イーサネットはもともと,ミニコンピュータやワークステーションを接続するためのLAN技術としてスタートした。しかし,イーサネットの普及のきっかけとなったのはパソコンへの搭載だろう。その最初の製品となったのが,米3Comが1982年に発売した「EtherLink ISA Adaptor」である。

 1981年に登場したIBM PCはパソコンを一気に広めた。それをイーサネットの新たな応用分野として狙っていたのが3Comである。同社は,1979年にBob Metcalfeらが設立したばかりのイーサネット専業メーカーだ。

 当時,イーサネットは個人向けのパソコン向けには高価すぎると言われていた。また,イーサネット用のコントローラ・ボードが大きすぎて,IBM PCのきょう体に収まらないという問題もあった。そのころ3Comの副社長を務めていたLarry Birenbaumが書いた記事「The IBM PC Meets Ethernet」(1983年11月,BYTE)によれば,当時のコントローラ・ボードの面積は100平方インチ(約645cm2)だが,IBM PCに搭載できるのは52平方インチ(約335平方cm)に過ぎなかった。また,コントローラ・ボードやトランシーバなど最低限必要な部材のコストについても,当時は1800ドルだったのに対し,パソコン向けには1000ドルを切る必要があると3Comは理解していた。

 3Comにとって幸運だったのは,当時急速に発達してきたVLSI技術によって,コントローラに必要な部品点数を大幅に削減できたことだ。3Comはチップ・メーカーと共同で,コントローラの主要な50個のICを1個のLSIチップに集積し,IBM PCに収まるサイズのコントローラ・ボードを作り上げた。また,販売価格は950ドルに抑えられた。

使いやすい市販のケーブルを採用

 IBM PCに搭載されたイーサネットには,ほかにも技術的なブレークスルーがあった。イーサネットには,電気信号を送受信する「トランシーバ」という部品が必要だが,当時のトランシーバは大きく,コンピュータの外付けになっていた。3Comは,トランシーバを小型化し,コントローラと同じボードに搭載することに成功した。

 それと同時に,ケーブルを安価で使いやすいものへと変更した。従来は,太くて曲げにくく,高価な「イエローケーブル」という専用品を使っていた。IBM PC向けのイーサネットでは,細くて引き回しやすく,安価な標準品である「RG-58」というテレビ向けの同軸ケーブルを使うことにした。3Comは,この細い同軸ケーブルを使う方式を「Thin Ethernet」と名付けて売り出した。

 Thin EthernetはのちにIEEEによって「10BASE2」として標準化されることになる。イーサネットの導入が遅れた日本では,10BASE2が広まる前に10BASE-Tの時代が来てしまったため,10BASE2の存在感が乏しかった。しかし,本場の米国では10BASE2は大ヒットし,イーサネットの普及に大いに貢献した。

出典:日経NETWORK2006年9月号『NETWORK博物館』より
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