロードに直接格納され,リング上を運ばれます。目的地のADM装置に届くと,そのRPRフレーム単位でSDHフレームから取り出され,外部に転送されます。

 このように,SDH/SONETの全帯域を全てのパケットで共有するので,帯域を無駄なく利用できるのです。

 ほかにも,RPRはいろいろなメリットを持っています。その一つに,マルチキャストを効率的に転送できることがあります。RPRでは,マルチキャストのフレームを転送する場合,1個のフレームをリング上で周回させ,各ADM装置でコピーしていきます。こうしたしくみによって,RPRは映像配信などのためのマルチキャストを扱うのに適していると言えます。

光単位でパスを設定するROADM

 次に,コアに近いところで利用するROADMを見てみましょう。この技術は,波長多重方式とパス管理の技術を組み合わせ,超高速・大容量の伝送ネットワークをうまく運用するしくみです。

 ROADMでは,ROADM装置を光ファイバでリング状につないだ構成になっています(図14)。各装置では,波長多重された光信号から,任意の波長の光信号を取り出せます。逆に,任意の波長の光を混ぜることも可能です。このおかげで,電気信号に変換せずにパスのフレームを取り出せるので,超高速の伝送速度を保ったまま,柔軟なパス管理が可能です。

図14●任意の波長を出し入れすることで容易なパス管理を実現するROADM
図14●任意の波長を出し入れすることで容易なパス管理を実現するROADM
ROADM装置は,光信号を電気信号に変換せずに,光のままリング上の光ファイバ伝送路に出し入れできる。これよって,高速・広帯域と柔軟なパス設定を両立する。 [画像のクリックで拡大表示]

 ROADMは,RPRのようにパケット単位で出し入れするのではなく,従来のSDH/SONETのように装置間でパスを設定します。しかし,そのパスを一つの波長に割り当て,たくさんの波長を多重できます。例えば,NECでは,1波当たり40Gビット/秒の光信号を40波多重する装置と80波多重する装置をすでに製品化しています。80波多重の場合,全帯域の合計は3.2Tビット/秒にもなります。

 ROADMのもう一つのメリットは,パス管理の柔軟さです。波長に割り当てたパスをリモートから任意に変更できます。さらに「GMPLS」という新しい技術を利用して,ある波長のパスに障害が発生したときに,ほかの波長のパスに自動的に切り替えたりすることも可能です。

【Answer
RPRやROADMという新しい伝送技術が登場しており,将来的にはNGNに採用されていくでしょう。

出典:日経NETWORK 2006年12月号 82ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。