1. はじめに

 2017年2月15~17日の3日間、東京ビックサイトで開催された「Printable Electronics 2017」と「nano tech 2017」の展示会から、筆者が注目した展示を8回にわたって紹介する。第7回目は、産業技術総合研究所 化学プロセス研究部門 機能素材プロセッシンググループ(研究部門は仙台市)が取り組んでいる、窒化銅(Cu3N)ナノ粒子を主成分とする光焼成用インクの開発状況を紹介する。開発の状況については、同グループの主任研究員の中村考志氏から説明を受けた。

2. 窒化銅とインク化

 印刷法により電子デバイスを創造するプリンテッドエレクトロニクス分野において、配線材料は基幹素材の1つである。材料として、金(Au)または銀(Ag)系に代わって、コスト面で有利な銅(Cu)系配線材料の利用が積極的に進められている。しかし、銅は化学的に不安定で酸化されやすく、配線化のための焼成工程が複雑である。従って、完全な実用化には至っていないのが現状である。

 産総研は、銅の耐酸化被膜として研究開発され、バルクにおいて350℃程度の加熱で銅と窒素に分解する窒化銅に注目し、開発に取り組んでいる。窒化銅をナノサイズ化することにより、分解温度を下げ、既存の銅ナノ粒子に変わる新たな配線材料への利用を目指している。

2.1 窒化銅の特徴

 図1に、銅系化合物の銅構成比率、融点・分解温度および光吸収の比較を示す。同図から分かるように、銅の構成比率が高く、融点・分解温度が低い窒化銅に産総研は注目した。

図1 銅系化合物
産業技術総合研究所の資料。
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 従来の窒化銅の合成法は3MPa以上の高圧、または280℃以上の高温条件下の反応が必要であり、爆発性化合物であるアジ化化合物を窒素源に用いていた。そこで産総研は、尿素などの安全な窒素源を用い、常圧下、200℃以下で反応が行える新規方法を検討した。長鎖アルコール中で銅イオンとアンモニアまたは尿素を反応させることにより、窒化銅ナノ粒子を簡単に合成できることを見いだした。銅原料や窒素原料の組み合わせと濃度を変えることにより、粒子の大きさ、形状、結晶子サイズを操作できる。

 こうして、高温・高圧・爆発性化合物を用いることなく、安全かつ簡便な合成法の開発に成功した(図2)。この方法は実用化に適しているといえる。水に対する安定性を評価するため酸性、アルカリ性、中性の緩衝溶液中に分散し、室温で保存したところ、銅ナノ粒子は5日以内で酸化するのに対して、窒化銅ナノ粒子は2週間の保存でも酸化は認められなかった(図3)。

図2 窒化銅ナノ粒子
産業技術総合研究所の資料。
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図3 窒化銅の安定性
産業技術総合研究所の資料。
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