写真5●長野高専のサウンドナビゲーターが利用するICタグ。とても小さい
写真5●長野高専のサウンドナビゲーターが利用するICタグ。とても小さい
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図1●競技の概要。800×600ピクセルの原画像と100枚の加工画像から,どの加工画像が原画像から作られたか,その座標はどこかの正しさを競う
図1●競技の概要。800×600ピクセルの原画像と100枚の加工画像から,どの加工画像が原画像から作られたか,その座標はどこかの正しさを競う
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防災,防犯系の作品が集中した課題部門

 さて,今度は課題部門を見てまわります。今年のテーマは昨年に引き続き「街に活きているコンピュータ」。私たちが暮らす地域や生活をサポートし,安心を与えてくれる作品を考えるのが課題です。

 「日本は身障者に冷たい国だ」という強い告発調のメッセージで本選に挑んできたのは長野高専です。視覚障害者の歩行サポートのために設置されている点字ブロックは十分に機能を果たしていないとして,膨大な情報が記録できる無線ICタグを利用した,新しい歩行サポート・ツールを開発してきました。名付けて「サウンドナビゲーター」。このシステムでは,歩道の下に無線ICタグ(写真5[拡大表示])を埋め込み,視覚障害者が足首に取りつけた専用機器でタグに書き込まれた情報を読み取ります。

 例えば,視覚障害者が歩いているうちに歩道をはずれそうになったとき,「サウンドナビゲーター」は歩道の両端に埋め込まれた無線ICタグの情報を検知して,視覚障害者に音声で警告を発します。そのほか,目的地案内機能もあって,例えばバス停までの道のガイドを頼むと,「右折してください」「まっすぐ歩いてください」「バス停につきました」などといったメッセージが合成音声で伝えられます。

 最初に話を聞いたときは,これを実現するには莫大な投資が要るなと思ったんですが,点字ブロックを敷くかわりに無線ICタグを埋め込むと考えれば,手間はそれほど変わらないかもしれません。あとは専用機器をどれだけリーズナブルに提供できるかでしょうねえ。

 「テレビで報道される災害情報は不十分,もっと被災地の生活やニーズに密着した詳細な情報を収集,配信できる仕組みが必要だ」という発想から開発に取り組んだのが八戸高専チーム。「町災共(ちょうさいきょう)ネット—災害に強い町内災害情報共有システム—」で参戦です。これは,被災地の住民自身がパソコンや携帯電話から町災共ネットに情報を送信することで,生の情報を蓄積しようというわけです。例えば,○○橋が落ちたのを目撃したAさんが「○○橋が落ちた」という情報をアップします。Bさんはその情報を見て,ネット上に迂回路を提案するコメントを付けます。またその情報を見て,たまたま迂回路を通過中のCさんが道路の混み具合についてコメントするという具合です。システムは被災者のPC同士がP2P(Peer to Peer)のネットワークを構成することにより実現するので,ネットワークの一部が断線しても稼働可能です。

 おもしろいのは,それぞれの情報について住民自身が評価することになっている点です。その評価結果を見て,その情報を信じていいかどうかを判断するんです。ユニークなガセネタ防止措置です。住民が積極的に参加する気運が盛り上がれば,かなり機能するのではないでしょうか。

 子供たちが犯罪に巻き込まれる事件が増えていることに,胸をいためて立ち上がったチームもあります。「Star Guards —地域情報で子供たちを守れ!!—」をエントリーした徳山高専です。

 「変なおじさんがいた」「意地悪するおにいちゃんがいる」などといった子供の報告を受けた家族が,家庭のPCやPDA(携帯情報端末)からシステムに情報をアップします。いつどこでどういう種類の問題が発生したかといった内容を登録すると,それがデータベースに登録され,システムを共有しているユーザーに対して,その情報と危険な場所を避ける道すじを公開します。また,子供にPDAを持たせることで,GPS(全地球測位システム)機能を利用して危険な場所に近づくと警告を発することもできます。小さな子供自身にも情報を出してもらえるよう,合成音声と絵とひらがなだけのわかりやすいインタフェースを用意したのが微笑ましいなと思いました。

 課題部門を一通りまわって思ったことは,防災,防犯系の作品が多いなということです。今年,日本は豪雨,台風,地震などたくさんの災害に見舞われました。学生の皆さんも何とか対策を講じて社会貢献したいと思ったんでしょうね。その気持ち,とても尊いと思います。

