ホークスタウンが所有するJALリゾート シーホークホテル福岡は2006年5月,客室や事務所内などに,合わせて約3000台規模のIP電話システムを導入。インターネット接続とテレビ放送のストリーミング配信システムも構築し,一挙にフルIP化を実現した。

 福岡ソフトバンクホークスの本拠地である「福岡 Yahoo!JAPAN ドーム」や巨大ショッピング・モール「ホークスタウンモール」を擁する複合商業施設のホークスタウン。その中でもひときわ目立つ36階建ての建物が「JALリゾート シーホークホテル福岡」である。1052もの客室と4000人の収容が可能な宴会場を備えるこの巨大ホテルは,2004年に現経営体制に移行。同年12月にホークスタウンがJALホテルズと契約したことで2005年からホテルの全面改装がスタートし,その姿を変え始めた。

 だが,ホテル自体の開業は1995年と10年も前。JALホテルズと契約した2004年当時は既にブロードバンド全盛で,ホテルのネットワーク環境は貧弱といわざるを得なかった。そこで改装に合わせて,2005年末からホテルのネットワーク環境の整備を開始。インターネット接続,IP電話,映像配信を2006年5月に一気に実現したのが今回のプロジェクトである。

トリプルプレイを構内で実現


図1 IP化で三つの悩みを一挙解消
ホークスタウン内のJALリゾート シーホークホテル福岡は2004年の新体制発足時,(1)宿泊客へのインターネット接続環境提供,(2)PBXが古く更改が必要,(3)テレビの共同視聴設備の老朽化──という三つの悩みを抱えていた。これらをすべてIP化することで,一挙に解決を図った。
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 2004年当時,同ホテルは三つの悩みを抱えていた(図1)。(1)宿泊客からのインターネット接続環境要望の増加,(2)PBX更改時期の超過,(3)テレビの共聴設備の老朽化である。

 ホークスタウンのホテル事業本部施設運営部の中野誠功課長(写真1右)は「客室でのインターネット接続は弱みだった。ダイヤルアップ接続*しかできなかったため,宿泊客からの不平も多かった」と当時の様子を振り返る。だが,悩みはインターネット接続だけにとどまらなかった。「PBX*プロシキは(ホテル開業前の)15年も前の機種。PBXの更新という課題もあった」(中野課長)。

 さらに,テレビの視聴環境も悩みの種だった。例えばテレビの共聴設備は,ブースターが200台近くあり,増幅分配を繰り返していた。そのためブースターが一つでも劣化すると,そこからノイズが出て全館に影響を与える状況だったという。

 そこでホークスタウンは,この三つの悩みを一挙に解消しようと試みた。2年前の時点で,インターネット接続,電話,放送を合わせて提供する「トリプルプレイ」をホテル構内で実現させようとしたのだ。

個別でなくトータルの解決策求める


写真1 ホテル内のIP化を進めたホークスタウン ホテル事業本部施設運営部の中野誠功課長(右)とプロジェクトを請け負ったエイリツ電子産業の瀧川英樹新規事業部長(左)
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 構内トリプルプレイ実現に向け,約20社のメーカーなどから提案を受けた中野課長だったが,どれもホークスタウンの要望に応えているとは言い難かったという。なぜなら「全体を包含したプレゼンテーションがほとんどなかった」(同氏)からだ。

 各社のプレゼンは,テレビ単体やVOD*に焦点を絞ったり,インターネット接続環境に主眼を置いたり,IP電話システムの導入を重視したりと,どれも偏っていたという。「みんな自分の得意なパーツで提案してくる。個々のパーツは良くても,コストや総合管理の問題,電話とインターネットをどう結びつけるかといったトータルな提案がほとんど見当たらなかった」と中野課長。ホークスタウンが求めていたのは,トータルのソリューション,トータルのコーディネートだった。

 これに応えたのが,福岡県に本社を置く地元のエイリツ電子産業。同社は「RururuBB」という名称でホテル向けネットワーク・サービス事業を展開しており(現在は関連会社のアール・イー・ソリューションズが事業展開),インターネット接続とIP電話,映像配信をトータルで提案した。エイリツ電子産業の瀧川英樹新規事業部長は「IP電話やテレビ放送のストリーミング化などをホテル向けにトータルで提供したのは我々が初めて」と言う。

