「リーン・プロダクション・システム」と名を変えたトヨタ生産方式(TPS)の導入意欲が海外で高まっている。トヨタ自動車の好業績をきっかけにTPSに興味を持ち、その本質を知ることでTPSに魅了され、導入意欲を高めるという。翻って日本では「トヨタだからできること」という声が多い。TPSの本質を豊田エンジニアリングCEOの堀切俊雄氏に聞いた。 (聞き手は近岡 裕)

トヨタ自動車が実施している現在のTPSを「トータルTPS」として紹介しています。単なる「TPS」とは何が異なるのでしょうか。

堀切氏:TPSというと生産現場の原価低減を思い浮かべる人が多いと思いますが、それは30年以上前のTPSの姿です。本家本元の、私が対外的に「トータルTPS」と呼んでいるTPSは、生産現場の改善に限定していません。今では「経営思想」とも呼べる内容になっています。

 トータルTPSでは、[1]改善を工場内にとどめず、開発設計や生産準備、販売など間接部門にも広げています。加えて、[2]製品や生産ラインといった「もの」だけではなく、働く人の意欲を高める活動を強化しています。さらに[3]改善の内容を、品質改善や原価低減活動、従業員への育成など多方面に拡大しています。

 こうした考え方を、トヨタグループ以外の企業でも導入できるように改良した汎用性の高いTPSを私は「トータルTPS」と呼んでいます。

1年で黒字化も、「できるわけない」から

TPSの効力を具体的に教えてください。

堀切氏:例えば、建築資材メーカーのX社です。従業員400人規模の中堅企業で、過去7~8年にわたって毎年1億円の赤字を垂れ流していましたが、1年で黒字化を達成しました。

 このX社は、日本企業の典型例です。トップや部長クラスが「原価低減をせよ」と叫ぶけれど、リーダー(班長や組長クラス)や作業者意識は徹底されていない。原価低減につながる改善は稼働する工場の中で実行しなければならないのに、日々の仕事で何をすれば原価低減になるのか、生産現場にいるリーダーも作業者も分からないという状態でした。作業者の多くは原価とは何かすら分かっておらず、「自分たちと上(経営層)とは関係ない」と考えています。日本企業の9割近くはこうした状態だと思います。

 そこでまず私は、生産現場を2時間ほど見て、大小織り交ぜて数百項目の物理的なムダを見つけました。これらを全て改善すれば、1億円の原価低減は達成できるだろうと感じました。ところが、私が指摘したムダの7~8割は管理者にはムダであるとは理解されませんでした。例えば、「10%の不良率はムダです」と指摘しても、「この製品は製造が難しく、不良率はこの10年間、10%前後で推移しているので、これくらいの不良率は当たり前です」といった言葉が返ってきました。

 そこで最初は私が具体的な改善の進め方を指導し、リーダーに改善を実行してもらいました。成果が出るとリーダーは達成感を覚えます。達成感を味わうと、リーダーは改善に対する意欲を高めます。「部品の配置をこう変更すればもっと取りやすくなります」「こうすれば作業時間が短縮できます」といったように、リーダーが自らムダを見つけていくようになるのです。

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