図4  メンタルモデルとデザインモデル<BR>開発者が考えた機能や操作体系(デザインモデル)は,システム・イメージとしてユーザーに提供される。しかしそれを見てユーザーが想像した操作が,デザインモデルと一致するとは限らない。一致しない場合,ユーザーは操作を間違えたり,どのように操作してよいか分からず迷ったりする。
図4 メンタルモデルとデザインモデル<BR>開発者が考えた機能や操作体系(デザインモデル)は,システム・イメージとしてユーザーに提供される。しかしそれを見てユーザーが想像した操作が,デザインモデルと一致するとは限らない。一致しない場合,ユーザーは操作を間違えたり,どのように操作してよいか分からず迷ったりする。
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図5  人間を見守るための技術&lt;BR&gt;センサー・ネットワークやRFIDなどによって,人間の識別や行動認識などがある程度可能になった。またこれらから収集したデータを解析し,異常な状態や危険な状態を推測する研究も進んでいる。
図5 人間を見守るための技術<BR>センサー・ネットワークやRFIDなどによって,人間の識別や行動認識などがある程度可能になった。またこれらから収集したデータを解析し,異常な状態や危険な状態を推測する研究も進んでいる。
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設計者とユーザーの思いが一致するか

 認知心理的特性に合わせるとは,人間が把握しやすい形で情報を提示することを意味する。人間は,色や形状が似ているものを一見して同じものだと思ってしまう。例えば異なる意味を持つ複数のボタンを同じ色にすると,ボタンを押し間違えるスリップが起こる。逆に同じ種類の情報なのに異なる提示の仕方をすると,解釈を間違えてミステークにつながる。ほとんどの機能では青いランプで正常な状態を示すが,ある一つの機能だけ,青いランプをエラー表示に使っているとする。青いランプは正常な状態だと思い込んでいるため,異常に気づけない。

 こうした人間に共通する認知的特性だけが問題なのではない。むしろ大きいのは,システムの開発者と,それを使うユーザーにある認識のズレである(図4[拡大表示])。

 システムの設計者は,システムの操作とそれに対応する動作や結果,効果を決める。これを「デザインモデル」という。ユーザーが目にするのはデザインモデルをシステムという形で具現化したものだ。これを「システム・イメージ」と呼ぶ。

 システムを使う人は,過去の経験などを基に「このような操作をしたらこんな結果が返ってくるだろう」といった,システムに対するなんらかの期待をあらかじめ持っている。この期待とシステム・イメージから作り出される操作のモデルを「メンタルモデル」という。デザインモデルとメンタルモデルの間にズレがあると,ミステークが起こりやすい。ユーザーは正しいと思って操作したのに,結果はまるで期待と違うものになってしまう。

 このように人間の特性に合った製品を生み出すには,製品の開発者が製品を使うユーザーのことをよく知ることが必要不可欠だ。しかし現在でも,開発者主導で作られている製品は決して少なくない。コンピュータが入った多機能な機器が身の回りにあふれている今,これが大きな問題となりつつある。

機器や環境が人間を見守る

 機器そのものの設計改良が進む一方で,機器がアクティブに人間を見守るというアプローチもわずかながら始まっている。スリップであってもミステークであっても,その人のやりたいことを知っている他人が見れば,間違いを指摘できる。迷っている人がいれば,助け船を出せる。人間が他人を手助けするように支援するシステムが目標だ。

 こうした研究が始まった背景には,人間の行動を見守るための要素技術が出始めていることがある(図5[拡大表示])。まず,ネットワークで接続された小さなセンサーの実用化が進んでいること。いわゆるセンサー・ネットワークである。生活空間のあちこちにセンサーを設置しておき,人間の動きや体調,周囲の温度や機器の操作状況などを把握する。2004年末には,センサー・ネットワークの通信プロトコルとして有望視されている「ZigBee」の正式仕様が決まった。それに伴って,ZigBee対応のセンサー端末が登場し始めている。また低消費電力や小型化を目指した研究開発も盛んに進められている。

 センサーから収集したデータを基に人間の行動を把握するには,こうしたセンサーから得られた値を解析し,それがどのような人間の行動を示しているかを導き出す技術も必要だ。時系列で連続的に並んだデータ(ストリームデータ)を対象にした研究が,大学などの研究機関で熱を帯び始めている。蓄積しておいた過去のデータだけでなく,得られたデータを随時解析し,状況の変化をリアルタイムで検知する技術も生まれている。こうした技術が成熟すれば,周囲のシステムや機器が常に自分を見守り,助けてくれる状況が現実のものとなるかもしれない。

出典:日経バイト2005年9月号 28ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。