高橋くん:
営業一部のIT推進委員。営業マンとして働く一方,システム部と協力して部内のネットワーク・システムの面倒を見ている。
島中主任:
システム部主任。社内ネットワークを運用管理する中心人物。各部署のIT推進委員からの声を社内ネットに生かすよう活動している。

 障害時の対応を考えると,日ごろの情報管理はとても重要である。ここでいう情報とは,サーバーの構成情報や設定情報,アカウント情報といったものを指す。例えばHDDに障害が発生した場合,障害の発生したサーバーやHDDの型番を伝えることで代替品の手配ミスが起こる確率が小さくなる。

 また,障害の原因がわからないときには,実際のユーザー・アカウントや特権アカウントを使って原因を切り分けることがある。こうした点からも,日ごろからアカウントのメンテナンスを心がけておく必要がある。

島中:そもそも,HDDの中にはどんなデータが入っていたかわかるかい?


図2 HDD内に保存されていたデータおよびプログラム
以下の4分類の情報を復旧させなければならない。

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図3 サーバーのトラブル発生時の対応手順
高橋くんの管理がずさんだったため,対応に手間取る。

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高橋:まずOSやアプリケーション・ソフトが入ってますよね。あとは,代理店向けのダウンロード・データに営業部門で使っていた情報共有システムのデータ,そして代理店や営業部員がアクセスしてくるときの認証に使うアカウント・データが入っていたと思います(図2[拡大表示])。

島中:そうだね。このうちOSとアプリケーション・ソフトは情報システム部,残りは高橋くんが管理することになっていたはずだ。DATからデータを復旧すれば,とりあえずシステム稼働時の状態には戻せるから,OSやアプリケーションは問題ない。残りのデータで稼働後に追加した情報は,高橋くんが集められるだけ集めるしかないな。できるかい?

高橋:はい。代理店向けのダウンロード・データはメーカーからもらった原本データがあるので大丈夫です。アカウント情報については,過去のメールやノートに書いてるものを洗い出せばなんとか復旧できると思います。営業部門内の共有データは,営業のみんなが書き込んだデータなのでどこにも残ってないと思います。どうしましょう?

島中:明日の業務時間までに復旧させなければならないのは,代理店向けのサービスだから,それは後回しでもいいだろう。ただ,データを復旧させるとなると,営業のみんなに声をかけてみるしかないだろうなぁ。もしかすると誰かがパソコンにHTMLファイル*でデータを保存しているかもしれないよ。

高橋:わかりました。確認してみます。

 ベンダーの作業員による障害対応が済むと,島中主任は早速DATからデータを復旧させた。それに続いて高橋くんは,まず代理店向けのダウンロード・データを用意してサーバーにセーブ。さらに,過去のメールなどからアカウントの情報を集めてシステムに再入力した。

 問題だった営業部門内の共有データは,部長のノート・パソコンに前日分までのデータが残っているのがわかった。部長は毎日,会社を出る前にブラウザの機能を使って共有データをHTMLファイルで保存していたのだ。そのHTMLファイルから情報部分を抜き出して,高橋くんがデータを再入力することになった。

 営業部門の共用データを除き,営業部門用サーバーが元の状態に戻った。すでに深夜12時近くになっていた。

島中:ようやく動作確認も終わって復旧できた。残るは営業部門の共用データだけど,それは高橋くんに任せたよ。

高橋:はい。思ったより早く終わりましたね。

島中:なにを言っているんだ! 日ごろからこまめにバックアップしていればもっと早く復旧できてたんだぞ(図3[拡大表示])。1カ月前のバックアップがあったからこれで済んだけど,1年以上経っていたら,もっと大事になっていたはずだ。もう少し反省してもらいたいな。

高橋:すみません…。

島中:これに懲りたらちゃんとバックアップ・テープを交換して管理台帳も更新しておくんだよ。営業部長と関連する各部署への連絡も忘れないように。

高橋:はい,わかりました。本当にありがとうございました。

一難去ってまた一難,今度はパソコンが紛失

 島中主任は終電に乗り遅れないように急いで帰っていった。高橋くんは,営業部門の共有データの復旧作業を進め,終わったのは夜が明けようという時間だった。

 高橋くんは,早めに出社してきた部長に状況報告を済ませ,システムの稼働を確認してもらった。そのうえで,代理店および営業部員にシステム復旧のメールを入れた。さらに出社してきた島中主任を捕まえて,営業部門の共有データも復旧したことを伝えた。徹夜明けということもあり,ここまで処理した高橋くんは,部長に許可をもらって朝のうちに家に帰った。

 その日の夕方,高橋くんは携帯電話の着信音で目が覚めた。同僚からの電話で,「パソコンを紛失した」という連絡が高橋くんの内線電話にかかってきたという。高橋くんは大急ぎでシャワーを浴びて出社した。

 会社に着いた高橋くんは,残されていた伝言メモで紛失したパソコンの登録番号をチェックし,管理台帳を開いて持ち出し許可を受けている営業部員を突き止めた。山田さんだ。高橋くんは早速,山田さんに電話を入れた。

高橋:もしもし。パソコンを紛失したって連絡を受けたんですけど。えっ,何のことかって? ああ,そうでした。確かに,異動になるからパソコンを後任の方に渡すって話を聞いていました*。すみません。その後任の人は … 安藤さんですか。安藤さんの連絡先はわかりますか? … そうですか,じゃあ連絡先はこっちでなんとかします。 … 大変だっ! とりあえず,島中主任に連絡しないと! …(ダイヤル)… 島中主任ですか? 営業の高橋です。

島中:なんだい。サーバー・トラブルの件でまだ何か引きずっているのかい?

高橋:それとは別件なんです。実は,ノート・パソコンを紛失したっていう連絡が入ってきたんです。

島中:なんだって! 状況はわかってるのかい?

高橋:いいえ,それがまだ紛失した人と連絡が取れていないんです。

島中:なんでだ?

高橋:実は台帳に登録してある持ち主が異動になったんで,後任の人にパソコンを渡してるんです。その話は聞いてたんですけど,台帳の更新ができてなくて…。すみません。

島中:もう謝るのはいいから,早くその後任者と連絡をとって状況を聞くんだ!

高橋:はい。


●筆者:佐藤 孝治(さとう たかはる)
京セラコミュニケーションシステム データセンター事業部 東京運用監視課・責任者
社内,社外のシステム・インフラ導入業務を経て,現在はデータ・センターの構築・運用管理に従事している。

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出典:日経NETWORK2005年8月号 162ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。