薄厚化したシリコン基板を使い、裏面電極を採用したヘテロ接合の太陽電池の製造工程
裏面電極のエッチング用マスクの形成にインクジェット塗布を使った(出所:福島大学)
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インクジェット塗布で工程を簡略化
エッチング用マスクの形成工程に適用した際のフォトリソグラフィとの違い(出所:福島大学)
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開発した太陽電池
(出所:福島大学)
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 福島大学は10月5日、インクジェットによる塗布を活用し、裏面電極タイプの結晶シリコン型太陽電池を作製したと発表した。新聞紙より薄く、曲げられる。

 表面に電極のない太陽電池としては、自立した形で曲げることができる、世界で初めての例としている。曲面に設置しやすいことから、建築物や携帯機器、自動車など幅広い応用が期待できる。

 こうした安価で軽く、薄くて曲げられる太陽電池では、化合物やアモルファス(非晶質)シリコンによる薄膜型太陽電池が知られるが、シリコン基板を使った結晶シリコン型でも、基板を50μm(μ:マイクロは百万分の1)以下に薄くすることで実現できる。

 結晶シリコン型太陽電池の変換効率を、さらに高くする手法として、ヘテロ接合と裏面電極という二つの方法が有望となっている。福島大学では、薄厚化した結晶シリコン型太陽電池にこれら二つの方法を採用した。

 ヘテロ接合は、物性の異なる半導体材料を接合する技術で、電気に変換できる光の波長が異なる材料を組み合せることで、変換効率を向上できる。

 今回の福島大学の例では、結晶シリコンとアモルファスシリコンを組み合わせた。厚さ280μmのシリコン基板を研磨とエッチングで薄厚化し、その基板を使ってヘテロ接合型太陽電池を形成した。全体の厚さは約53μmとなっている。

 裏面電極は、太陽電池の裏側だけに電極を形成し、効率的に電気を取り出す技術である。一般的な結晶シリコン型の太陽電池は、表面に電極があり、その分、受光面積が減っている。電極を裏面に集約することで、受光面が広くなり、セル(発電素子)当たりの変換効率が高まる。

 インクジェットによる塗布は、裏面電極の形成に使った。

 現在の裏面電極の形成は、±1μm以下の精度を実現できる技術として、半導体で一般的なフォトリソグラフィが使われている。成膜と不要な場所の膜の除去を繰り返して形成するため、複雑な工程を経るだけでなく、材料の利用効率が5%以下と低く、しかも、それぞれの工程で高価な製造装置が必要になる。

 インクジェットは、フォトリソグラフィに比べて装置価格が大幅に低減できる上、材料の利用効率も90%以上と高い。

 今回、このフォトリソグラフィの一部に、インクジェットによる塗布を活用し、工程を簡略にしながら、今回の太陽電池で必要な±50μmの精度を実現した。

 特定の膜を成膜後、その上に形成する、除去しない部分を残すための「マスク」を、インクジェットで塗布して形成した。従来は、フォトレジストの塗布、露光、現像という三つの工程によってマスクの形状を形成するが、今回はインクジェットで塗布することで一つの工程で同様の形状を作成できた。

 裏面電極による結晶シリコン型太陽電池の薄厚化は、これまでほとんど試みられていなかったという。フォトリソグラフィによる裏面電極工程に使う製造装置が高額なことに加え、シリコンの基板を薄厚化した際の問題もあった。

 薄厚化した後の基板は、機械的な荷重に弱くなる。このため、薄厚化後の製造工程において、機械的なストレスによって破損してしまう問題があった。

 従来の開発例は、ほぼ2例が知られている。いずれも、シリコン基板ではなく、ガスを原料に形成(エピタキシャル成長)した薄膜のシリコンを使った上、機械的強度を補うためにガラスやシリコンの支持用の基板に接合し、電極の形成などの工程でハンドリングできるようにしていた。

 インクジェットの活用は、この薄厚化したシリコン基板に、機械的な荷重を過度にかけないことにもつながるという。今回、福島大学では、厚さ約53μmに薄厚化したシリコン基板をそのまま取り扱い、裏面電極を形成できたとしている。

 太陽電池セルの寸法は約10mm角で、これをPETフィルム基板上に3個並べて50mm×19mmの太陽電池モジュールとした。

 今回の開発品の変換効率は10.7%と低いものの、製造プロセスの改良などによって、20%近くに向上できると予想している。

 文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラム「再生可能エネルギー先駆けの地ふくしま」において、産業技術総合研究所の協力を得て研究した成果で、10月19~20日にビッグパレットふくしまで開催される「第5回福島復興再生可能エネルギー産業フェア 2016」で展示する。