表1●米主要ベンダーが提供する無料ソフト
表1●米主要ベンダーが提供する無料ソフト
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図1●ベンダー各社がソースコードなどを提供するオープンソース・プロジェクトの例
図1●ベンダー各社がソースコードなどを提供するオープンソース・プロジェクトの例
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図2●オープンソース・ソフト(OSS)を組み合わせたシステム基盤を検証・保証するサービス会社が登場している
図2●オープンソース・ソフト(OSS)を組み合わせたシステム基盤を検証・保証するサービス会社が登場している
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OS、Webアプリ・サーバーから開発ツール、データベースまで——サンやIBM、オラクルなど米大手ベンダーがソフト製品の価格を無償にする動きが目立ってきた。オープンソース・ソフト(OSS)が台頭し、機能では差異化できないとの判断が背景にある。

 ソフト製品の無償化に踏み切るベンダーが相次いでいる(表1[拡大表示])。最も大きく無償化に舵を切ったのは、米サン・マイクロシステムズ。2005年12月に、Webアプリケーション(AP)サーバーやEIP(企業情報ポータル)製品を含むミドルウエア群「Java Enterprise System」や、開発ツール類を無料にすると発表した。すでに無償で提供しているOSのSolarisや、SOA(サービス指向アーキテクチャ)実現の基盤になるESB(エンタープライズ・サービス・バス)などを合わせると、ソフト製品のほぼすべてを無償化した。

 米IBMは11月中旬、APサーバー「WebSphere Application Server Community Edition(WAS CE)」を無償化。米オラクルもこの1月から、無償データベース「Oracle Database 10g Express Edition(XE)」を米国で提供する。各社とも時期こそ未定ながら、日本でもこれらを無償提供する。それに先立ちマイクロソフト日本法人は12月15日から、データベース・ソフト「SQL Server 2005 Express Edition」を無償提供している。

 各社が急速に無償化を進める最大の理由の一つは、OSSの台頭にある。例えば、IBMのWAS CEはOSSのAPサーバー「JBoss」への対抗措置だし、オラクルは公式には見解を示さないものの、Oracle Database 10g XEはOSSのデータベース・ソフト「MySQL」対抗だとの見方が強い。なによりも、ベンダー自身が各種のOSSプロジェクトに積極的に関与してきたことで、OSSのバリエーションやソフトの機能が急速に充実。有償の製品との差異化は難しくなっているのだ。

中・大規模向けも無償化へ

 開発費削減という狙いもある。「米IBMがOSSプロジェクトにかかわる最大の理由は、他社製品やOSSと比べ機能で差異化できないソフト製品の開発投資を下げるため」。日本IBMの渡辺隆ソフトウエア事業ソフトウエア・マーケティング・マネジメント担当はこう説明する。

 実際、WAS CEは同社が支援するOSSプロジェクト「Apache Geronimo」の成果物をベースにした製品だし、同社が推すOSSプロジェクトには、ストレージ管理ツールを開発する「Aperiプロジェクト」もあり、そこにはサンや富士通など9社が参画している(図1[拡大表示]) 。

 日本オラクルの三澤智光システム事業推進本部長も、「(Javaコンポーネントの実行環境である)EJBコンテナでは、もうビジネスにならない。OSSに協力し、より一層『オープン・スタンダード』な基盤を整える。当社としては、その上で必要な各種製品やサービスでビジネスを展開する」と語る。

 その表れの一つが、Javaからデータベースに接続するためのO-Rマッピング・ソフト「TopLink」を「GlassFish」プロジェクトに提供していること。GlassFishは、Java EE 5を実装したAPサーバーを開発するためのプロジェクトで、オラクルはJava EE 5を基盤とするSOA関連製品での事業展開を視野に入れているという。

 ではどうやって収益を上げるのか。前出の渡辺氏によると、米国では実験的な意味合いが強い中小規模のシステムをOSSで構築し、そのシステムの規模が大きくなると信頼性や性能で勝る有償製品を使う傾向がある。そこでOSSや無償ソフトによって、中小規模の案件を獲得し、「IBMの事業の中核である大規模システムに移行する際に、有償製品を使ってもらう」(同)。

 とはいえ、OSSや無償ソフトがエントリ製品だけにとどまる保証はない。むしろ、中・大規模向けでも無償化が進む可能性が大きい。例えば米ノベルは、約2億ドルで買収した旧シルバーストリーム製APサーバーのソース・コードの一部をJBossに提供した。運用管理ツールなどで収益を上げたいノベルにすれば、その市場拡大につながるJBossが進化するならばソースは無償提供するとの判断だ。

 商用製品のオープンソース化が進めば信頼性や性能面での強化につながり、比較的大規模なシステムにOSSが使われるようになるのは当然のことだ。サンがESBをOSS化したことも、IBMやオラクルは同機能のAPサーバー製品を有償では販売しづらくする。ベンダー各社が自社の戦略に基づいてOSSとの共存戦略を採ったことが、結果としてソフトの無償化を加速するわけだ。

保守料サービスにもOSSの影響が

 もう一つの収益源が、OSSや無償ソフトの保守・サポート料金だ。例えば、IBMのWAS CEの年間保守料金は1サーバー当たり900ドル。サンの無償製品も、同社から保守を受けるには、従来と同じ有料ライセンス形態で契約する必要がある。

 しかし、ベンダーが期待する保守ビジネスでも、OSSの影響は避けられそうにない。米スパイクソースや米ソースラボなど、OSSを使ったシステムの組み合わせ検証や保守を専門に提供するサービス会社の登場だ。彼らのサービスを利用すれば、特定ベンダーに依存しない保守環境が誕生する(図2[拡大表示]) 。

 スパイクソースと提携した日立システム・アンド・サービスによれば、「保守専業ベンダーを使うことで保守効率が高まるし、インテグレータ1社で全体のサポートを請け負えるため、保守料金は下げられる」と話す。日立システムのほか、電通国際情報サービス(ISID)も、OSSのアプリケーション開発・実行環境「Seasar2」と、その関連ソフト群の保守サービスを一括提供し始めた。こうしたことが進めば、複数のベンダーが同じOSSの保守やサポートを担当することになる。その分競争は激化し、保守料金の低下を促す。

 一方、2006年は、OSやミドルウエアで話題になっていたOSSが、アプリケーション分野にまで広がるとみる向きが多い。OSSと有償ソフト製品の関係が変わる節目の年が、2006年と言えそうだ。

出典:日経コンピュータ 2006年1月9日号 20ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。