光ネットワーク技術の進展に伴い,「テストベッド」の存在が重要になっています。テストベッドとは,研究段階の技術を検証するための実験環境のことです。今回はテストベッドの意義と,情報通信研究機構の「JGN II」に設置された「光テストベッド」を紹介します。

 光ネットワーク技術はアクセス・ネットワークからコア・ネットワークに至るまで,広い領域で適用されています。光ネットワークの新技術は,それらがネットワーク上できちんと動作するのか,研究開発の段階で評価・検証することが重要です。実際のネットワーク上で初めて遭遇する課題も多いからです。

 例えば光伝送装置の研究開発においては,光ファイバ・ケーブルの伝送特性を踏まえて設計することはもちろんのこと,実際に現場に敷設した光ファイバ・ケーブルを使って実証することが不可欠です。またネットワーク装置の導入においては,異なるネットワークやレイヤーの装置間,さらには複数のベンダー装置間で相互接続性を検証することが重要になります。

 こうした背景から,新技術を評価・検証するために,研究開発に携わる機関がオープンに利用できる公的なテストベッドが登場しました。

 日本において,光通信技術の研究開発を推進・支援する公的なテストベッドは,独立行政法人の情報通信研究機構(NICT)*が運用する「Japan Gigabit Network研究開発テストベッド」(JGN II)内に設置された「光テストベッド」が代表的です。

JGN IIは2タイプの光テストベッドを用意


図1 テストベッド・サービスを提供する研究開発用ギガビット・ネットワーク「JGN U」の概要
情報通信研究機構(NICT)が2004年4月から運用を開始した。光ネットワークの研究開発用に「光テストベッドA」「光テストベッドB」を備える。
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表1 JGN Uの光テストベッドを利用した主な実験成果
詳しくはNICTのWebページ(http://www.jgn.nict.go.jp/07-trend/index.html)を参照。
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 JGN IIは,利用目的に合わせて関西地区と関東地区に二つの光テストベッド環境を用意しています(図1[拡大表示])。

 関西地区の「光テストベッドA」は,フォトニック・ネットワーキングの研究開発向け設備がそろっています。NICTけいはんな情報通信オープンラボ(京都府相楽郡精華町)と大安寺(奈良市),堂島(大阪市)の拠点間は20心の光ファイバ・ケーブルで結ばれています。拠点間を折り返すことによって,最長640キロメートルの光ネットワークを構築できます。それぞれの拠点には,低雑音の光増幅器(OFA:optical fiber amplifer)や波長合分波器のAWG*,さらにはGSMP*インタフェース機能を実装した光スイッチも設置されているため,GMPLS*など次世代のネットワーク機能の検証が可能です。

 一方の関東地区の「光テストベッドB」は,テラビット級の光伝送技術を実験できる環境を整えています。東京都の大手町と柏中継局,つくばJGN IIリサーチセンター(茨城県つくば市)の拠点間は片道100キロメートルの2心光ファイバで結ばれており,折り返すことで最長200キロメートルの光伝送実験系を構築できます。

 各拠点には広帯域光増幅器や分散補償ファイバ(DCF)*などが装備されており,超高速光信号や波長多重光信号の伝送が可能になっています。また中継用の光増幅器は遠隔制御に対応するため実験を円滑に進められます。

 これらのテストベッドは,研究開発目的であれば原則として誰でも利用できます。複数の研究機関が共同実施する実験にも利用可能です。

成果は1000波多重のWDM伝送実験など

 JGN IIの光テストベッドを利用した成果も多く生まれています(表1[拡大表示])。例えば,波長多重数が商用レベルのWDM伝送装置と比較して約10倍の1000波WDM伝送実験や,160Gビット/秒の速度で8波長多重によるテラビット級(1.28Tビット/秒)の超高速都市間光伝送実験,距離96キロメートルの量子暗号フィールド試験などがあります。

 波長多重数1000波のWDM伝送実験では,超高密度の波長多重信号をNICTけいはんな情報通信オープンラボ拠点にて発生させ,堂島拠点との往復126キロメートルの間で伝送実験に成功しました。この成果は,10T(1Tは1012)ビット/秒級の光ルーターを実現するための技術として生かされようとしています。

 NTTが実施した光パスの切り替え時間間隔を短縮する光バースト・スイッチ*・ネットワーク実験も,JGN II「光テストベッド」を利用した成果の一つです。

 この実験では,NICTけいはんな情報通信オープンラボ拠点と堂島拠点に計6台の光スイッチを配置したネットワーク実験系を構築し,経路う回による波長衝突回避時間も含めて20ミリ秒以下での高速光パスの設定に成功しています。従来と比較して10分の1程度のスイッチング時間となるため,バースト的なトラフィックに対して,大幅な波長リソース削減をもたらすと期待されています。このように新技術の評価や実証を行うテストベッドは運用実績を積んでいくことが重要です。テストベッドで検証を経た技術は,今後次々に実用化されていくでしょう。それに伴ってテストベッドにも,最先端技術がフィードバックされます。テストベッドの役割はますます重要になっていきます。

 次回は,40Gビット/秒を実現する最新の高速伝送技術の動向を解説します。


萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長
山林 由明 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 部長
盛岡 敏夫 独立行政法人 情報通信研究機構 情報通信部門 主任研究員
高田 篤 NTT未来ねっと研究所 フォトニックトランスポートネットワーク研究部 光処理研究グループ グループリーダ
出典:日経コミュニケーション 2006年1月15日号 98ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。