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 明確に3~5年程度の期限を付けて実施されるDARPAプロジェクトは「非常に効果的だ」と言われている。今回はその仕組みについて、私の考察を交えながら説明する。

 DARPAは資金援助機関であり、プロジェクトをサポートする。研究者やセンターをサポートするわけではない。加えて、基本的には「基礎研究」をサポートしない。基礎研究が重要でないということではない。「こういう基礎研究をすれば、何かいいことが起こるのではないか」という漠然としたボトムアップ的な研究は手掛けず、イノベーションの目標を実現するためにミッション指向のプロジェクトを実施する。その中で不可欠な「基礎的な研究」には、もちろん資金を出す。ただ実際には、こうした基礎研究は短期間ですぐに完成するものではないので、関連する様々なプロジェクトを通して連綿とつないで取り組んでいくことになる。

トヨタが迎え入れた元プログラムマネジャーも

 DARPAは比較的少ないスタッフで構成されている。組織的に見ると、トップとなるDARPAディレクター、情報通信や電子材料といった各分野を担当するオフィス(室)のディレクター、その下で各プロジェクトを運営するプログラムマネジャーという3つの役職しかない。いずれも任期は有限で、常に人材が入れ替わっている。

 このうちプログラムマネジャーは100人強。各人が2000万~3000万米ドル程度(約24億~36億円)の予算を持ち、それぞれのプロジェクトに取り組んでいる。これとは別に秘密研究もあるはずだが、その予算は公表されていない。

 各プログラムマネジャーには最初から予算が与えられているわけではない。まず自分のやりたいプロジェクトを上司であるオフィスディレクターに売り込み、さらにオフィスディレクターはその上司であるDARPAディレクターに売り込んで予算を獲得し、その予算がプログラムマネジャーまで下りてくる格好である。このように自分の責任でプロジェクトを企画・実行・管理するプロジェクトマネジャーは、DARPAプロジェクトで最も重要な役割を果たす人材といえる。

 プログラムマネジャーになる人は多種多様だ。現役軍人(戦場に出る人ではなく科学官で、ほとんどは博士号を持つ)や、大学/企業/国立研究機関の研究者、他の研究援助機関のプログラムマネジャー、そして非常にまれだが職業的なプログラムマネジャーもいる。DARPAは国家機関ではあるが、プログラムマネジャーの雇用を独立的かつ機動的に行うための特別な制度が用意されている。

 プログラムマネジャーを一度担当した人は、いわば箔が付き、その人の「市場価値」が格段に上がる。担当した分野に関する知識や、どこの誰がどういった研究を行っているかなどを把握しているだけではなく、全米に広がる人脈を持つからである。プログラムマネジャーは企業のCTO、大学の教授あるいは管理職などへの良いキャリアパスになる。「DARPA Robotics Challenge」のプログラムマネジャーだったGill Pratt氏が2015年9月、クルマやロボットの知能化研究のためトヨタ自動車に招請されたのは典型的な最近の例といえる。

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 では、プロジェクトのアイデアはどこから来るのか。最も重要な点は「ニーズ」である。決して夢想や評論、流行から出てくるものではなく、軍のオペレーションの現場で求められている事象からプロジェクトを構築する。

DARPAが主催して開催した災害対応ロボットの競技会「DARPA Robotics Challenge」の様子
(写真:日経Robotics)

 軍のニーズというと、日本の読者の皆さんはおどろおどろしい戦闘・殺傷技術といったイメージがあるかもしれないが、最先端の情報通信や材料、人工知能などの分野におけるプロジェクトはもちろん、SNSなどへの書き込みからヒューマン・トラフィッキング(人身売買)を検知するといったプロジェクトもある。題目を見れば、日本の経済産業省や文部科学省のそれとあまり変わらない。要は、具体的な価値を持つ応用や目標に駆動されることが重要なのだ。

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金出 武雄(かなで・たけお)
1945年生まれ。1974年京都大学電子工学科博士課程修了後、同大学助教授を経て1980年に米Carnegie Mellon University Robotics Instituteに移り、准教授などを経て現職。自動運転車や自律ヘリコプター、顔認識、仮想化現実などロボット工学・画像認識の世界的権威。
出典:日経Robotics 2015年11月号 p.21
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。