 その結果,2005年11月にエイリツ電子産業をまとめ役としたプロジェクトが発足。IP電話システムは日本コムシスの「comsip」をホテル向けに一部カスタマイズした。comsipはLinux上で動作するサーバー・ソフトで,ユニーク・リンクの「OfficeWizard」をベースにした製品。またLAN配線工事などは神田通信機が携わった。

 そして2006年5月末,アナログ電話からIP電話へ一夜にして切り替え,新ネットワークが稼働した。

徹底した冗長構成でサービス維持


図2 JALリゾート シーホークホテル福岡のネットワーク構成
各客室のインターネット接続,VoIP,テレビ放送などの番組配信の三つをすべてIPネットワークで統合。ホテル内は,各フロアを1Gビット/秒の1000BASE-LXで結び,フロア内はIP電話関連は100BASE-TX,インターネット接続とテレビ放送系は1000BASE-Tを使用。IP電話用のネットワークは冗長化。外線もひかり電話とINSネット1500を併用する。
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写真2 ホテルのIPネットワークを一括管理IP電話や映像配信システム,ネットワーク機器などを一括して管理する。各部屋の状況もホテルのフロントのシステムと連動することで取得することができる。
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 こうして出来上がった新ネットワークは,徹底した冗長構成を取っている点が特徴だ(図2)。インターネット接続,電話,映像配信を統合したため,例えば1本のケーブルの断線で同時に三つのサービス停止に追い込まれてしまう点を考慮した。

 各フロアとセンター・スイッチを結ぶネットワークはすべて2重化。IP電話や映像配信用サーバー機,センター・スイッチなども冗長構成とした。トラブル発生時も即座にバックアップ系に切り替えられるため,客室の機器故障以外は,電話が使えなくなったり,テレビが視聴できなくなることはない。

 外線も2系統用意する徹底ぶりだ。メインはNTT西日本のひかり電話*ビジネスタイプを使うが,INSネット1500*も4回線契約。外からの予約申し込みの電話などを逃さない体制を整えた。さらにインターネット接続環境も2系統にした。通常は日本テレコムの「ULTINAインターネット」を経由してインターネットに接続するが,Bフレッツを使いOCN*経由で接続する経路も別途用意。徹底したバックアップ体制で顧客サービスに臨んでいる。

 Bフレッツは最大100Mビット/秒の「ベーシックタイプ」を4回線契約している。これは1回線で収容できるひかり電話のチャネル数に制限があるため。NTT東日本のBフレッツは1本で100チャネル取ることができるが,NTT西日本では1本で30チャネルまでしか取れないためである。

 さらにこうしたネットワークを支える機器の管理ツールも,エイリツ電子産業が作り込んだ(写真2)。各機器の監視を同社が24時間365日遠隔地から実施。その体制は万全だ。

 客室の電話機はアナログ電話機を引き続き使用し,VoIPゲートウエイ*を通してIP化する。アナログ電話機を使い続ける理由の一つはIP電話機の価格が高いこと。もう一つは浴室などに設置するための「防水仕様のIP電話機が存在しない」(中野課長)ためだ。

電話の「伝言」をテレビでお知らせ

 ただし,IP化することで問題も発生した。宿泊客に伝言メッセージがある場合,部屋の電話機のランプを点灯して知らせることができなくなったのだ。SIP*でランプを光らせるには,特殊な作り込みが必要となる。


図3 テレビを活用して伝言を預かっていることを知らせる
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 そこで電話にこだわる発想を転換。電話やテレビのネットワークをIPで統合したことを活用し,伝言メッセージがあることを電話機でなく,テレビを使って宿泊客に知らせることにした(図3)。「元々電話のランプが点灯していても,それに気付かない宿泊客も多かった」(中野課長)。テレビを使うことで,逆に顧客サービスの向上につながったのだ。

 この仕組みは次のようになっている。現在,部屋の電源はルーム・キーを差し込むことで初めて利用可能となる。ルーム・キーが差し込まれて電源が使える状態になると,フロントのシステムは顧客が戻ったと判断。その情報をテレビ側管理システムへ伝える。すると該当する部屋のセットトップ・ボックス*がテレビの電源を自動的に入れて,伝言メッセージがあることをテレビ画面に表示する。こうすることで,電話のランプが点灯しない不備を補うとともに,顧客が気付きにくい事態も防止した。

 「今回整備したネットワークは,将来の変化にも対応できるプラットフォームだと思っている。このプラットフォーム上で,今後も新サービスを提供していく」(中野課長)。IPという糧を得て,ホテルのサービスはこれからも進化しそうだ。

出典:日経コミュニケーション 2006年8月1日号 76ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。