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 今号は、成功するプログラムマネジャー(PM)はどういう人か、成功へと導くモチベーションは何かなどについて考察する。PMにとって最も重要な資質は、人を働かせるためのマネジメント能力である。自分が担当するプログラムの研究代表者たちとその傘下の研究員たちを元気づけて働かせながら、人と人、チームとチームを組み合わせたり競わせたりして、より高い効果を生み出すように仕向ける力だ。

 では、こうしたマネジメントを実行する上で、PMの資質として何が重要か。当該分野の豊富な知識や経験などいろいろあるが、あるPMに聞いてみると、結局はパーソナリティーだという。なぜだか分からないが、そのPMと話していると、もっと頑張ろうという気持ちにさせてくれるような「やさしくも厳しい」パーソナリティーの持ち主である。

 PMとして成功するにはスタミナも重要だ。優秀なPMのスタミナたるや、ものすごい。常にエネルギッシュで、途中で疲れたり集中力が切れたりしない。例えばミーティングに参加した時、多くの人は自分の発表などが終わるとホッとして気を抜くが、PMはすべての発表をよく聞き、鋭い質問を投げ掛け続ける。

 私の経験例だと、共通テストデータに対する画像認識結果を報告するワークショップがあった。全体会合が終わった後の夜8時から、PMは自分がサポートする十数個のプロジェクトの研究代表者を一人ひとり部屋に呼び、約30分ずつ膝を詰めて議論する。「これはできているが、これはできていない」「あなたのプロジェクトは全体のランキングでは何番目くらい」といったことをバシバシ言ってくる。すべての報告書を深く読み込んでおり、すごくよく勉強しているなと感じた。

 なぜそこまでPMは頑張るのか。まず「自分が」何かを変えている、何かを創り出しているという誇りが大きなモチベーションなのだろう。プロジェクトが成功した暁には達成感も得られる。あるPMの言葉だが、彼曰く「make what people think impossible possible(人々が不可能だと思っていることを可能にする)」、それが彼らの仕事だという。新しいアイデアで勝負するという意識も高い。

 また、任期である3~5年の間で何かを成し遂げなければならないというプレッシャーが、モチベーションにもつながっている。さらに、以前にも述べたが、トヨタ自動車の人工知能研究新会社のトップに転身したDARPAの元PMであるGill Pratt氏の例を見ても分かるように、PMとして成功すれば、キャリアとして十分価値があることだ。

米国の大学の風土や運営形態などと深い関係

 5回にわたってDARPAについて解説してきた。DARPAが効果的な組織として存在するのは、米国の大学の風土や運営形態などが深く関係している。大学は基礎研究を行うといわれているが、基礎研究といっても、どう社会に役に立つかの観点をしっかり持ったテーマが多く、新しい分野を創り出したいという野心を持つ研究者も多数いる。そして研究室の運営には外部からの研究資金の獲得が必須で、DARPAのように大きな資金を提供する組織を必要としている。

DARPAが主催して開催した災害対応ロボットの競技会「DARPA Robotics Challenge」の様子
写真左の人物は、DRCのPMを務めたGill Pratt氏。現在は米Toyota Research InstituteのCEOを務める。(写真:日経Robotics)

 アイデアと実行力を持つ研究者であれば、DARPAが重要な役割を果たしながら、その分野の中心に躍り出ることが可能なのだ。日本から米国に渡り、DARPAから見ればどこの誰か分からず、米国人でもない私でも、5年ほど経ったらロボットや画像認識などの分野において米国で最多の資金を得て、最大のグループを持つことができたのである。

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 一方、欧州ではエリートを集中させた大学や研究所がある。エリートに選ばれるのは大変だが、一旦選ばれれば研究提案書がなくても多額の資金を渡す運営だ。代表例が、スイスEPFLやドイツMax Planck Institutes、イタリアIITなどである。常に競争を基本とするDARPAの仕組みとは対照的であり、両者の運営を比較してみるのも面白いだろう。

金出 武雄(かなで・たけお)
1945年生まれ。1974年京都大学電子工学科博士課程修了後、同大学助教授を経て1980年に米Carnegie Mellon University Robotics Instituteに移り、准教授などを経て現職。1991~2001年、同Institute所長。自動運転車や自律ヘリコプター、顔認識、仮想化現実などロボット工学・画像認識の世界的権威。
出典:日経Robotics 2016年3月号 p.29
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