いずれも開口部に特殊なパターンを設けて光線を符号化する点は同一であり、どのような開口パターンを用いるかが違いである。用いるパターンによって画像復元時の演算負荷や復元画像の画質などが変わってくる。

 LSSは、らせん状の微細なパターンを採用して光を回折させる方式注4)。画像復元のための回路などもセットにした評価モジュールを既に用意している。FlatCamはランダム(M系列)なビットパターンを採用している。

表1 主なレンズレスカメラ技術の一覧
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注4)らせん状にしているのは、さまざまな方向から来る、さまざまな周波数の光に幅広く対応するためである。

 今回の日立の技術は、これら従来のレンズレスカメラ技術と比べて、同心円というはるかに単純なパターンを用いているため、演算負荷が軽いことが最大の特徴である。被写体の情報を干渉縞という周波数情報に光学的に変換しているため、後処理では再度、FFTのみを施せば済む。通常のパソコンでリアルタイムに映像を再構成でき、動画としても十分利用できる負荷だ。

 ただし、開口で符号化する技術に共通する欠点は残る。復元した画像の合焦位置以外のボケ味の部分には、図5のように開口で用いた同心円パターンが現れてしまう。このため、画質は高くはない。「今回の技術は鑑賞用の画像撮影ではなく、あくまでセンサとしての計測用途を想定しているため、画質の劣化はそれほど大きな問題ではないと認識している」(日立製作所 研究開発グループ 情報通信イノベーションセンタ 光応用システム研究部 主任研究員の中村悠介氏)という。

明確な焦点距離の概念はない

 今回の技術はレンズを不要にする技術であるため、通常のカメラにある焦点距離やF値に相当する明確な概念はない。ただし、フィルムとイメージセンサの間の距離によって画角が決まるため、この距離が「焦点距離に近い概念といえる」(同社 光応用システム研究部 研究員の田島和幸氏)。例えば、フィルムとイメージセンサの間の距離を近づけると、より浅い角度の光にも対応できるようになり広角に、遠ざけると望遠側に近づく。

 ただし、裏面照射型(BSI)ではない一般的なイメージセンサでは、浅い入射角の光は画素間の壁(配線層)によって遮られ、垂直方向から30~40度の範囲の角度の光しかセンサに入らない。このため、フィルムとイメージセンサ間をあまり近づけても、撮像できる画角の広さには上限がある。今回の日立の技術でも、復元画像の外周部はこうした浅い入射角の光の減衰により、明るさが低下(周辺減光)している。

 F値についても今回の技術では明確に相当する概念はないが、フィルム上のパターンによる減光は50%である。レンズがないため、イメージセンサの大きさ(面積)がそのまま一般的なカメラの有効口径(面積)に相当する。

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 通常のカメラではレンズ口径を広げない限り、絶対的な集光力(明るさ)は向上しないが、今回の技術ではイメージセンサの寸法を大きくすれば、それがそのまま集光力の向上に直接寄与する。口径の大きなレンズは非常に高価かつ大型で重くなるが、今回の技術ではイメージセンサのみ大きくすれば感度や集光力が向上し、レンズの大型化などには悩まされずに済む。

1)Y. Nakamura, et al.,“Lensless Light-field Imaging with Fresnel Zone Aperture,” International Workshop on Image Sensors and Imaging Systems (IWISS2016), 2016.
2)進藤、「単眼の通常画像センサでステレオ匹敵の距離画像、口径分の視差使うカラー開口技術を東芝が開発」、『日経Robotics』、2016年8月号、pp.8-11.

出典:2017年1月号 pp.14-17 日経Robotics
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