DWDMシステムには,異なる波長で発光する半導体レーザーが複数必要になります。ここで有効な光部品が,所望の波長で発光できる波長可変レーザーです。保守コストの低減につながるほか,動的に波長を変える次世代システムへの応用も考えられています。

 光伝送システムの大容量化技術として,1本の光ファイバで複数波長の光信号を高密度に多重伝送できるDWDM*システムは欠かせません。現在では,10Gビット/秒を80波多重する伝送システムが実用化されています。

 DWDMシステムを構成する各送信ユニットには,それぞれ異なる波長で発光する半導体レーザーが組み込まれています。80波のDWDMシステムでは,波長の異なる80個の半導体レーザーを使います。このため保守用にも80種類の半導体レーザーが必要となり,コストがかさむ点が課題となっていました。

 このような課題を解消する技術として,近年波長可変レーザーの導入が始まっています。波長可変レーザーとは,発光波長を所望の値に設定できるレーザーです。通常の固定波長レーザーと違って,送信ユニットの発光部品を波長可変レーザーで統一できるため,DWDMシステムの運用性を向上します(図1)。

図1 波長可変レーザーのメリット
DWDMシステムの送信ユニットが1種類になり,システムを運用しやすくなる。
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半導体集積型とMEMS型の2タイプがある

 一般に半導体レーザーは発光機能を持つ半導体光導波路(以下,発光部)と,波長を決定する回折格子を持つ半導体導波路(以下,回折格子部)を組み合わせて構成します。通常の固定波長レーザーの発光部では,半導体導波路で生じた光のうち,回折格子によって特定の波長のみを再び半導体光導波路に戻します。そして誘導放出で光を増幅し,レーザー光を生成します。

 波長可変レーザーでは,所望の波長のレーザー光を生成するために,回折格子が半導体光導波路に戻す波長を変更できる仕組みを持っています。仕組みの違いによっていくつかの方式が存在しますが,半導体集積技術を使ったタイプとMEMS*技術を使ったタイプが代表的です(図2)。

図2 波長可変レーザーは半導体集積型とMEMS型が代表的
いずれも回折格子が半導体光導波路に折り返す光の波長を変化させる仕組みを持つ。
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 半導体集積技術を使った波長可変レーザーは,回折格子部と発光部を接続して,一つの半導体チップ上に集積します(図2左)。回折格子部の温度を電流やヒーターなどで変化させることで半導体の屈折率を変え,回折格子の波長選択性を変更します。

 なお半導体集積技術による波長可変レーザーは,複数の波長可変レーザーと,これらを束ねるための合波器を半導体チップ上に集積するタイプも実現されています。こちらは,さらに多くの種類の波長を発光できます。

 一方のMEMS技術を使った波長可変レーザーは,回折格子の角度を機械的に変更できる部品を発光部の外側に取り付けています(図2右)。回折格子を回転させることで発光部に戻す波長を変更。レーザー光の波長を変化させる仕組みです。

 半導体集積技術とMEMS技術は,いずれもレーザー本体の小型化が可能で,選択した波長を高精度に保つ安定性にも優れ,実用化が進んでいます。

動的に波長を切り替える次世代システムへ

 波長可変レーザーの波長切り替え時間は,半導体集積型で数マイクロ秒,MEMS型でも数ミリ秒とごくわずかです。そのためDWDMシステム以外にも利用が期待されている分野があります。

 波長可変レーザーが真価を発揮するのが,DWDMネットワーク内の波長を動的に切り替えられる次世代システムです。波長可変レーザーをOXC*ROADM*用に使い,動的に波長を切り替えることで,柔軟性のあるネットワーク運用が可能になると考えられます。特に半導体集積型の波長可変レーザーは,数マイクロ秒以下の切り替え時間が想定される次世代システム候補「波長ルーティング・ネットワーク*」にとって必要不可欠な部品となるでしょう。

 次回は本講座の最終回となります。これからの光ネットワークを展望し,まとめとします。


萩本 和男
NTT未来ねっと研究所 所長

加藤 和利
NTTフォトニクス研究所 フォトニクスデバイス研究部 グループリーダ

大橋 弘美
NTTフォトニクス研究所 フォトニクスデバイス研究部 主幹研究員

石井 啓之
NTTフォトニクス研究所 フォトニクスデバイス研究部 主任研究員
出典:日経コミュニケーション 2006年3月15日号 154ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。