波乱万丈の展開となった競技部門

 さて,今度は毎年手に汗握る展開でこちらをドキドキさせてくれる競技部門,今年のテーマは「ハートを捜せ!」です(図1[拡大表示])。競技開始とともに,800×600ピクセルのカラーの原画像と,100枚のハート型の加工画像がサーバー上に公開されます。その加工画像は,原画像の一部を切り出し,拡大,縮小,左右上下反転,回転,色の変更などの加工をランダムに施し,最後にハート型のマスクをかけたものです。ただし,その中には原画像から切り出されたのではない,ダミー画像も混じっています。

 参加チームはネットワークを通じてこれら両方を手元のパソコンにダウンロード,開発したシステムを使ってどれが原画像から切り出された加工画像か,そしてその原画像のどこから切り出されたものなのかを判定し,サーバーへ解答を提出します。

 1試合に8チームないしは9チームが参加し,7分間の競技時間の間に,よりたくさんの加工画像を見つけた上位2チームが2回戦,決勝戦へと進むことができます。ただし,1回戦については,上位2チームに残れなくても敗者復活戦に挑むことができ,ここで2位までに入れば2回戦へ進めます。見つけた加工画像の数が同じ場合は,特定した座標の位置がより正確なチームが上位になります。加工画像の枚数と座標の位置でも差がつかないときは,より早く終了宣言したチームが上位となります。間違った解答を送ると,それまでの正解が一つ取り消されるので,解答は慎重に提出しなければなりません。

 単純計算すると,1枚の加工画像につき50億回の比較検討をしなければ,それが原画像から切り出されたものかどうかを判別できないそうです。それを独自のアルゴリズムの開発でどう迅速化し,どう正確に割り出すか。また,問題の受け取りから回答の提出までの通信機能をどこまで自動化するかなどといったことも,勝利を決めるポイントになりそうです。

 過去2戦連続優勝を果たしている大阪府立高専の3冠なるか,それとも毎年惜しいところまでいきながら優勝を逃している久留米高専のリベンジなるか。また米Microsoftが主催するImagine Cupのビジュアルゲーミング部門で世界第3位に輝いた熊谷一生くんが一関高専から出場しており、彼の活躍も気になるところです。

 1回戦,スタート。出題されたのは風景画像でした。加工画像はかなり小さいです。少なくとも,人間の目でこれらに施された加工を解きほぐして解答するのは至難の技です。ソフトウエアを使うことで,それがどこまで支援されるのでしょうか。1回戦第1試合,第2試合を見ているかぎりでは,加工画像の解答数が8点,9点ぐらいで1位になっていたので,「今年は難しいんだ,去年の大阪府立高専みたいにぶっちぎりというのはないのかも」と思っていたら,第3試合でいきなり旭川高専が24点をマーク。それで驚いていたら,なんとなんと第4試合に登場したハノイ工科大学(以下,ハノイ工大)が33点をたたき出しました。

 そうなんです。昨年に引き続き,ハノイ工大がオープン参加で出場しているんです。オープン参加というのは,成績がどうあれ順位は付けられません。しかし,出場した試合で上位2位までの高専チームよりも成績がよかった場合は,次の戦いに進むことができるというルールとなっています。さらに今年はモンゴル科学技術大学(以下,モンゴル科技大)も参戦。第5試合で20点を獲得,この組で1位になりました。

 見ているとこの2チーム,競技が始まって問題をダウンロードしたあとは,全然ノートPCを触らないんですよね。ただ見ているだけなんです。高専チームはノートPCをインタラクティブに操作しているところが多いんですが,どうやら彼らは全自動システムを作ってきたようです。これはひょっとして台風の目になるかも。

 注目の高専チームはといえば,久留米高専はなんとか順当勝ちしたものの,大阪府立高専,一関高専は1回戦で上位2位に入れないという波乱の展開。両者とも敗者復活戦でなんとか舞い戻ってきたものの,出題される画像によって難易度が大きく変わるようで,どのチームが勝ちあがるかまったく予想できない混戦状態です。見る側としてはがぜんおもしろくなってまいりました。


名 称:全国高等専門学校 第16回 プログラミングコンテスト
開催地:米子コンベンションセンター(鳥取県米子市)
URL:http://www.procon.gr.jp/16th/

学生向けソフト開発イベント特集

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出典:日経ソフトウエア 2006年1月号 34ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。