この記事は、2016年に掲載した日経Robotics 有料購読者向けの記事ですが
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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

 ロボットの外装や手、指、足裏などにチップを“貼り付ける”かのようにして、カメラを装着できる。そんな技術を日立製作所が開発した。

 これまでのカメラで必須の部品だった光学レンズが一切不要。厚さ1mmほどのイメージセンサのみで被写体の映像を得られる技術「FZA(Fresnel Zone Aperture)技術」を開発した1)(図1、図2)。

 撮影時は、専用のパターンを印刷した薄い透明フィルムをイメージセンサの直前に貼り付けてシャッターを切るだけ。後は撮影後の画像処理によって、被写体の映像や距離画像を復元する仕組みだ。

 光学系の開口部などに何らかの工夫を施し、撮影時に光線方向などの情報を光学的に符号化して重畳。撮影後の演算処理で、この符号を基に距離画像などを復元するコンピュテーショナル・フォトグラフィ(computational photography)」技術の一種である。

 本誌では2016年8月号で、東芝が開発した、カラーフィルタを用いて距離画像を得るコンピュテーショナル・フォトグラフィ技術を紹介したが2)、日立は今回、カメラを「レンズレス化」するために、このコンピュテーショナル・フォトグラフィ技術を生かした形だ。

図1 レンズ不要で結像できる技術を開発
特殊なパターンを印刷したフィルムをイメージセンサの直前に配置して光線情報を符号化。画像処理によって結像させる。レンズを不要にしてコストを低減できるほか、カメラモジュールを薄くできる。
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 CPUの演算能力の向上を背景に、カメラのハードウエア自体はあえてシンプル化し、代わりにアルゴリズムの工夫によって距離画像など多様な情報を得られるようになってきている。それが、コンピュテーショナル・フォトグラフィ技術を興隆させている。

 カメラのレンズを不要とする技術は、ロボット技術にも大きな寄与がある。あえて“眼”のような部位を設けずとも、1cm角ほどの場所があれば、ロボットの体のほぼどこにでもカメラを付け、RGB画像や距離画像などを計測できるようになる。

 例えば、ハンドの指先や手のひらなどにレンズレスカメラを敷き詰め把持計画に生かしたり、小型ロボットで皮膚に当たる外装全面をカメラにしたり、といったことが可能になる。

壁一面のカメラや使い捨て可能に

図2 レンズレスカメラ技術で撮影した画像
数十cm離れた距離にある物体(リンゴ2個)を撮影し、パソコン上でリアルタイムに画像復元処理を行った(GPUを利用)。
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 「ソフトロボティクス」と呼ばれる、柔らかい素材を用いるロボットにおいても、ガラスや樹脂でできた硬いレンズが不要になるため応用しやすい。

 例えば、プラスチック基板上に有機素子でフォトダイオードなどを形成する、曲げられるタイプのイメージセンサと組み合わせれば、柔らかさを損わず画像センサを付加できる。ロボット本体以外にも、ロボットが活動する環境中で壁などの面をカメラにするなど、インフラ側でも応用できる。レンズがなく安価にしやすいことから、使い捨て型の画像センサとしても利用できる。

距離に応じて影の大きさ変化

 レンズを不要にできる原理は、比較的シンプルだ。一般にレンズを省略して、イメージセンサだけで撮像しようとすると、1つの画素にさまざまな方向からの光が入射して混ざり合い、像としての体をなさなくなる。