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 法人向けや個人向けの通信販売大手のアスクルが、自社の物流センターでロボットの活用に乗り出した。これまで物流センター内で人手で行っていた商品のピッキング作業を、産業用のロボットアームに一部置き換える。

 物流業界は人手不足が深刻になっており、その解決策としてロボットに着目した形だ。「当社の物流センターで働くスタッフの約6割がピッキング作業に従事している。これをロボットで自動化することで、商品の出荷量を2倍にしたり、出荷の24時間稼働などを実現したい」(同社)。

 導入するのは、2016年5月に完成した横浜市にある物流センター「ASKUL Logi PARK(ALP)横浜」である(図1)。

 導入台数や時期についてアスクルは「検討中」とし明言していないが、数十台規模を2016年末ころまでに導入する見込みだ。さらに大阪府に2017年12月に完成予定の同社最大の物流センター「ASKUL Logi PARK(ALP)関西」でも、同様のロボットを導入予定である。

図1 人手で作業しているピッキング作業をロボットに
現在はアスクルの埼玉の物流拠点で2台のロボットを使ってテスト中である。将来的に横浜の物流拠点で大量導入する。写真左は埼玉の拠点での人手によるピッキング作業、写真右は大量導入予定の横浜の拠点。
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図2 3台のステレオカメラでオリコン内部の商品を認識
ドイツIDS社製のStructured Light方式のステレオカメラ(緑の枠内)などを3台利用し、オリコンの内部にあるピッキング対象の商品の位置や形状を計測する。商品の形状は事前に登録しておく。
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 ピッキングシステムは、自動マニピュレーション技術を手掛けるロボット関連ベンチャー企業のMUJINが開発した。

 アスクルは2015年12月にMUJINと業務提携し、これまで物流向けピッキングシステムを共同で検討してきた。

 導入のテスト自体は、ALP横浜ではなく埼玉県にある「ASKUL Logi PARK(ALP)首都圏」の試作ラインで実施。今回、ロボット導入のメドが立ったことから、ALP首都圏での実証結果を明らかにした形だ。デンソー製の6軸ロボット「VS-087」とドイツIDS社製のStructured Light方式のステレオカメラを利用している(図2)。

 アスクルの物流センターでは、物流業向けの専用機械を用いて既に多くの工程が自動化されている。

 例えば、センターに入庫した商品は自動倉庫に保管されており、出荷する際は電子的な指示により、その対象商品が自動的に出てくるようになっている。段ボールへの梱包や梱包後の配送先別の仕分け(ソーティング)についても、自動梱包機やソーターなどで自動化済みだ。しかし、個別の商品をオリコン(折り畳みコンテナ)に出し入れするピッキング作業については、これまで人間が主体で実施してきた。

未開拓だったピッキング自動化

 物流分野における個別商品(ピース品)の自動ピッキングが難しいのは、扱う商品の種類が非常に多いからだ。アスクルの場合、2万種類ほどの商品を扱う。商品の種類ごとに形や大きさが異なるため、特定のワークを繰り返し扱う製造業でのピッキングと比べると難易度が高い。物流分野では、本誌が2016年1月号で紹介したように医薬品卸大手の東邦薬品が2200品種のピース品自動ピッキングを16台のロボットで実現した事例などがあるが1)、それほど広く普及しているわけではない。

 アスクルはもともとオフィス向けの通販事業を中心に手掛けていたが、2012年5月にヤフーからの出資を受け入れ、ヤフーと共同開発した個人向けの通販サービス「LOHACO」を同年11月に開始した。個人向け通販では希望の時間帯に受け取りたいというニーズが強い。このため、アスクルは2016年8月末、LOHACOにおいて1時間単位での配達時間指定が可能な新サービス「Happy On Time」を東京都と大阪府の一部地域で開始予定。こうしたサービスの実現のため、物流センター側の出荷能力も増強していく必要があり、ピッキングの自動化を決断するに至った。

3台のステレオカメラで商品認識

 アスクルがピッキングロボットを商用で本格導入するのはこれからであり、ALP横浜での詳細なライン構成などは未定だが、以降ではALP首都圏での試作ラインの様子を見ていこう。

 試作ラインでは、ローラーコンベア上を流れて来たオリコンに入った商品をロボットの吸引ハンドでピッキングし、別のオリコンに移す作業を実施している。コンベアの上部にはステレオカメラが合計3台設置してあり、これによりオリコン内部の距離画像を得て、商品の種類や位置などを推定する。

 扱う商品の3次元形状や表面のテクスチャーといった情報は、事前に本番環境と同じステレオカメラを用いてすべて計測し、データベースに登録しておく。水平回転するテーブルに箱状の商品を置き、回転させながら箱の6面を計測する。本番利用時は、ステレオカメラで得た1方向からの点群データやテクスチャー画像を、登録済みのデータとマッチングすることで、商品の種類や姿勢を認識する。

 もともと物流業では、ロボットで自動ピッキングを行うかどうかにかかわらず、バーコードなど商品に関する情報は全商品についてデータベースに登録している。このため、自動ピッキングにあたって点群データを事前登録することは、それほど大きな負荷にはならないという。

名門CMUでの研究成果が基に

 今回のアスクルのピッキングシステムを構築したMUJINは、2011年設立のベンチャーである。売り上げは自動車産業向けと物流業界向けが半々ほど。物流向けでも過去に導入実績はあるが、「ALP横浜のような大規模な導入は、物流向けではアスクルが初めて」(同社CEO兼共同創業者の滝野一征氏)だ。

 以降では、MUJINの技術構成を見ていこう。同社には、東京大学の技術移転を目的としたベンチャーキャピタルである東京大学エッジキャピタル(UTEC)が出資していることもあり、東大発ベンチャーと捉えられることが多いが、基盤の技術は米国のロボット研究の名門大学であるCarnegie Mellon University(CMU)での成果に由来している。MUJINの共同創業者でCTOを務めるRosen Diankov氏のCMUでの博士課程での研究成果2)がベースだ(図3)。