経産省、太陽光・未稼働案件への措置を修正、着工済み「特高」に配慮

FIT制度への信頼感が揺らぎ、今後のファイナンスに影響も

2018/12/06 12:15
金子憲治=日経BP総研 クリーンテックラボ

 経済産業省は12月5日、事業用太陽光の長期未稼働案件への措置(制度改正)に関し、パブリックコメントや業界団体・自由民主党再生可能エネルギー普及拡大議員連盟などからの要望を踏まえ、開発の進んだ大型案件に配慮した修正内容を公表した。

 これにより、着工済みの大型案件に対する事業性低下への影響はかなり小さくなったものの、固定価格買取制度(FIT)自体への信頼が揺らいだことから、今後のFITを活用した再エネプロジェクトへの投融資に影響が残る可能性もある。

 今回の修正で、2MW以上の特別高圧送電線に連系する大型案件(以下、特高案件)に関しては、買取価格が維持される要件の期限を6カ月延ばすとともに、「本格的に着工している案件」については、一定の要件を満たせば、措置の対象から外すことにした。

 未稼働案件に対する措置の原案は10月15日公表にされていた。買取価格40円・36円・32円/kWh(2012~14年度認定)の未稼働案件で運転開始期限の付いていないものを対象に、新たに1年の運転開始期限を設定したり、「系統連系工事の着工申し込み」(以下、「着工申し込み」)の受領時期によって買取価格を変更(減額)したりするもの。具体的には、「着工申し込み」を2019年2月1日までに電力会社に提出し、3月31日までに受領されれば買取価格は維持されるが、間に合わなければ、21円/kWhに下がるとしていた。

 12月5日公表された修正内容では、「開発工事に真に着手済みであることが公的手続きによって確認できる大規模案件(2MW以上)」については、今回の措置の対象外とし、買取価格は維持され、運転開始期限も設定されない。

 この場合の「公的手続き」とは、「2018年12月5日時点で、電気事業法に基づく『工事計画届出』が受理されていること」とした。

 ただし、12月5日時点で「工事計画届出」が受理されていなくても、以下の場合、一定の猶予を設けた。2018年12月5日時点で、「林地開発許可」を取得し「林地開発行為着手届出」が受理されており、2019年9月30日までに「工事計画届出」が受理され、同年10月31日までに電気工作物の設置工事に着手したことが確認できたもの。また、林地開発許可対象外の場合、2018年12月5日時点ですでに開発工事に本格着手していることが法令に基づく公的手続きによって客観的に証明できるもの―――とした(図1)。

図1●修正後の措置の対象と「本格着工済み案件」の要件と例外
(出所:経産省)
クリックすると拡大した画像が開きます

許認可の取得を急ぐ動きが活発に

 2012~14年度認定案件のうち、現時点で未稼働になっている案件の多くは、林地開発許可の必要なサイトが多い。こうした案件でも、造成工事に着手している場合は、林地開発許可を取得している。今後、造成工事中の案件では、工事計画書の作成・届出と電気工作物の設置工事を急ぎ、来夏の期限に間に合わせる動きが活発化しそうだ。

 また、こうした適用除外の要件に該当しない特高案件に関しては、「着工申し込み」の提出と受領、運転開始期限に猶予期間を設けた。

 「着工申し込み」の提出期限を原案の2019年2月1日から同年8月末に、受領期限を原案の同年3月31日から同年9月30日に、運転開始期限を原案の2020年3月31日から9月30日にそれぞれ6カ月延ばした。また、条例アセスの対象となっている案件に関しては、提出期限を原案の2019年2月1日から2020年2月末に、受領期限を原案の2019年3月31日から2020年3月31日にそれぞれ1年、運転開始期限を原案の2020年3月31日から同年12月31日に9カ月延ばした(図2)(図3)。

図2●修正後の「系統連系工事着工申し込み」提出期限と受領期限、運転開始期限
(出所:経産省)
クリックすると拡大した画像が開きます
図3●修正後の「系統連系工事着工申し込み」受領日と適用される調達(買取)価格
(出所:経産省)
クリックすると拡大した画像が開きます

 今回、「着工申し込み」に必要な要件を明示した。それによると、(1)土地の使用権原の取得、(2)農振除外及び農地転用の許可取得(または届出受理)、環境アセス評価書の公告・縦覧の終了、林地開発許可の取得(いずれも必要な場合)、(3)着工申し込みの提出以降、事業計画の変更認定申請を行わないことーー。

 適用除外に該当しなかった特高案件でも、原案に比べて要件達成の期限に6カ月の余裕ができたことになる。新たな期限となる2019年8月末までに要件を満たすため、土地関係の契約と必要な許認可の取得・届出を急ぐことになる。これらの許認可を所轄する自治体に手続きの迅速化を要請する事業者が増えそうだ。

