(田中 辰巳 リスク・ヘッジ代表取締役)

 企業経営者はどのような考えで経営にあたるべきか。万一、不祥事を起こした時、どう対処すべきか。このテーマについてほぼ1年前の2005年12月、リスク・ヘッジの田中辰巳代表取締役に寄稿いただいた。2007年に入っても企業の不祥事は起きている。田中氏の寄稿を再掲する所以である。


 コンプライアンスや企業倫理、CSR(企業の社会的責任)など、危機管理に関わる新たなテーマが次々と登場し、企業の危機管理に対する関心が高まっている。しかし、10年も前からその重要性が叫ばれているにもかかわらず、危機管理をきちんとできている企業は非常に少ない。これは、企業の大半がここ10年に訪れた社会の大きな変化に気づいていないからだと私は考えている。

復興、成長から公平、安全を求める社会に

 太平洋戦争が終結した1945年から半世紀が過ぎた10年前。その頃から、戦後の社会に潜んでいたひずみや歪みが顕在化し始めた。例えば、日本は戦後、官と民が一体となって復興に取り組んできたが、復興という目的を成し遂げた後も官民一体という枠組みが残った。金融の世界であれば、金融庁(旧大蔵省)が銀行を支配し、銀行がメーンバンクとして融資先の企業を支配するという構図が、復興の後も依然として残っている。この構図が癒着を生み、不正の温床となった。その結果、旧大蔵省の官僚に対する銀行の過剰接待という不祥事が起きた。

 国土交通省(旧建設省)などほかの省庁と企業との癒着も続き、官製談合の摘発が後を絶たない。このように戦後の復興のためには必要だったものが、役割を終えた後も既得権益として残ったため、様々なところで目に余る光景を露呈してきたのである。

 こうした不具合の続出に対して、国民は当然、反感を覚えるようになった。その結果、国民が「公正」や「公平」を求める社会に移り変わってきたのである。一方で、官民の癒着でフタをされてきた様々な危険も表面化し、国民が「安全」や「安心」を要求する姿勢も強まっている。

 このように歴史の必然として「公正」「公平」「安全」「安心」を国民が強く求める社会に変わってきている。そして、こうした社会の大きな変化に気づかずに従来通りのやり方を続けている企業が、官製談合などの不祥事で次から次へと摘発されているのである。

 不祥事の続出には、別の要因もある。不祥事の告発が増えていることだ。これには2つの要因があると私はみている。1つは、バブル経済の崩壊とともに多くの企業が終身雇用や年功序列制度を維持できなくなり、社員の企業に対する忠誠心が低下したこと。もう1つは、インターネットの普及など情報通信の手段が発展し、告発を行いやすくなったことである。

 告発するのは企業の社員だけではない。下請け会社などの取引先や一般消費者からの告発もある。告発をする人が多様化し、しかもインターネットの普及などで1つの告発がさらなる告発を呼び、火に油を注ぐような状況が生まれている。

無責任な言動を繰り返す企業

 注意しなければならないのは、このような状況が今後も続くことだ。過去に逆戻りすることは決してない。この点を踏まえて物事を考えなければならないにもかかわらず、何も考えてない恐竜の化石のような企業があまりにも多い。官製談合で摘発された鋼鉄製橋梁メーカーや重電メーカーなど、枚挙に暇がないくらいである。

 社会の大きな転換が訪れていることに気づかないから、コンプライアンスを「法令順守」という非常に狭い意味でとらえ、法律さえ守っていればよいと考える企業が出てくる。国民が「公正」「公平」「安全」「安心」を求める社会では、法の網の目をかいくぐる企業は許されない。コンプライアンスだけでなく、企業倫理やCSRにも真剣に取り組まなければ、企業は存続できない。そうしなければ、戦後社会から生じたひずみや歪みを修復することはできない。

 「公正」「公平」「安全」「安心」ということをキーワードに経営しなければならない。これは、社会の転換に伴う時代の要請なのだが、そのことが見えていない。だから、多くの企業で企業倫理やCSRの取り組みは掛け声ばかりで終わり、実行が伴わない。当然、不祥事を予防できないし、不祥事が発覚した後も、企業のトップが記者会見などで無責任極まりない言動をする。森ビルでは、暖房効率を優先して六本木ヒルズに回転ドアを導入したが、ドアに挟まれて子供が死亡する事故が起きた。しかし、一連の関係者たちは「私は知らない」と口々に言った。

 「公正」「公平」「安全」「安心」が伴っていない商品やサービスは時代に合わないという認識がないから今、話題になっているマンションの耐震構造計算書の偽造が起きる。そして、関係者がお互いに責任をなすりつけ合う。六本木ヒルズの事故の後と全く同じ展開になっている。

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