最近マスコミでは,日本と北米で発売されたソニー「PlayStation 3」や,北米で発売された任天堂「Wii」の話題がにぎわっているが,これら次世代ゲーム機を冷ややかな目で見るユーザーも多いようだ。曰く「これ以上グラフィックスが綺麗になってもゲームは面白くならない」「据え置き型よりも携帯型ゲーム機の方が有望」--実は記者も,そう思っていたユーザーの1人である。

 記者の次世代ゲーム機に対する失望は,9月に開催された「東京ゲームショウ 2006」で最大限まで高まった。東京ゲームショウ直前の9月20日,先陣を切ってまずマイクロソフトが東京・渋谷でXbox 360の新作お披露目会を開催したのだが,記者はそこで何とも言えない違和感を味わった。

 「ハイデフ」(High Definition,高精細の略)を宣伝文句に売り出したXbox 360だけに,そこで披露された新作ゲームも高精細グラフィックスを強調していたのだが,どう見てもそれが「ゲームのおもしろさ」を向上させているように見えなかったのだ。これは筆者がロール・プレイング・ゲーム(RPG)に興味が無いからかもしれない。しかし,美麗なグラフィックスで描き出された鎧姿の兵士が大群で縦横無尽に動き回るのを前にして,ユーザーにできることが「たたかう」コマンドの選択だけでは,記者でなくてもフラストレーションがたまるのではないだろうか。正直言って記者は,次世代ゲーム機に絶望した。

 記者の絶望は,東京ゲームショウの1日目に焦燥に変わった。きっかけとなったのは,カプコン開発統括編成部の竹内潤部長がパネルディスカッションで行った「今回の“次世代機W杯”開催地は北米」という発言である(関連記事:今回の「次世代機W杯」開催地は北米,日本メーカーはAwayで勝てるか?---現役プロデューサがディスカッション)。竹内氏は,ゲーム開発技術の進化が北米で生じていることや,日本のゲーム市場が頭打ちになっている一方で,北米市場と欧州市場が順調な成長を遂げていることを引き合いに,ゲーム市場の主戦場が日本から北米に移り,日本のゲーム・メーカーが厳しい立場に置かれていると主張した。

 「主戦場は北米」という意識は,ソニーや任天堂も強く持っているだろう。ソニーはPlayStation 3の初期出荷を日本は10万台と抑える一方で,北米向けには40万台を出荷した。任天堂もWiiをまず北米で発売し,続いて日本で発売しようとしている。記者も3月に「PS3が世界同時発売の理由」という記事で,PlayStation 2をまず日本で発売したソニーがPlayStation 3で戦略を転換した理由を「ゲーム業界における日本市場の存在感が相対的に低下したため」と分析していた。しかし実態は「相対的な低下」ではなく「日本から北米への主役の交代」ですらあったようだ。

 記者の気は重くなった。日本市場で据え置き型ゲーム機向けのゲーム・タイトルがパッとしない一方で,北米では3次元CGを多用したゲーム・タイトルが数百万本単位で売れているという。記者は前述の通り,「これ以上グラフィックスが綺麗になっても,ゲームが面白くはならない」と感じていた。日本のゲーム市場に力が無くなり,3次元CG重視の北米市場が勃興して日本市場も輸入ゲームばかりになったら「やるゲームが無くなってしまう」と思ったのだ。

 5歳で任天堂の「ゲーム&ウオッチ」を与えられて以来,いつのまにかゲーム歴26年を数えるようになった記者も,そろそろ「ゲーム卒業」なのか。東京ゲームショウが終わって,記者はこう思うようになっていた。

この動きはITproで紹介した方がいい

 しかし,記者のそんな意見は,つい先日180度転換した。それどころか,「ゲームが,かつてないほど凄いことになっている」とすら思っている。

 「記者のつぶやき」とはいえ,ITproでゲームの感想を語るのは気が引ける。しかし記者は,これからのゲームが実社会や企業活動に影響を及ぼすようになると確信した。よって,記者が最近のゲームの何に驚き,そこに何を見たのか,もう少し紹介させて頂きたいと思う。

 記者が意見を転換したきっかけは,パソコン用の「24型液晶ディスプレイ」を購入したことだ。ワイド・モニターを推奨するWindows Vistaの登場に備えた,と言うと格好がいいが,実際は「6万9800円」という価格に引かれて,衝動買いしてしまっただけである。これが記者にとって,初めての「ハイビジョン対応ワイド・ディスプレイ」だった。

 実は記者は,5月の段階でXbox 360を購入済みである。しかし,自宅にある25型のCRT(ブラウン管テレビ)につないでも,PlayStation 2との違いを感じず,お蔵入りにしていた。そこでXbox 360を,この24型液晶ディスプレイにつなげてみたのである(Xbox 360にはVGAケーブルもオプションとして用意されている)。

 正直驚いた。確かに,マイクロソフトの言う通り「ハイデフ」で楽しむゲームの美しさは格別だ。ただし,これで記者の意見が覆った訳ではない。「綺麗になっただけ」のゲームには,あまりのめり込まなかった。

 記者の意見が覆ったのは,そのころネットで話題になっていた,「デッドライジング」(カプコン)というゲームに手を出してからである。

次世代機が描き出すショッピング・センターに没入

 デッドライジングを身も蓋もなく表現すると,「カプコンが得意なゾンビ・ゲーム(バイオハザードが代表作)の舞台を,アメリカの大規模ショッピング・センターに移したもの」である。主人公は,ゾンビに埋め尽くされたショッピング・センターに潜り込んだフォト・ジャーナリストで,迎えが来るまでの72時間,ショッピング・センターで生き延び,ゾンビが発生した謎を追うのがストーリーだ。

 しかし記者は,謎解きよりも,ゾンビに埋め尽くされた架空のショッピング・センターで「生活」することのトリコになってしまった。次世代ゲーム機が膨大な計算能力を使って720pの高解像度で描き出すショッピング・センターは,想像を超える自由な世界だったのだ。

 ユーザーは,広大なショッピング・センターの中ならどこでも自由に移動できるし,様々な「商品」を,自由な形で活用できる。ゾンビと戦うのに使用できるアイテムは,銃やナイフに限らない。展示されている液晶テレビや壺をゾンビにたたき付けることもできるし,体力回復アイテムとして用意されている「クリーム・パイ」をゾンビの顔に投げつけて,ゾンビの視界を奪うことも可能だ。フライパインをガス・コンロで熱してゾンビの顔に押しつける,といった非常に悪趣味な攻撃手法も用意されている。

 「たたかう」といったコマンドから解放され,記者は仮想世界の自由を満喫した。本筋の謎解きを忘れて,ショッピング・センターの地下搬入路にうごめく大量のゾンビを自動車で轢くことに没頭し始めたときに,「現実では体験できない体験」の凄さを思い知り,仮想のショッピング・センターから「帰ってこられなくなる」気分になった。

「オアフ島」から帰ってこられなくなる

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