ビフォー・ アフター

 様々な業界で競うように発行しているポイントカード。家電量販店など値引きのツールとして用いられている業界もあるが、本来は情報を受け取った対価として支払われるものだ。
 1999年からポイントカードを導入した東急百貨店は、顧客の明確化(見える化)を進めている。得意客を逃さなかったり、ポスト得意客となり得る層がどういった消費行動を取るのかを分析するためである。それを下支えしているのが、99年に稼働したCSP(カスタマーサービスプログラム)システムだ。
 CSPシステムに入ったポイントカードの履歴を蓄積することで、顧客を深掘りしてニーズを見いだし、購買金額を引き上げるための取り組みをしてきた。これによって、年間100万円以上購入する層が2005年度に前年度比105.3%になったほか、維持率も上昇するなど得意客をつなぎ留めることに役立っている。


東急百貨店本店の婦人服売り場と、72万枚を発行するポイントカード「TOP&clubQカード」
東急百貨店本店の婦人服売り場と、72万枚を発行するポイントカード「TOP&clubQカード」

●自社カードシェアの推移
●自社カードシェアの推移

 東急百貨店はCS(顧客満足度)経営を標ぼうし、2002年度からの中期経営計画では上位顧客の顧客内シェアを高めることを掲げた。上位顧客の消費行動を知るには購買情報の蓄積が必要となる。収集活動の根源となるのが1999年に導入したポイントカード「TOP&clubQ」である。これまでに72万人が会員となり、売り上げにおける利用比率も5割を超えるなど定着してきた。

 日本経済新聞の百貨店店舗別売上高ランキングによると、東急百貨店は東京・渋谷の本店(東横店を含む)が最上位で、全国第10位(2005年度)。メーカーは、売る力の強いランキング上位から重点的に売れ筋を投入してしまう。上位に負けない品ぞろえをするために東急が選んだのは、顧客をより深く理解することである。購買履歴を分析することで自社の顧客像を把握し、メーカーに伝えられる。

 一方顧客にとっては、自らを分かってもらえている安心感から東急での購買意欲が強まる。このサイクルを目指して、ポイントカードから吸い上げる情報を分析する「CSPシステム」を99年に稼働した。

 成果は既に表れている。2005年度には東急百貨店全店で年間100万円以上購入する顧客が前年度比で5.3%増え、売り上げに占めるシェアは2000年の18%から25%まで上がった。また、得意客の維持率も2004年度は79.7%から2005年度は84.1 %へと向上した。

DMの反応率もつかむ

 CSPシステムで情報を引き出せるのは、東急百貨店の全社員とショップの店長など。売り場近くにある業務端末からアクセスできる。

 そこで得られる情報は、誰がいつどこで何をいくら買ったかという基本的なもの。さらにそれを年齢別にまとめたり、得意客に絞って1回当たりの購買額や来店回数などを分かるようにしている。またダイレクトメール(DM)を送付後に、来店したかどうか(反応率)など、販促を実施した結果も分かる。

 東急百貨店の中に店を構えるショップによってはそれぞれの上位顧客を把握し、販促を実施していたところもある。ただし、その顧客情報は紙の台帳で管理されていることが大半で機動的に使いづらかった。また、購買情報もあくまでもそのショップ内のものに限られていた。

 例えば、そろそろスーツを購入する時期と見てDMを出したとしても、顧客がほかのショップで買ったばかりでは効果は薄い。これでは東急百貨店としても、店全体の売り上げを高めにくかった。CSPシステムはこうした問題も解決する。

情報の読み取り力を上げる

 ただし、システムを導入したからといって、すぐに効果の出るものではなかった。「担当者の情報を読み取る力をどう養成するかに苦心した」と営業推進室顧客計画推進部CSP推進の森下次郎統括マネジャーは振り返る。

 購買情報を見て次の一手を考えるのはショップだけではなく、百貨店の社員も深くかかわる。フロア担当者(売り場担当者)がデータを読みながらショップにアドバイスするのだ。このフロア担当者が立てる仮説が大きく間違ってしまえば販促をかけても無駄打ちに終わってしまう。

 東急は、2000年に本社にCSPシステムの分析を支援する専門部隊を設置した。各店舗(全国11店)にも同様の担当者を置き、実際に情報を分析するフロア担当者を支援する。本社と各店の担当者が週に1度集まり、成功や失敗事例を共有する。本店でCSPを担当する営業推進部の谷村哲司CSP推進マネジャーは、「この会合は実に有意義。特に失敗事例は参考になる」と語る。

●得意客を逃さないためにシステムを活用
●得意客を逃さないためにシステムを活用
[画像のクリックで拡大表示]

後編へ続く 

出典:日経情報ストラテジー 2006年11月号 242ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。