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 工場や店舗、倉庫などで人と同じ空間で作業させることができる協働ロボット。従来の産業用ロボットでは必須だった安全柵を、リスク分析を経た上で撤廃でき、ロボットの利用シーンを飛躍的に広げられることから、現在大きな成長が期待されている。その協働ロボットの活用に日立グループが乗り出した。

 日立製作所グループで洗濯機や掃除機、冷蔵庫、電子レンジなどの家電製品を手掛ける日立アプライアンスが、協働ロボットの最大手メーカーであるデンマークUniversal Robots社の「UR10」を採用。茨城県にある日立アプライアンスの主力工場である多賀事業所で、家庭用炊飯器の組み立て工程などに導入した。

 導入したのは、家庭用炊飯器の「おひつ御膳」と「ふっくら御膳」という2つの製品。おひつ御膳では中蓋の組み立て工程、ふっくら御膳では組み立て後の検査工程で、それぞれUR10を2015年3月から利用している(図1)。協働ロボットを導入することで、従来、人が手作業で行っていた組み立て作業や検査作業を自動化し、省人化を実現した。

図1 炊飯器のセル生産に協働ロボットを導入
2系統の炊飯器の生産に、デンマークUniversal Robots社の協働ロボット「UR10」を導入した。(a)は製造後の検査工程に、(b)は中蓋の製造工程にそれぞれUR10を利用している。(写真:日立アプライアンス)
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セル生産をロボット化

 日立アプライアンスは完成後の製品のパレタイジングなどでは以前から多関節ロボットを利用しているが、UR10のような協働ロボットを本格的に活用するのは今回が初めてである。安全柵なしで省スペースに設置でき、人が作業しているすぐそばに置けるロボットを導入したいとの狙いから、2014年10月ころから導入を検討した。

 協働ロボットの適用対象として炊飯器を選んだのは、炊飯器の特性が協働ロボットに向いているからである。協働ロボットは安全柵がない環境で運用することを想定して設計されているため、各関節のトルクは通常の多関節ロボットと比べて大きくなく、可搬質量も10kg以下に限られたものが多い。このため、扱う構成部品が比較的小さく、小型な家電製品の方が適している。

 多賀事業所では洗濯機や掃除機、照明など多様な製品を生産しているが、協働ロボットのトルクでも扱い切れるのが炊飯器だった。掃除機も質量の面では炊飯器と近いが、「樹脂部品同士のはめ込みや圧入などが多く、強い力を必要とする」(同社 家電・環境機器事業部 多賀家電本部 生産技術部 生産技術グループ 主任技師の鈴木法義氏)という。

 以降では、組み立て工程に協働ロボットを導入した「おひつ御膳」の生産の流れを見ていこう。適用したのは、炊飯器の上蓋の内側にある「中蓋」と呼ばれるモジュールの組み立て工程である。

 中蓋は従来、セル生産方式で人が組み立てていたが、今回、これをロボットによるセル生産に置き換えた。多賀事業所では2006年から工場全体で、それまでのコンベアを使った流れ作業方式に代えてセル生産方式を導入している。ただし、通常のセル生産は人手による組み立てが主体であるため、「効率の向上にも一定の限界があった」(同社 家電・環境機器事業部 多賀家電本部 生産技術部 生産技術グループ 統括主任技師の柳瀬誠治氏)。今回は生産効率のさらなる向上と省人化を目指し、人手によるセル生産を協働ロボットによるセル生産に置き換えた形だ。

 ロボットによるセル生産装置は、同社の生産技術部が中心となって内製した(図2)。大きさは幅3m、奥行き2mほどである(同社内での通称は「匠君」)。UR10が2台、パーツを供給する装置が5台、スカラ型のネジ締め装置などから成る。コストは約1980万円である。

図2 炊飯器の中蓋向けロボットセル生産システムの外観
「おひつ御膳」向けのロボットセル生産システム「匠君(社内での通称)」の外観。2台のUR10を組み合わせて1個のセルとしている。3つの組み立てステーションから成る。各種パーツの自動供給機やネジ締め装置なども用いている。
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非積み上げ式で材料費圧縮

 一般に組み立て工程で自動化を行う場合、設計時に量産性を踏まえた工夫を施す。例えば、ベースとなる大きい部品の上に小さな部品を単純に積み重ねていけばそのモジュールが組み上がる、といったようなアプローチである。