地方経済への影響も懸念

 加えて、10月15日公表された措置原案では、一度受領された着工申し込み書類の内容を変更した場合、買取価格が変更されることになっていた。このため、例えば、天候などの要因で連系工事が遅れた場合、買取価格が下がるリスクがあり、それがファイナンスに支障をきたしていた。12月5日に公表された修正内容では、「何らかの理由(工事の遅延など)で系統連系開始が間に合わなくなった場合でも、買取価格は変更されない」とした。

 今回の修正によって、特高案件に関しては、本格的に着工して太陽光パネルの設置が間近まで進んでいる場合は適用除外として買取価格と20年の買取期間が維持される可能性が高い。一方、土地契約を締結済み、または締結間近、かつ許認可を申請して取得もしくは取得間近となっている案件は、着工申し込み・受領期限に間に合えば、買取価格は維持される。ただ、その場合でも運転開始期限が設定されるので、買取期間が1~2年短縮する可能性もある。とはいえ、買取価格の減額に比べると事業性悪化の度合いは小さいため、従来のファイナンス条件やスキームが継続される可能性が高いと思われる。

 一方、転売目的に売電の権利(設備認定と接続契約)だけを保持し、本格的に許認可の申請・取得に取り組んでいないような案件、そして、こうした権利を購入したばかりでほとんど開発に未着手だったような案件は、着工申し込み期限に間に合わず、運転開始期限に加え、買取価格が21円/kWhまたは18円/kWhに下がることが多くなりそうだ。その場合、こうした条件でも事業性が成り立つか再検討に迫られ、難しければ開発を断念したり、購入した権利を転売する場合、損失を出して購入額より安く売却せざるを得なくなる。

 10月に公表された未稼働案件に対する措置の原案では、ファイナンススキームが確定し造成工事が進んでいる案件でも、一律に2月1日の着工申し込み提出期限を適用したため、金融機関が融資を停止するなど、影響が大きかった。当初、経産省は、「ファイナンスが確定している案件でも、低くなった買取価格を前提にコストを見直し、スキーム全体を練り直せば、プロジェクトの継続は可能なはず」との見解を示していた。

 ただ、買取価格40円・36円・32円/kWhを前提に用地を選定し、大規模な造成の必要な特高案件に関しては、買取価格が大幅に下がった場合、事実上、プロジェクトの継続は難しかった。そのため、こうした特高案件を多く持つ、国内大手企業や外資系企業、そしてファイナンスを提供する金融業界などが措置原案の見直しを要望していた(関連記事:太陽光「未稼働案件」の2GW超が断念?、制度変更でJPEAがアンケート)。

 今回、公表された修正は、JPEA(太陽光発電協会)と自民党再エネ議連の公表した要望項目をかなりの部分で受け入れた内容になった。経産省は、買取価格30円台までの未稼働案件の単価を下げたり、断念させることで国民負担の低減を目指したが、地方で開発の進んだ特高案件の多くが頓挫した場合、地域経済への影響が大きく、それを危惧する自民党議員の働きかけもあり、最終的に経産省が譲歩した形になった。

遡及適用でFIT制度への信頼揺らぐ

 また、経産省の措置原案では、一度受領された「着工申し込み」書類の内容を変更した場合、買取価格が変更されることになっており、それが将来の「買取価格の減額リスク」となることが、プロジェクトファイナンスの実行を難しくしていた。

 今回の見直しで、着工申し込みの要件を満たしていなかったことが事後的に判明したり、事業計画の変更認定を申請しない限り、「何らかの理由(工事の遅延など)で系統連系開始が間に合わなくなった場合でも、買取価格は変更されない」とした。このため、「買取価格の減額リスク」は、大幅に小さくなった(図4)。

図4●「系統連系工事着工申し込み」後に生じる事象と適用される調達(買取)価格(修正後)
(出所:経産省)
クリックすると拡大した画像が開きます

 ただ、今回の経産省の措置原案によって、日本のFIT自体への信頼感が大きく低下したことは、否めない。本来、買取価格の遡及的な変更は、未稼働案件であっても、再生可能エネルギー特別措置法の3条10項に該当し、急激なインフレなど例外的な事態が生じた場合に適用される。今回の措置では、3条10項による買取価格の「改定」ではなく、個別の案件に対して、買取価格の適用年度を「変更」するという制度的スキームにした。このため、国会の同意人事で構成される調達価格等算定委員会に諮る必要もなく、経産省(経済産業大臣)によるルール変更で実施された。

 こうした経緯を見ると、事実上の遡及的な買取価格の変更を経産省の独自判断で実施できることになる。実際、今回の未稼働案件を巡る法改正によって、国内の大口機関投資家の一部では、FITスキームでのプロジェクトへの投資を手控える動きも出てきたという。

 今後、日本のFITによる再エネプロジェクトでは、太陽光の特高案件よりも遥かにリスクの大きい洋上ウインドファームの建設が期待されている。今回の一件で、こうした将来の大規模プロジェクトに対する投資やプロジェクトファイナンスの組成にどの程度、影響するのか。一度、失った制度への信頼を取り戻すのは容易ではない。