ビフォー・ アフター

 顧客を満足させるための売り場作りが最も優先される小売業では、間接業務の合理化は後回しにされがちである。イオンの場合、全国に分散する総合スーパー「ジャスコ」約260店舗のそれぞれに事務所があった。そこで勤怠管理や資材発注、各種経理業務や、店舗従業員の結婚や転勤などにかかわる事務を行っていた。POS(販売時点情報管理)レジなどの導入が進んだ店頭に比べて、事務所では紙による非効率な業務が多く残されていた。
 2002年に始まった「BPRプロジェクト」によって、こうした店舗間接業務の改革を進めた。多くの作業を情報システムによって電子化するか、シェアードサービス拠点である「業務受託センター」へ移管。店舗当たりの後方事務作業量を改革前の18.2人月から現在は5.7人月まで減らし、年間100億円近いコスト削減につなげた。


今年4月にオープンしたイオン浦和美園ショッピングセンター(さいたま市)。8万7000m2の商業施設面積は同社最大
今年4月にオープンしたイオン浦和美園ショッピングセンター(さいたま市)。8万7000m2の商業施設面積は同社最大

 イオンは1990年代後半から約750億円に上るIT(情報技術)投資と全社業務改革を断行。米ウォルマート・ストアーズなどのグローバル・リテーラー(世界的小売業)にならった改革を進めた。この過程で、店舗や物流、間接業務などにかかわる情報システムをすべて再構築した。

 イオンの2006年2月期の単独決算は、営業利益が242億9700万円で前年比39.7%増となり、減益基調から大幅増益に転じた。景気回復などの外部要因だけではなく、新システムによって衣料品の店舗在庫が1割以上減るなど、IT投資が利益に貢献し始めている。

 改革を取り仕切ってきた縣厚伸(あがたあつのぶ)・常務執行役IT担当は、「イオンの売上高営業利益率はまだ低い。グローバル・リテーラーに追いつかなければならない」と言う。2006年2月期のイオン単独の営業利益率は1.28 %で、ウォルマートの5.93%(同年1月期)とは開きがある。

 イオンは利益率向上のために、物流網を抜本的に見直す「IT物流プロジェクト」で商品原価の引き下げを狙った。2002年5月からは、もう1つの柱である販売管理費を削減するための「ビジネスプロセス改革(BPR)プロジェクト」を始めた。

 後者の核になるのが、店舗における間接業務の合理化である。イオンは、総合スーパー「ジャスコ」業態を約260店展開する。大型店では従業員数600~700人という規模になるため、店舗に付随する経理・総務・人事などの間接業務(店舗後方事務)が少なくない。海外と比較して人件費が高い日本では、これが大きなコスト要因になる。

 BPRプロジェクトの効果は絶大だった。開始前の2002年2月期には、後方事務にジャスコ1店舗当たり18.2人月を費やしていたが、2005年2月期までに5.7人月、およそ3分の1に削減。それ以降も同等の水準で推移している。

 従来は店舗の事務所に常時8~10人がいたが、現在は、日中で2~3人、夕方以降は無人で運営。これは、全社で年間80億~90億円のコスト削減に相当する。実際には、85%程度の人員は売り場などに配置転換し販売力を強化。残りは退職や契約時間短縮で対応した。

 一方で、店舗後方事務の代行を含めたイオン全社の間接業務を担う「業務受託センター」(千葉市)には、パート社員も含めて五百数十人が勤務する。IT活用や業務プロセス改革の効果もあり、BPRプロジェクト以前に比べて、人員は大きく増やしていない。

紙が多かった店舗後方事務

 「店舗では売り場や商品には力を入れてきたが、後方事務については後回しにされてきた」(縣常務)

 以前は、各店舗の事務所に結婚届け、転勤届けなど200種類以上の申請書式があった。紙が無くなれば補充も必要。店舗の従業員が申請書に記入すると、それを総務担当者がチェックして本社に送るなど、手間がかかっていた。

 BPRプロジェクトでは、こうした紙による非効率な事務作業を、新たに構築した情報システムとネットワークを使った作業に置き換えた。あるいは、店舗で作業するのではなく、業務受託センターに集約するシェアードサービス化を実行した。

 そのために、まず店舗後方事務を洗い出した。外部コンサルタントとともに店舗でヒアリングして業務を分析。解決策を立てられる単位で作業を分類した。この結果、「人事総務」「会計」「システム」「商品管理」「販促」の5分野で合計214作業が抽出された。

 次に、これを「業務受託センターに移管する作業」「電子化などによって廃止する作業」「店舗に残す作業」に分類した。

 各作業を「専門性」「作業時間」という2つの軸で評価し、「専門性が高く、かつ作業時間が長い」ものを、業務受託センターに移管。業務品質を上げることを目指した。法令や就業規則の順守が求められる勤怠管理や、作業の絶対量が多い請求書・支払いの処理など、34作業を移管した。

 これに該当しない64作業は、「電子申請システム」など新たに構築した情報システムに取り込んで、店舗作業としては廃止した。結婚や転勤の申請など比較的単純なものが多い。これらはパソコンの画面で本人が入力し、画面上で上司が承認すれば、自動的に給与への反映などが行われるようにした。

 「間接業務改革は部分的にやっていても効果は出ない」(縣常務)。複雑な作業も含めてすべて電子化。そのまま店舗に残した作業は73作業あるが、これは「商品の荷受・検収」など、現物の管理が必要なものに限られる。

●イオンの「BPRプロジェクト」では、店舗の間接業務を抜本的に見直した
●イオンの「BPRプロジェクト」では、店舗の間接業務を抜本的に見直した
[画像のクリックで拡大表示]

後編へ続く )

出典:日経情報ストラテジー 2006年10月号 166ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。