1. はじめに

 第77回応用物理学会学術講演会(9月9日~16日、新潟市の朱鷺メッセ)で、信州大学 工学部 電子情報システム工学科 教授の伊東栄次氏らは、「塗布型カーボンナノチューブを両極性キャリア注入層に用いて印刷型p型及びn型有機トランジスタの作製と評価」と題して発表した。有機薄膜トランジスタ(OTFT)の現状と課題を明確にし、研究の目的と実験結果の概要を報告する。

2. OTFTの現状と課題

 OTFTの作製では、潜在的に優れたキャリア移動度を持つ有機半導体を用いることが最大の鍵であることはもちろんだが、加えて界面の欠陥や有機半導体膜の結晶性の制御、 チャネルの微細化(パターン化)と電極界面の接触抵抗の低減すなわちキャリア注入制御も重要である。OTFTの接触抵抗(電極-半導体界面)は、短チャネル化するほど接触抵抗の影響が顕著になる(図1)。従って、接触抵抗の低減が必要不可欠である。図1の式から明らかなように、OTFTの高速化には、短チャネル化とCR時定数の低減が欠かせない。対策として、キャリア注入バッファー層を挿入することが考えられる。

図1 OTFTの高性能化、接触抵抗の低減
信州大学の講演資料から。
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 現在、印刷可能な電極は銀(Ag)ナノ粒子のインク、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンなどに限られており、キャリア注入の促進において仕事関数を自由に変えることは容易ではない。しかし、n型半導体とp型半導体の両方を回路に用いる上で、電子と正孔を共に注入制御可能な両極性キャリア注入層を実現することは、性能とプロセスの両面において有効だと期待される。すなわち、n型とp型の半導体の両方に使えるバッファー層があれば、工程が簡単で効果的と言える。

 そこで、ナノ銀とカーボンナノチューブ(CNT)によるハイブリッド電極の開発を目指すことにした(図2)。ナノ銀は粒径10nm以下、融点150℃以下、導電率107S/mで、分解能は約100nmである。銀インクと比べて、導電率が高いのが大きな特徴である。一方、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は耐電流密度1×109(A/cm2)、導電率102~105(S/m)、引っ張り強度は10-60GPaである。頑丈でπ共役系であることから、有機半導体とのコンタクトが良いのではないかと期待されている。しかし、抵抗が高いのが短所である。そこで、これらの材料を複合化することで、抵抗が低く、頑丈で接触も良好な電極材料の開発を目指す。

図2 ナノ銀とCNTによるハイブリッド電極
信州大学の講演資料から。
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