「なぜ,こんなに人月単価が高いのか」,「この作業に,どうしてこれだけの工数がかかるのか」――。ユーザー企業は,見積もりに対して様々な不満を抱えている。ここではユーザー企業が不満を感じる5つの問題点を解説しよう。それらを知ることが,よい見積書を作るための第一歩となるはずだ。

広川 智理(ひろかわ ともさと)
アイ・ティ・アール取締役 シニアアナリスト

 システム開発プロジェクトにおいて,ユーザー企業がベンダーに最も強く望むことは何か。それは,満足のいくQCD(品質,コスト,納期)でシステムを完成させてくれることに他ならない。

 最終的にシステムが完成してみなければ,それが本当に実現されるかどうかは分からない。しかし商談の段階でも,その実現に向けてベンダーがきちんと仕事をしてくれるか,またプロジェクトが問題なく進展するかどうかを判断するための有力な材料がある。それが提案書であり,本特集のテーマである見積もりだ。

見積もりへの不満は強い

 だが,見積書に対して強い不満を抱えているユーザー企業は少なくない。筆者はユーザー企業の依頼を受けてベンダーの見積書を評価する業務を行っている。その経験を基に言えば,ベンダーが提出する見積書には合理的な根拠が欠けていて,ユーザー企業にとっては,とても納得できない内容のものが多い。そのため,ユーザー企業は,見積書を通してプロジェクトの成功を思い描けない――確信を持てない――のである。

 このままではユーザー企業にとってもベンダーにとっても不幸だと言わざるを得ない。そこで第2部では,ユーザー企業から見て,特に不満の強い5つの問題点を取り上げて解説する。

 具体的には,!)人月単価のばらつきが大きい,!)ベンダーが設定する作業の「複雑度」の根拠が分からない,!)どんな「成果物」を作成してくれるのか分からない,!)体制と要員のスキルに不安がある,!)プロジェクトマネジメント能力に不安がある――の5つである(図1)。それぞれについて詳しく見ていこう。

図1●ユーザー企業が見積書に不満を持つ5つの問題点
図1●ユーザー企業が見積書に不満を持つ5つの問題点
ユーザー企業は,予算の縮小や短期間でのプロジェクト完了要請など経営環境の変化によって,ベンダーが作成する見積もりへの評価を厳しくしている。最近はトータルコストだけでなく,人月単価やプロジェクト体制,工数,作業内容など,より詳細な項目について妥当性を検証する傾向が強まった

問題点(1) 人月単価の根拠があいまい

 5つの問題点の中で,ユーザー企業が最も不満を感じているのは,コンサルタントやSE,プログラマの「人月単価(1人当たりの月単価)」*1である。

 人月単価をベースとした見積もりには様々な問題があり,IT業界として改めていかなければならないものであることは承知している。しかし現時点では,ベンダーがシステム開発費を提示する際に,「人月」以外の明確な指標が存在していないことは事実だ。ユーザー企業にとっても,人月単価による見積もり以外は評価しにくいという状況にある。

 だが,その人月単価に不満を持っているユーザー企業は決して少なくない。まず,ベンダーによって人月単価の設定が異なるため,相見積もりをとったユーザー企業は,「どうしてこんなに単価が違うのか」と疑問を持ってしまうのである。

 図2は,アイ・ティ・アールが2004年6月に調査した,ITベンダー28社における人月単価の平均値だ。「コンサルタント」や「プロジェクト・マネジャー」など全10職種にわたり,大手ベンダーと中小ベンダーに分けて人月単価をまとめた。

図2●こんなにばらつきがある大手と中小ベンダーの人月単価
図2●こんなにばらつきがある大手と中小ベンダーの人月単価
アイ・ティ・アールは2004年6 月に,ITベンダー28社に対して職種別の人月単価を聞いた。ベンダーによって大きなばらつきがあり,職種によっては大手と中小の間で2 倍近い開きがある

 グラフを見て分かるように,大手と中小の単価の間には大きな開きがある。例えば,大手ベンダーのコンサルタントの平均単価は263万円,これに対して中小ベンダーのコンサルタントの平均単価は132万円と,2倍近い開きがある。

 大手ベンダーと中小ベンダーの間でこのように単価に開きがあるのにはもちろん,ある程度,合理的な理由がある。つまり,一般的に大手にはプロジェクトの代替メンバーが豊富にいるし,プロジェクトを組織的にサポートする体制も整っている。中小に比べて,ある日突然資金繰りが悪化して倒産する可能性も少ないだろう。したがって大手の単価には,こうした「信用料」が上積みされている。このことに対しては,ユーザー企業も一定の理解を示している。

 だがたとえそうであっても倍近い開きはいかにも大きい。しかも同じ大手,もしくは中小の中でも,単価設定にはばらつきがある。例えば,中級クラスのSEの単価を見ると,大手ベンダーの中で最高が190万円,最低が95万円と,100万円近い開きがある。中小ベンダーの場合も同様だ。最高で120万円,最低で65万円と60万円近い開きがある*2

 仮に1人月で50万円の差があるとすれば,100人月のプロジェクトで5000万円,200人月のプロジェクトならば1億円もの違いが出る。ユーザー企業が,ベンダーに対して人月単価の納得できる“根拠”を示してほしいと願うのも当然と言えるだろう。

「働きぶり」にも厳しい目

 単価そのものに対する納得感も決して高くない。図3に示したのは,ユーザー企業に聞いた,ITエンジニアの「料金に対する働きぶり」についての評価である。

図3●ユーザー企業が不満を持つITエンジニアの料金と働きぶりの関係
図3●ユーザー企業が不満を持つITエンジニアの料金と働きぶりの関係
日経マーケットアクセスが2003年4~5月にかけて,ユーザー企業約440社に対して,職種・ランク別にITエンジニアの働きぶりを聞いた。その結果,コンサルタントはSEやプログラマに比べて割高だと感じる回答が多かった。コンサ ルタントに対して「料金を下回る働き」および「料金をはるかに下回る働き」と評価する回答は31.9%に上った

 プログラマ,SE,コンサルタントと,どの職種に対しても,働きぶりに不満を持つ回答が20%以上もある。最も単価が高いコンサルタントを見ると,「料金を下回る働き」および「料金をはるかに下回る働き」と評価する回答者が,全体の31.9%に上った。

 実際に筆者が見た見積書には,入社1年数カ月という経験・知識がほとんどないと思われるメンバーを単価300万円の「コンサルタント」として扱っているものがあった。よく指摘される問題だが,一向に是正される様子がない。ユーザー企業にしてみれば,「300万円もの金を払って,現場教育されてはたまらない」と思って当然だろう。

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