今、IBMの世界戦略を見ると、インドと中国のプレゼンスが明らかに突出している。システム構築や運用、コールセンターのサービス拠点として、IBMはインドと中国の現地法人をフル活用する考えだ。有能な人材を多数、しかも比較的安く雇用できるからである。インドIBMは英語圏のバックオフィスとして、中国IBMは日本や韓国などアジア圏のバックオフィスとして機能し始めている。

 IBMのサミュエル・パルミサーノ会長兼CEO(最高経営責任者)は、インドと中国のアピールに余念がない。2006年6月にインドを訪問した際には、インドへの投資を今後3年間でこれまでの3倍に当たる60億ドル(約6700億円)に拡大すると宣言。アウトソーシングサービスで利用するデータセンターを建設するとともに、技術検証センターを設立していく。

 パルミサーノ会長は2006年11月、中国を訪問し、国際調達部門の中国への移管やSOA関連の開発センターの設置を発表。さらにリーマンブラザーズと組んで1億8000万ドル(約198億円)のファンドを中国に創設することも明らかにした。

 その一方、日本についての発言は目立たない。6月のインド訪問の帰途、パルミサーノ会長は日本に立ち寄り、ユーザー企業幹部の前で講演をしたものの、インドと中国の話題に終始した。2002年の就任後、公開の場所で初めての講演だったにもかかわらず、である(参考記事)。日本IBMの売上高は全世界のIBMの中で依然として米国IBMに次ぐ第2位であり、「IBMは日本を軽視しているのか」と感じた聴衆もいただろう。

 
  日本IBMの大歳卓麻社長
 日本IBMの地位は、IBMの中で低下してしまったのか。日本IBMの大歳卓麻社長と内永ゆか子専務に聞いた。

  「日本IBMの存在感が薄れていないか」。記者の質問に大歳社長は「ここにきて日本の果たすべき役割がむしろ高まっている」と断言する。その根拠として挙げるのが大和研究所の存在だ。

 「日本には、非常に強い電機産業と自動車産業が存在する。そこで、両産業の研究開発をサポートする専門部隊を大和研究所に設置した。これこそ、日本IBMの存在価値と言える。大和研究所はさらに海外の企業から研究開発案件を受注している」(大歳社長)。

 
  神奈川県にある日本IBMの大和研究所

 大和研究所でこれまでIBMのための開発や研究に携わっていた要員を、外部の企業向けのサービスに振り向けている。大和研究所を所管する内永専務は、「日本には世界トップクラスの製造業が多数あり、大和研究所のメンバーは、こうした製造業がどのような点を課題と思っているのか、肌で感じることができる。大和研究所のパワーの4割を顧客の問題を解決するサービスに振り向けている」と説明する。

 
  日本IBMの内永ゆか子専務

 大和の部隊が日本企業に提供しているサービスの柱は、いわゆる組み込みソフトの開発支援である。自動車や電化製品への組み込みソフトウエアは、製品によっては開発コストの半分以上を占めている。

 「ソフトウエアのアーキテクチャ設計や実装の技術に当社は長けている。このノウハウを提供することで、顧客はトータルの開発コストを下げられる。ある企業の事例では生産性を約2倍に上げた」(内永専務)。すでに、松下電器産業、韓国サムソン電子、三洋電機、オリンパスなどとの協業を始めており、自動車会社とも協業しているという。

 IBMは“ワールド・イズ・フラット”を合い言葉に、全世界170カ国で30万人以上の社員のリソース再配置に乗り出している。システム開発やコンサルティング、研究、といった社員のスキルをワールド・ワイドで統一のデータベースに登録。プロジェクトごとに最適な社員を選択して配置する体制を確立しようとしている。「それぞれのIBMが得意な技術やサービスを提供していく。地球レベルでの最適化が顧客の価値向上に必要不可欠」(大歳社長)。

 大歳社長の語るように、IBMの全体最適は日本の顧客にとっての最適解になるのか。日本IBMは、日本の顧客の満足度を維持しつつ、IBMイズ・フラットをどのように日本に“実装”していくのか。2007年の舵取りは重大といえる。