保護者と児童・生徒,教職員を「CHaT Net」と呼ぶグループウエアで結び,コンピュータによる双方向の教育を実践する玉川学園。2006年9月に,校舎内と一部屋外の無線LAN化を完了した。無線LAN経由で授業の成果物などをCHaT Netに収納し,いつでも,どこでも閲覧できる体制を整えた。

 「コンピュータは鉛筆やノートと同じ児童・生徒にとっての“道具”であるべき。コンピュータそのものを学ぶコンピュータ・リテラシの獲得だけでは不十分」。玉川学園でシステムの設計から構築,サポートまでをこなす学園マルチメディアリソースセンターCHaT Net運営室の波里純次課長は,こう言い切る。

 ITを道具の域にまで昇華させるという理想の背景には,「より多く,より大きい夢を」という教育理念がある。東京都町田市にキャンパスを構える玉川学園は,小中高の12年間を4年ごとに区切る独自の一貫教育を実施。この間に児童・生徒が抱く夢の実現を支援するツールとして,IT環境の整備を進めてきた。

 そのIT整備の総仕上げとなるのが,同校の各施設内に張り巡らせた無線LAN環境だ。無線LAN化は,2006年9月に完了。コンピュータ教室に限らず,普通の教室や共有スペースでパソコンを使える環境を用意した。玉川学園では,授業の成果物やデジタルカメラで撮影した画像を「CHaT Net」と呼ぶグループウエアに格納している(写真1)。このCHaT Netのコンテンツを拡充するのが無線LANの主な使命となる。

写真1●児童・生徒,教職員,保護者を結ぶコミュニケーション・ツール「CHaTNet」
写真1●児童・生徒,教職員,保護者を結ぶコミュニケーション・ツール「CHaTNet」
児童・生徒や教職員が日誌や授業の写真,行事の動画などを投稿。保護者が学校での教育を体験・共有できる場を提供する。

 CHaT Netコンテンツの充実は,同校にとっての顧客である保護者のニーズに応える施策でもある。CHaT Netは,「Children Homes and Teachers Network」の略。家庭をも対象とし,児童・生徒と教職員,そして保護者をネットワークで結ぶシステムだ(図1)。CHaT Netの特徴は,自分の子供の様子だけでなく,学園全体のコンテンツを閲覧可能にしている点。子供が学園に入学してからの12年間,どのような教育を得られるのか,どう成長していくのかを,保護者はCHaT Netを通じて体験できる。

図1●玉川学園のネットワーク構成
図1●玉川学園のネットワーク構成
2006年9月に校内の無線LAN化を完了した。無線LANは主に教育用パソコンのネットワークとして利用。無線IP電話機はシステム管理者など利用を希望する一部の教職員に配布している。ネットワーク機器は管理上の理由からシスコ製に一本化した。
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 無線LANの整備に併せて,自由に使えるノート・パソコンも145台用意した(写真2)。動画コンテンツを視聴できる薄型テレビも,2006年9月に完成した新校舎を中心に設置している。

写真2●ノート・パソコンをフリースペースに設置
写真2●ノート・パソコンをフリースペースに設置
教育用デスクトップ機などを含めると,児童・生徒向けパソコンは計約500台。OSはWindowsとMacintoshが半々。今後は両者のデュアルブート機を増やす計画だ。

障害復旧スピード重視でシスコに統一

 無線LAN環境の整備に着手したのは2004年。当時,多くの教職員が無線LANの利便性に着目し,草の根レベルでの導入を始めていた。しかしシステム部門が管理しきれず,セキュリティ維持の面では不安が残る。そこで,利便性とセキュリティの確保を両立させるべく,学校として用意する方向に話が決まった。

 機材の選定から設置個所の決定まで,構築作業のすべては波里課長が担当した。ベンダーの手は借りていない。「障害発生時など,ベンダーの保守要員を待っているようでは授業が成立しない。年間の授業計画に“穴”は開けられない以上,自分で保守できるシステムであることが重要」(波里課長)だったからだ。メーカーのシステム部門で勤務経験のある波里課長は,シスコ製品に精通している。運用管理やトラブルへの対処の負担を最小限に抑えるため,無線LANを含めてすべてのネットワーク機器をシスコ製に統一した。

 無線LANアクセス・ポイント(AP)の配置も,波里課長が経験則を生かして決めていった。見通せるところは1台,曲がり角があれば1台追加,といった具合だ。

 無線IP電話端末のインフラとして使うのであれば,電波の途切れや遅延を最小限に抑える配置設計が欠かせないところ。しかし玉川学園の場合は,CHaT Netなどのデータ通信が主な目的だった。無線IP電話端末「Cisco Unified Wireless IP Phone 7920」は,管理者や主任クラスで施設内を頻繁に移動する教職員の一部に貸与する程度で,導入は20台にとどまっている。厳密な設計は不要だった。

 また校内だけでなく,運動場の一部にも無線LANを利用できるエリアを設けた(写真3)。運動会など各種イベントが催される運動場は,CHaT Netに投稿するコンテンツを生み出す場。大会本部に用意したパソコンから,動画や静止画を無線LANを通じてCHaT Netサーバーにアップロードできるようにするのがその目的だ。実現にあたっては,校舎のベランダに指向性のあるアンテナを設置。必要最小限の個所に無線LAN環境を提供する。

写真3●指向性アンテナで運動場の一部を無線LANエリアに
写真3●指向性アンテナで運動場の一部を無線LANエリアに
運動会などの行事で大会本部を設置する場所だけを無線LANエリアにできるよう指向性アンテナを設置。デジタルカメラやビデオカメラで撮影した画像を,リアルタイムにサーバーにアップロードすることが可能になった。

ネットにつながる薄型テレビを活用

 無線LANと併せて設置した液晶やプラズマのディスプレイなどの薄型テレビは,動画を視聴できるSTBと組み合わせた映像端末として活用している(写真4)。その用途は,映像教材の視聴や鉄道遅延情報の告知など。図書館に設置した視聴用端末では,児童・生徒がリモコンによる操作で見たいコンテンツを自由に選べる。

写真4●校内の各所にプラズマ・ディスプレイや薄型テレビなどのディスプレイ端末を設置
写真4●校内の各所にプラズマ・ディスプレイや薄型テレビなどのディスプレイ端末を設置
IPセットトップ・ボックスと組み合わせて運用。映像教材の視聴や鉄道事故の連絡などに利用可能。

 現在は高学年校舎と理科系の設備を集めた「サイテックセンター」にプラズマ・ディスプレイを設置している。今後は中学年校舎など他の施設にも拡大する計画だ。

出典:日経コミュニケーション 2006年12月15日号 90ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。