「人間の研究者が2年間実施していて成功させたことがなかった実験について、LabDroidによる探索で1カ月で成功条件を発見した」(夏目氏)といった事例が出てきている。

 例えば、慶応義塾大学は、新薬の候補となりそうな物質を探す「ハイコンテントスクリーニング」と呼ぶ作業において、人間では発見できなかった最適な条件をLabDroidを用いて見出した。候補物質を探す作業では、生物の細胞を人工的に培養し、その細胞を1個ずつバラバラの状態にして、96ウエルプレートに分注。各ウエル(穴)に候補物質を入れて、細胞への反応を見る。同大学は、この作業を行う上で必要となる「細胞分散」の作業の最適条件を見出した。

 一般に培養した細胞は「細胞塊」という複数の細胞が固まった集団の状態になっている。細胞分散は、この細胞塊が浮かぶ液体自体をピペットなどで吸い、吐き出す(ピペッティング)することで、力学的な操作で細胞の塊をバラバラの状態にする。ただし、あまりピペッティングをし過ぎると、物理的な衝撃で細胞は死滅してしまう。候補物質の探索で死滅した細胞が混じっていると、候補物質の効果により死滅しているのか、元々死滅しているかを区別できず不都合である。このため、細胞分散では、細胞の生存率は90%以上である必要がある。こうした細胞の生存率と1個ずつの細胞への分散度合いのトレードオフを両立させる必要がある(図4)。

図4 人間が見つけられなかった成功条件をロボットでの探索で1度で発見
培養した細胞の塊を1個ずつに分離する工程「細胞分散」において、人間の研究者が長らく見つけられなかった最適条件を、ロボットによる試行で発見した。(図:RBI)
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 また、細胞塊は単体の細胞(シングルセル)より重いため、ピペッティングの後、しばらく時間をおいて待つと、次第に下に沈み、容器の中間より上の層にシングルセルのみが浮かぶ状態となる。

本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 ここをピペットで吸うと、生きたシングルセルのみを抽出できるが、最適な沈降の待ち時間、最後にシングルセルを吸い出す際のピペット先端の最適な高さなどは、人間が実験している際は不明だった。LabDroidでの試行の結果、最適沈降時間は6秒、最適なピペット先端高さは3cmであることが判明した。

 LabDroidで見出した実験の成功条件は、同じハードウエアを用いれば、他の部署や機関でも容易に再現できる。このため、RBIとしてはライフサイエンスの知見を機関間で共有化しやすくなると見ている。現在、国内では10機関がLabDroidを導入しており(図5)、基本的には各社が自社の研究開発のために利用しているが、公開しても良いと思われる実験プロトコルは、LabDroid向け電子データの形でクラウドなどを介して他の拠点でも共有できる。RBIはLabDroid向け実験プロトコルや結果の電子フォーマットの国際標準化も視野に入れている。

図5 ハードやソフトの共通化により異なる拠点で実験プロトコルを再現可能
現在、味の素などの企業や東京医科歯科大学などの大学、理研などの研究機関など約10機関でRBIのLabDroidが稼働している。ハードやソフトは共通化してあるため、同ロボットで発見した実験プロトコルは他の拠点でも正確に再現できる。(写真:RBI)
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出典:2016年8月号 pp.18-21 日経Robotics
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。