ユーザー企業でのおサイフケータイの活用は,電子マネー決済の導入からスタートした。コンビニエンスストアや飲食店を中心に徐々に広まってきており,レジ精算時間の短縮などの成果を上げている。

 だが,消費者向けサービスでは,各企業が決済以上に本命とするものがある。マーケティングへの活用だ。狙いは,顧客が再度店舗に訪れる率を上げたり,購買意欲を刺激して顧客単価を引き上げること。先行するユーザー企業では,さまざまな顧客サービスの提供を開始している。そこで,特徴的な活用をしている4社の取り組みを紹介しよう。

ポイントと電子マネーの変換で新規顧客を開拓--ワンダーコーポレーション

 北関東を中心にゲームやDVD,CD,化粧品などの専門店を展開するワンダーコーポレーションは2006年3月からおサイフケータイ対応の会員証を提供し,基幹店「WonderGoo」のほぼすべてに当たる128店舗で展開している。当初はNTTドコモだけを対象にしていたが,2006年11月には携帯電話3社すべてに対応させた。

 この会員証は,ポイントカードとしての機能を持つ。購入時に金額の2~10%分の仮想通貨「ポイント」を付与し,顧客は1ポイントを1円分の通貨として利用できる。ここまでは,量販店などでよくある古典的な手法だ。他社と異なるのは,500ポイント以上ためると1ポイントにつき1円分の電子マネーに交換できること。変換できる電子マネーは,ビットワレットが発行する「Edy」である。

 ワンダーコーポレーションの深見弘システム開発部長代理は,「携帯電話でEdyを利用している人の呼び込みを狙った。ポイントで囲い込む時代は終わりつつあると思う。顧客の流出を防ぐのではなく,新規顧客を開拓するという観点だ」と変換サービスを導入した狙いを説明する。

 Edyを利用できる店舗は,am/pmやサークルK,サンクス,マツモトキヨシなど生活圏内にかなりの数がある。普段からこうした店を利用しているユーザーであれば,WonderGOOで買い物をする動機付けになる。また,Edyは全日空のマイルとの相互変換も実施しており,マイルをためているユーザーにも訴求できる。Edyを採用する企業,Edyと自社ポイントの変換サービスを実施する企業が,Edyを介して連携しているようにも見えるのだ。

ITによるリコメンデーションを実店舗に導入--イズミ

写真1 ゆめピッとで配布中のクーポン
写真1 ゆめピッとで配布中のクーポン
[画像のクリックで拡大表示]

 広島に本社を置く総合スーパーのイズミは,顧客一人ひとりに最適化した販促を行う「ワン・トゥー・ワン・マーケティング」の実現を目指して,おサイフケータイの活用を始めている。

 同社が展開するおサイフケータイを活用したサービスとは,電子会員証の「ゆめピッと」。ポイントカードとしての機能に加え,(1)来店時に店頭のキオスク端末に携帯電話をかざすと10円分のポイントを付与する,(2)会員や特定顧客に限定したクーポン情報を配信する,といった顧客サービスを提供している(写真1)。クーポンを利用する際には,来店ポイントを発行するキオスク端末で紙のクーポン券を打ち出して利用する。

 イズミの高崎美晴情報管理部長は「特に,誕生月のクーポンなど特定顧客に“直撃”するクーポンは非常に効果が高い」と評価する。今後は,顧客の購買履歴などの情報を利用し,さらにワン・トゥー・ワン・マーケティングの精度を高めていく予定だ。「アイデアとしては,粉ミルクのクーポンを使った人に子供服のクーポンを送るなどの手法が考えられる」(高崎部長)という。

 これが実現すれば,アマゾンなどのEC(電子商取引)サイトが用いている顧客別のリコメンデーション手法を,実際の店舗を展開する企業でも適用できるようになるわけだ。

おサイフケータイでアーケード・ゲームを変える--セガ

写真2 クラブセガ大崎のゲーム機に搭載されたEdy決済端末。通常は105円だが,毎月23日の「セガの日」には52円で遊べる。
写真2 クラブセガ大崎のゲーム機に搭載されたEdy決済端末。通常は105円だが,毎月23日の「セガの日」には52円で遊べる。
[画像のクリックで拡大表示]

 小売業以外でも,おサイフケータイの活用は進んでいる。セガは2004年から,アミューズメント施設でEdyによる支払いに対応。その後対応店舗を広げ,現在では大崎や渋谷など都市圏にある9店舗で利用できる。専用の携帯電話向けアプリケーションを配布し,さまざまな顧客サービスを提供している。

 狙いは三つある。一つは顧客のリピート率の向上。ゲームのプレイごとに投入金額の5%分のポイントを付与し,そのポイントをゲームに使えるようにした。「同じゲームを遊ぶなら,セガの店舗に行きたいと思ってもらえることを狙った」(並木竜史AM事業統括部ビジネスプロデュース部長)のだ。従来は顧客がどれだけゲームをしているか店舗側では把握できず,利用料金に応じたポイント制度は導入できなかった。

 二つめは,顧客単価の引き上げ。そのために,利用額が1000円に到達すると携帯電話のアプリケーションが立ち上がってスロット・ゲームを起動するようにした。当たった場合はポイントを進呈する。利用額が900円まで行くと「あと100円でスロットが遊べます」というメッセージを出すことで,利用者があと100円分やりたくなるような仕掛けになっている。

 三つめは,ゲームの値付けを柔軟にすることだ。現在のアーケード・ゲームは,100円,200円,300円という100円単位の料金設定しかできない。ゲーム機に釣り銭機能を持たないからだ。この弊害として,例えば300円のゲームを徐々に値下げするようなことはできず,ある程度の時期で200円まで一気に値下げせざるを得なくなるという問題があった。また,100円を下回る料金設定も難しかった。Edyによる決済を導入することで,こうした問題の解決を狙っている(写真2)。

おサイフケータイを使って広告効果を測定する--リクルート

 ほかにも,広告分野への活用も始まっている。リクルートは本格活用前の実験として2006年2月,住宅情報サイト「住宅情報ナビ」において,マンションのモデルルームへの来場者に1000円分のEdy電子マネーをプレゼントするキャンペーンを実施した。「何人が住宅情報ナビを見て来場したのかといった広告効果の測定や,見学する順番や組み合わせ,期間など利用者の行動特性を調べる」(西村里香・住宅情報ナビ編集長)というのが狙いだ。

 Webサイトへ誘導する広告とは異なり,実際の店舗や施設などへ誘導する広告では,顧客が何の広告を見て来場したのか分かりにくい。その弱点をおサイフケータイの活用でカバーしたというわけだ。

 広告効果などを把握できたのは,ビットワレットの「Edyギフト」の仕組みを利用したから。この仕組みでは,指定したIDに対してEdy電子マネーを発行できる。住宅情報ナビ上で事前登録してもらうことで,利用者のEdyのIDを収集。利用者がモデルルームでリーダー/ライターにおサイフケータイをかざしたときに,事前登録したIDに対してEdy電子マネーを発行するようにした。Edy電子マネーを発行した場所や時間とIDをひも付けて記録しておくことで,利用者の行動特性を可視化できた。

出典:日経コミュニケーション 2006年12月15日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。