図3 イーサネットの原型となるALOHAシステム<BR>ハワイの各島を結ぶ無線通信技術として登場した。
図3 イーサネットの原型となるALOHAシステム<BR>ハワイの各島を結ぶ無線通信技術として登場した。
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図4 同軸ケーブルを共有するイーサネットが始まる
図4 同軸ケーブルを共有するイーサネットが始まる
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無線通信の原理を発展させて誕生

 イーサネットの起源は,ハワイ大学のノーマン・エブラムソン教授が開発した「ALOHAシステム」と言われています。ノーマン氏はハワイ諸島をつなぐ軍用無線通信システムを使い,複数のコンピュータが任意のコンピュータと同時に通信する手段としてALOHAシステムを開発しました(図3[拡大表示])。このALOHAシステムでは,同じ周波数の電波を使って,ハワイのそれぞれの島にあるコンピュータ同士が通信していました。無線という一つの空間を通して,複数の人間が同時に会話をしていたようなものでした。

 ゼロックスのパロアルト研究所にいたメトカフ氏は,オフィス内のコンピュータを有線で接続する方法として,このALOHAシステムの技術に注目しました。無線の代わりに1本のケーブルを使い,複数のコンピュータ間で通信できるようにしたのが「イーサネット」です。空間を共有して会話する考え方から,ギリシャ時代に信じられていた空間を満たす物体エーテル(Ether)を使ったネットワークという意味でイーサネット(Ether+Net)と名づけられました。

 具体的には,1本のケーブルに各端末が信号を流すことで送受信する方式にしました。これは10BASE5(テンベースファイブ)*と呼ばれる規格で,1本の同軸ケーブルに針状のタップを突き刺すことで端末を接続します(図4[拡大表示])。現在のような送信と受信が分離されたより対線*光ファイバ*上でイーサネットが利用できるようになるまでに20年近い歳月を要しましたが,元々1本の線を共有するという方式だったことを考えれば致し方ないことだと思います。

 無線のALOHAシステムでは,複数の端末で同じ周波数を使うため,通信の信号が衝突していました。この問題は,データを受信した端末が必ず応答を返し,応答が返らない場合は送信側が再送するという手法で解決しました。しかし,この方法は極端に効率が悪く,伝送効率は18%に過ぎなかったと言われています。

 そこで,メトカフ氏はイーサネットの伝送効率を改善するために,早めに検知して衝突を最小限にする方法を考えました。まず,通信はネットワーク上に信号が流れていないことを確認してから開始します。万一ほぼ同時に通信を開始して衝突した場合にはすぐに送信を停止して,ランダムな時間だけ待った後に再送します。これが,現在でも使われている「CSMA/CD* 」と呼ばれる方式です。

 その時点での通信状況を判断しながら制御できるのは,まさに近距離の有線通信ならではといえます。無線では,自分自身の送信信号と他のコンピュータからの受信信号では信号のレベルが違い過ぎ,両方を把握するのは困難です。

オープンを武器に勝ち抜いた10M時代

 1970年代にゼロックス社内の実験ネットワークとして誕生したイーサネットは,1980年代に10Mビット/秒の伝送速度を持つネットワークとして広く一般に使われ始めました。その後,1990年代以降に100Mビット/秒から1Gビット/秒と通信速度を向上させていきます。

 1980年代には,当時コンピュータ・メーカーとして圧倒的な勢力を誇っていたIBMのトークンリング*や,パソコンの雄アップル・コンピュータが開発したAppleTalk(アップルトーク)のローカルトーク*など,イーサネット以外のネットワークも続々と登場しています。その中で,イーサネットは「オープン」なことが受け入れられて生き残りました。

 トークンリングは,トークンと呼ばれる権限をやり取りしながら制御することでイーサネットよりも効率よく通信できましたし,ローカルトークはその使い勝手のよさでイーサネットに勝っていました。しかし,いずれも一企業の商品の範ちゅうを超えなかったのに対し,イーサネットはゼロックス社が特許を開放し,オープンな規格になりました。メカトフ氏は,「イーサネットにはさまざまな機器が接続されるべき」と考え,DEC(デック)*,インテル,ゼロックスの3社共同でDIX(ディックス)コンソーシアムを立ち上げて仕様の公開を実現しました。

 これにより,世界中の技術者が腕を振るい,次々と新しい工夫や商品が生み出される環境が整いました。さまざまなベンダーから製品が登場することで,イーサネットは徐々にメジャーな存在となっていきました。メカトフ氏自身も後にゼロックスを退社し,3Com(スリーコム)社を立ち上げてさまざまなイーサネット装置を世に出すことで,イーサネットの発展に大きくかかわっています。

 この1980年代は,人類進化の過程と似ている気がします。ほぼ同時に登場したクロマニヨン人とネアンデルタール人のうち,わずかにコミュニケーション能力が秀でたクロマニヨン人が,仲間と力を合わせることで勝ち残ったという説とイメージが重なります。


●筆者:岩崎 有平(いわさき ゆうへい)氏
アンリツ
IPネットワーク事業推進部 副事業推進部長
●筆者:福井 雅章(ふくい まさあき)氏
アンリツ
システムソリューション事業部 第1ソリューション開発部 プロジェクトチーム課長

出典:日経NETWORK2005年10月号 128ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。